第7話 全てが終わった後に… 上
「あぁ~、摂政閣下…どうかご慈悲を……」
クレミアの遺体を目にしたドミニクがロイドの前に膝間き、胸に縛られている手を持ってきて嘆願を始め、その姿に冷ややかな視線を送ったロイドとクラウディス。
「わたしは騙されていたんです…。クレミア、エルソアに…。私だけではありません…。他の者も…この親子が犯した罪で、私も殺す事は無いと思います。私も被害者…。説明できます。すべて…わたしがどう騙され。どう行動したのか…すべては国の為…王の件も、王妃の件、そして…皇太子の件も…」
「…いま、王と皇太子と言ったか?」
ロイドの小さく言葉にすると、目を見開いたドミニク。
「あ…。そうですが…。わたしはこの者らに家族を…」
「お前が王に毒を盛ったのか?皇太子は誰が?」
眉間に皺を寄せたクラウディスが叫んだ。
「あぁ~、やむなくです…やむなく…。皇太子は……。あっ、そうだ。どうですか、このわ…ぐふっ……」
嘆願しているドミニクを見ていたロイドは、小さく息を吐くと、彼の言葉を遮るように、手にしていた短剣を、大きく開いている首へと走らせたドミニク。
「がふ…がふ……」
声にならない声を発しながら、崩れ落ちるように横になったドミニクの口からは血が溢れ出し、切り裂かれた首からは、とめどなく空気を交えた血が溢れ出ていて、大きな泡や小さな泡が血の中で弾き割れ、ねっとりとした血がドミニクの首周りの地面に溜まり、口は小さく息をしているが、気管も切られたせいなのか思うように呼吸が出来ない状況で、口を小さく動かしながら、目を大きく開いて一点を見つめている。
その先には、進んで来るアルベルトの姿が映し出されていた。
胸での呼吸が困難になるのは時間はかからなかった。
斬られた首を手で覆っているドミニクは、次第に肩で息を始め、大きな血の塊を吐き出したと共に瞳孔が開き、肩の動きが止まった状況を見ているロイドの後ろからアルベルトが近付き、並ぶと、目を見開いて絶命をしているドミニクへと冷ややかな視線を送った。
ライベルに抱えられ立ち上がったケイティと、自力で立ち上がったライザは、目を見開いて絶命しているクレミアを見下ろし、ライザの傍にジュディスが来ると、クレミアを見てからドミニクへと視線を送り、近くでは松明が消えそうな状況であった。
「服を脱がせて海に捨てよう…」
ロイドの言葉に視線を送る一同。
「…こいつらの尊厳までも奪う…。」
「おい…そこまでしなくても…」
「いや…アル…。今回だけ…。私は、こいつが死んでも人の記憶に残るような殺し方じゃ無きゃ…許せなかった…。だから…ロイドに賛成する…」
ライザは言葉にするとしゃがみ、クレミアから血で染まった衣服を短剣で切り裂き始め、ジュディスもライザの行動に追随するかのように、ドミニクの服を斬り始めた。
その姿を見ていたケイティもしゃがみ、ライベルはイチモツをロープに結わえ始め、クラウディスもドミニクを脱がし始めている。
「…お前たち…、そこまで怒っていたのか…」
アルベルトが言葉にすると、ロイドが視線を向けた。
「怒りを越してしまっていたんだ…。あいつは、子供前で母親を犯し、首を刎ねたそうだ…。そして、こいつは…」
アルベルトから、クレミアを見て言葉にしたロイドは、ドミニクへと視線を移し、その視線を追ったアルベルト。
「王妃を犯させ…、その王妃は…俺の腕の中で死んだ……」
ロイドの言葉に目を細めたアルベルトは、一度、城を見上げ、南西の門の監視場にいるビッグベアへと視線を送った。
ビッグベアは事の成り行きを見ており、アルベルトに視線を合わせてから、その場を後にし、姿が見えなくなったビッグベアを確認したアルベルトは、ロイドへと視線を送る。
「お前たちの怒りの度合いはわからないが…。おれが何かを言える立場ではない…。だが…」
