第6話 ケイティ・ライザ・ロイドの誓い 上
「なんだぁ?」
ベッドに横になっている姿が動き、座っていた者が小さく視線を動かすと、横になっているクレミアと座っているドミニクの姿が確認できた。
髪の長い男が立ちあがりクラウディスと並び、その傍には、国王軍が身に着けているマントを付けている見知らぬ者が2人、ロイドを見ている。
「すまないな…。お前たちに迷惑をかける…」
その言葉に一人の男が笑みを見せた。
「いえ…ロイドさんの役に立つなら…何でもします」
「そうですよ…領主が命令を出して、我々が動くのは当たり前です!!」
「そうか…すまないな…」
「謝らないでください…。王都へ来れただけでもうれしいし。こんな大役…」
「えぇ~、そうですよ。胸を張って故郷に帰れます!!」
その2人を見て小さく笑みを見せたロイドは、髪の長い男のライベルへと小さく頷くと、腰につけている小さなバックから布袋を取りだして2人へと渡した。
「え?」
「なんですか?」
小さく驚いた兵士ら。
「今はわずかだがな…。今回の失態で、おれはお前たちを故郷へと返す事になる。お前らが王都で10年…兵士で仕事をしたと考えれば…」
袋の中身を見た兵士らは目を見開いた。
「待ってくださいロイド様。こんなのは期待していません」
「そうですよ…10年って言っても…。」
「とりあえず、今回のは手付金だと思ってくれ、残りは、後から届けさせる」
「えぇ~」
「そんな……そこまでしてもらわなくても…」
「よし、金勘定はあとからだ。おれが責任を持って届けてやるからな…さぁ~仕事だ!!」
クラウディスが声を出し、兵士はポケットに布袋をしまった。
「段取りはいいな…」
「はい…、ここに賊が忍び込み、こいつらを拉致した…」
男がクラウディスを見て言う。
「よし…。お前たちは…縛られて気を失っていた…ところを俺達に見つけられた…。まぁ…そう言う段取りだったが…お前たちは俺らが縛って、交代が来るまで…」
クラウディスの言葉に一人の兵士が大きな笑みを見せた。
「えぇ~。俺達もそう思っていました。でなきゃ、なんか変だし…」
「縛られたままで朝までいようと話してました」
男たちの言葉に顔を見合わせロイドとクラウディス。
「じゃ…頼むわ…」
ロイドはクラウディスに声をかけると、ライベルと共に兵士をロープで拘束し始めた。
「それじゃ…」
進み出すロイドの先では、ケイティが柵を掴んで中を見ており、柵の向こうでは薄気味悪い笑みを見せているクレミアの姿があった。
「なんだガキ…殺しに来たのか?」
「そうだよ!!」
「へぇ~、俺たちは、女王から恩赦を貰おうと投降したんだ。そんな俺達を殺すぅ?バカじゃないのか?捕まるぞ!!死刑だぞ!!」
その言葉に、目を細めたケイティの後ろに、ロイドの姿を見たドミニクが口角を上げた。
「次期摂政…かな?」
「…あぁ…。そうだ…」
その言葉に小さく何度も頷いたドミニク。
「…ほう…。えらくなりましたな…次期摂政…。」
「お前らのおかげでな…」
「なら…ここから出せよ!!」
立ち上がった灰色の囚人服を着ているクレミアの姿には、以前のようなお高く留まっているイメージが無い。
「あぁ~、そうだな…今日は、お前たちを自由にしてやろうと思ってここに来た。」
「おっ!マジか?」
声を上げたクレミアの傍で目を細めたドミニク。
「あぁ~、摂政の権力を使ってな…うれしいか?」
「あぁ~」
股間を押さえたクレミアは、小さく小躍りを見せた。
「もう溜まってたまって…。黙ってでもチンコがおっきくなってしまう…。こんなガキを見ていてもな…」
柵越しに顔を近づけたクレミアの表情を見ていたケイティは、声を張り上げた。
「ロイド!早く!!」
その言葉にドミニクが立ち上がった。
「待ってくれ、次期摂政」
その言葉に視線を向けるロイド。
「その申し出を断ったら?」
「あぁ?」
ドミニクへと怪訝な表情を見せたクレミア。…と。
「いいぞ、準備は出来た」
