第8話 本当にごめんね…。あたし…。今回だけ、嘘…ついていい? 上

 「そうだったんですね…。僕はてっきり…」


 クラウト、セナスティ、アリッサとクレアから話しを聞いたアサトは、事の重大さに気付かなかった自分に少しだけ苛立ちを覚え、また、クラウトらに心配をかけさせ、考えさせてしまった事に恐縮をしていた。

 実際、その話を事前に聞いていても、どう対応していたのかはわからない。

 自分はブラントを殺したが、その殺したの感じは…。


 同じ人間族を殺した気持ちが、少しも湧き上がってはおらず、もしかしたら、殺しにためらいが無いのではと思っており、首と口から血を流し、息をしようと懸命にしている表情を思い出そうとするが……。

 鮮明には覚えておらず、本当に殺したのかも分からなくなっていたが…、ブラントが見ている先にいたのはアサトであり、その瞳には…。

 彼が最後に見たのは、まさしくアサトである事だけは、どこかに確定的に残っていた。


 「皆さんにご迷惑をおかけしました…。話してもらった内容…。そうですね。僕が決めるんですね…。ケイティをどうするか…その答えによって、ライザさんやロイドさんの処分も…」

 「アサト…」

 アリッサの言葉に、ジェンスのベッドに座っていたアリッサへと視線を向けた。


 「私とケイティは、この中では一番長く共にしていた…。弁明はするのでは無いけど、あの子は…そう言う子では無いわ…。でも、アサトが、彼女を外すとした決定を下したのなら……。いえ…。私とケイティの中を考えて、寛大な処分を下す…と言うのだけはやめて…、でなきゃ…」

 「そうですね…。」

 口元を押さえたアリッサに小さな笑みを見せたアサト…。


 すると……。


 「あっ、アル…」

 「やっ…」

 「ッチ…。ったく…。いるか?」

 「居るっすよ!!上でアサトの見舞いに女王が来て、そこで…」

 「あぁ~分かった…」

 ジェンスの言葉に返したアルベルトの声が聞こえて来た。


 「聞こえているんじゃ…ないですか?」

 アサトの言葉に一同が顔を見合わせてから、窓へと視線を送る。

 窓は閉まっているようであり、外にいた者らとは違い、腹から出している声で話している訳では無いので、聞こえてはいないと誰もが思っていた……。


 「ッチ」

 舌打ちをしてから病室に入って来るアルベルト。

 「あっ…」

 「邪魔するぞ……」


 病室の入り口に立っているビッグベアを見たアルベルトは、その腹を小さく小突いてから中に入って来て、アサトが上半身を起こしているベッドの前に立った。

 ベッドの脇に用意していた椅子には、セナスティとクラウトが座り、後ろにあるジェンスのベッドには、クレアとアリッサが座っている。

 その4人に視線を送ってから、アサトを見たアルベルト。


 「ここに女王が殺しの話しをしに来ていると聞いたから、来てみた」

 その言葉に目を細めたクラウト。

 「誰に聞いたんだ?」

 「あぁ?」

 クラウトを冷ややかな視線で見たアルベルトは、小さく息を吐きながらアサトへと視線を戻した。


 「サーシャさんからだ…」

 その言葉にメガネのブリッジを上げたクラウト。

 「なるほど……」

 「あぁ~、ここはいわば…。小さな裁判所みたいなものだ…。一方的にあいつらの処分を決めさせるのは、酷だと思ってな…。まぁ~、俺が、あいつらの弁護人として、ここに来た…という感じだな…」