「あぁ~わかっている。今回だけだ…。殺す事と尊厳までも奪う事は…」
ロイドの言葉に、脱がし終えた遺体へと視線を送ったアルベルト。
「…捨てよう…、ここから捨てれば潮の流れで、遺体は2日~3日後には、近くの漁港にあがる…。」
ロイドが動き、ライベルがクレミアにイチモツのついたロープを首に巻いて持ち上げ、その傍では、クラウディスとロイドがドミニクを持ち上げていた。
「死んでいるのは確認した…行くぞ」
クラウディスが言うと、小さく頷き、ドミニクを崖から海へと放り投げ、時間をおかずにライベルがクレミアの遺体を崖から放り投げた。
しばらく海を見ていた3人の後ろで松明が消え、薄い月明りにケイティとライザ、ジュディスにアルベルトの姿がぼんやりと浮かび上がり、その先にいるロイドとクラウディス、ライベルの姿を、城の最上階にある一室からセナスティとエルミアが見ていた。
「ごめんなさい…。あなたのお
「いや…。俺は親父を生かしておいてもらっただけでも、セナスティの寛容さに感謝している。兄貴は昔から横暴な人で、俺に刃を向ける程の自分中心だった人…。」
薄く動いている影を黙って見ているエルミアは、小さく息を吐きだしてからセナスティへと視線を移した。
「親父がとった行動は謝る事ができない。今でも親父を死刑にしたいと思っているんだろう?」
エルミアの言葉に小さく顎を引いたセナスティ。
「いいんだ…。でも、その時は俺に言ってくれ…」
「え?」
視線をセルミアへと向けると、そこには小さく笑っているエルミアの表情があった。
「…前も言ったけど、親父の首は俺が刎ねる…。誰の手も煩わせない……」
その言葉に小さく顎を引いたセナスティは、崖から引き揚げて行くロイド達へと視線を送った。
「ありがとう…兄さん……」
西の廊下で一部始終を見ていたクラウトとクレア、アリッサの姿がある。
「…ケイティ……」
「あんなの見たら、明日からどう接すればいいかわからない…」
アリッサは口を押さえて引き上げて行くロイド達の姿を見ながら小さく言葉にし、クレアも目を細めて言うと、クラウトは小さく顎を引いた。
「明後日…セナスティ女王に来てもらい、アサトに話そう…」
クラウトの言葉に視線を向けたアリッサとクレア。
「僕はアルから話しを聞いてくる。ケイティ達の状況を…」
「状況?」
クレアの言葉に視線を向けたクラウト。
「彼女らが、どう言う気持ちで行ったか…。あいつは客観的にモノを見る事ができる。それに…。あいつは同じ人間族を殺した事があると言っている…。」
「アルさんが?」
「マジ?ってか、そんな気はしていたけど…」
「サーシャさんが言っていた事。一番近いのは、アルベルトだ…。だがあいつは、止めはしなかった。むしろ…」
「経験をさせた…ってところかしら…」
クレアの言葉にメガネのブリッジをあげたクラウト。
「あいつは殺しはうまいが、一線を持っている。その瞳に、彼女らがどう映ったか……」
クラウトの言葉を聞きながら、消えて行くケイティらの姿を見送ったアリッサの姿が西の通路にある窓に見えていた……。
城門を出た橋の向こうに見た事のある神官服を確認すると、小さく舌打ちをして、腕組みをしながら橋を進み、渡り切った場所で、待っていたクラウトへと近づいたアルベルト。
「それで…」
クラウトの言葉を聞きながら、足を止めて振り返り、城を見上げてから止めた足を進め出したアルベルトは、クラウトの横を通り過ぎようとした時に言葉にした。
「…あいつらなら大丈夫だ…」
通り過ぎたアルベルトを、メガネのブリッジを上げて見たクラウトは、小さく顎を引いていた……。
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