ロイドの背後からクラウディスとライベルが現れ、柵についている扉へと向かった。
「さっきの話だと…。おかしな解放の仕方だな…」
「あぁ?そうか?」
再び声を出したクレミアを、目を細めて見てからロイドに視線を向けたドミニク。
「…解放の仕方が気にくわないか?穏便に行こうと思ったが…。まぁ~、ちょっと変だけど…いいぞ!!」
ロイドの言葉にクラウディスが扉の鍵を、ロングソードの剣先を使って壊すと中に入り、続けてライベルが檻の中に入って、クラウディスはドミニクに向かい、ライベルがクレミアへと進み、クレミアの腹に一発きついのをお見舞いすると、ロープで手を結んで猿轡をし、その傍では、抵抗をせずにドミニクが拘束された。
そのドミニクに視線を向けたロイド。
「解放の仕方は色々ある…。覚えておくんだな…」
その言葉に眉間に皺を寄せたドミニク。
「行くぞ!!」
ロイドの言葉にライベルがクレミアを連れ、クラウディスがドミニクを連れて檻から出てくると階段を進み出し、一度拘束されている兵士らを見て小さく笑みを見せたロイドが続き、クレミアから視線を外してないケイティとライザが最後方を進んだ。
階段上り口では、松明を手にしているジョディスが冷めた表情で見ている。
そのジョディスを先頭に階段を上がり踊り場に出ると、他のロイドの仲間が合図を送り、その合図に踊り場を抜け、海岸に出るフロアへと続く階段を降りた。
フロアからジョディスが扉を開け、一度、外の状況を見てから中にいるロイドへと小さく頷き、その行動に同じように返したロイドを見て、ジュディスは外に出て、右側の城の壁沿いに駆けあがっている小道へと進み始めた。
ジュディス、クレミアを拘束しているロープを持つライベル、その後ろをドミニクとクラウディス、ロイドにケイティ、そして、ライザの順で道を進んだ。
10メートル程上がった場所には、小さく拓けた場所があり、その向こうは崖となっていて、波が荒々しく打ち寄せている音が聞こえ、坂を登る足音が次第にかき消され始めている。
もう少しで坂を上り終えそうなところでジュディスが立ち止まり、その動きに一同が前方へと視線を送ると、うっすらとした月明りの中に、小さく動く形が見えた。
ロイドは小さく顎を引きながら先頭のジュディスに並び、松明を下に傾けてから、ゆっくり進んで、松明を上げてその姿を確認すると、小さく舌打ちをする音が聞こえ、壁に背を預けていた形が動き出した。
「あっ…」
「アル?」
後方からケイティ、ライザの声が聞こえ、その言葉に一度振り返ったロイドらは、動いている姿へと視線を戻すと、ゆっくりと腕組みをして進んでくる姿は、頭からフードを被り、腰あたりまである外套で身を隠し、腕組みをしている状態だったが、何かを抱えているように見えた。
ロイドの傍を通り過ぎる姿…。
「…ッチ、ったく、悪いな…。次期摂政…」
その言葉に通り過ぎたアルベルトを見てから、向かってゆく先にいるケイティとライザを見ると、小さく目を見開いている2人の姿が確認でき、その前に立ったアルベルトは、顎を上げてフードの奥から2人を見た。
「…ったく、お前らは…」
その言葉にケイティが視線を鋭くし、ライザは小さく顎を引いてアルベルトを見た。
その視線を確認したアルベルトは…。
「…覚悟は決まっているようだな…。でも…」
言葉を言うと、抱えていた物を2人へと投げ、その物を抱えている両名に向かい、再び、小さな舌打ちをした。
「…悪いな、摂政。こいつらは俺の弟弟子みたいなものだ。こう言う事をさせるつもりでいた訳じゃないが…。まぁ~、表情から言って、覚悟は決まっているようだ…。だから…」
視線をケイティへと向けたアルベルト。
「そいつを着てフードを目深に被れ…。正体は明かすな。抜かりなく行動しろ。そして…責任を持って生きるんだ…」
アルベルトの言葉に外套を見たケイティ。
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