 「裁判所?」

 裁判所という言葉は、聞いた事のあるような…ないような…。


 不思議な表情でアルベルトを見たアサト。

 「なんだ?裁判所…っていうんじゃなかったのか?」

 「いや…正しいと言うか…。実際は法廷と言うんだが……」

 言葉にしたクラウトを見たアサトと冷ややかな視線を送ったアルベルト。


 「セナスティ女王に、この制度の話しをエイアイさんと一緒にしたんだ…」

 「制度?」

 「あぁ~、法律と言う法制度の構築と、裁判という新たな法の執行機関の構築だ。」

 「構築?」

 「…そうだな…今の法律では、刑を決めるのは官僚クラスの者である。その為に一方的に罪を確定させ、刑を執行する…。それでは、罪人の立場があまりにも不利…。中には、何の罪も犯していないのに捕まり、刑を与えられる事もあると思われる。また、刑もまばらだ…。死刑や終身刑、禁固刑に労働刑…罰金刑と様々で、同じ犯罪でも刑をくだす者次第で、重くなったり軽くなったりだ…。これでは民主主義的な考え…」

 「民主主義的な考え?」

 クラウトは目を細めたところでセナスティが話を始めた。


 「…私は、どの種族も関係なく、平等にある為の国造りを考えていたの、その時、クラウトさんから提案があって…エイアイさん?という人から、この民主主義の考えを教えてもらいました。多くの問題はありますが、一つづつ整備をする…。その一つが刑法…と言う事で、どの種族にも関係なく、悪い事をしたら捕まえる…。守護兵は、後々警察機関という名目に変更して、罪を犯した者らを捕まえ、その罪を裁判という場で争う…」

 「争う?」

 「そうです…。そのモノが本当に罪を犯したのか、そうでないのか…。それを裁判官と言う者が判断をして…判決を出す…。罪なら刑を、無罪なら釈放を…。お互い、証拠や犯罪者の弁護をする者らを両立させて…でいいかしら?」

 クラウトを見たセナスティの前で、メガネのブリッジを上げたクラウト。


 「まぁ~、少しは違いますが、とりあえず、公平な判断を下す為の機関と考えてもらえばいい…。今なら…ケイティらが被告人…犯罪者だ。そして、セナスティ女王や私らが、ケイティらへの刑を望むモノらで…、アルベルトが…ケイティの弁護人だ…。まぁ~証人と言ってもいいかも…。そして、アサトが裁判官だ…」

 「裁判官?」

 クラウトの言葉に小さく驚いた表情のアサトには、内容が入ってきていない。


 …どう言う事?


 「そう、君が結論を出す…。我々は…望んではいないが、端的に言えば、ケイティらへの刑…。チームからの追放を要求している者らが私らで、アルベルトは無罪を要求している…と考えてくれればいい…」


 …そう言う事なんだ、僕が刑を与える…ってことなんだ、って事は……

 「なんか…責任重大ですね…」


 「そう…、裁判官は責任が重大なんだ、だから…」

 「もういいだろう…。とにかくだ。」

 クラウトの言葉を遮ったアルベルトを見た一同。

 「俺は殺した場面、そして、その後、あのチビガキたちを見たが…」

 小さく顎を引いたアルベルト。

 「俺から言えるのは…、あいつらは大丈夫だ…」


 その言葉にアサトは小さく視線を落とした。

 その意味は分かる。


 ケイティは、エギアバル監獄で、人間族と一戦を交える可能性に躊躇していた所があった。

 怖かったのかもしれない。

 そんな彼女が、カギエナであった事で、怒りを抑えることが出来なくなった。

 ただ…衝動的ではないが…、一時の感情で殺しに走った…で考えればいいのではないか…。

 でも…それは…。


 「あいつらには計画があって、実行をしたのは間違いではない…。だが、この世界では、訊くより経験で得る記憶と感情の方が重要に思える。俺は、何人かの同じ人間族の者を殺した…だが、いつも後味が悪い…。腐った世の中だ……。襲って来た者らなら、こんな感じは無いだろう…。あいつらは、無抵抗な者を殺した…だが、あいつらの逆鱗に触れた者らは…。話を聞くと、女王…あんたの母さんをも殺したんだろう?」

 冷ややかな目がセナスティを捉え、その視線に小さく顎を引いた。

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