第5話 平等な命の中で殺めていい事実 上

 女王の執務室に入ったアリッサとクレア、そして、セナスティにビッグベア。

 セナスティの専属護衛であるビッグベアは、アリッサらにも周知の仲なので、同席をする事を承諾し、長いソファーにクレアとアリッサ、向かい合ったソファーには、セナスティが座り、執務室の入り口でビッグベアがセナスティらを見ている。


 メイドがお茶を運んで部屋を後にすると、一度、廊下を見渡したビッグベアは扉を閉めて扉の前に立ち、再び3人へと視線を送り、小さく頷いて見せた。

 その姿を見たアリッサが話を始める。


 「今日、ここに来たのは…。私のチームのケイティと、クレアさんのチームのライザさん。そして…。ロイド様が、拘束されているクレミアとドミニクと言う方を殺害しようとしている件です。」

 その言葉に、驚いた表情になったセナスティに、目を細めたビッグベアの姿がある。


 「え?…お兄様が?」

 その言葉に頷いたアリッサ。

 「クレミアに対してのケイティとライザの憤りは、測りかねますが…」

 「丁寧な言葉で言わなくてもいいわ。アリッサさん…普通に話して…」

 その言葉に顎を引いたアリッサ。

 「…じゃ、お言葉に甘えて…。」

 セナスティが小さく頷く。

 「彼女らの話しを訊いたの…。西にある門の傍で…。そこでは、最初はロイドさんから、彼が幽閉されている場所を聞き出そうと思っていたようだけど……」


 コンコン…。


 扉がノックされた音と共に、話を止めたアリッサとクレアが扉へと視線を移し、セナスティが視線を向けてビッグベアに小さく頷いて見せると、その動作に扉を開けた。

 扉の前にはクラウトが立っており、中の様子を見てからメガネのブリッジを上げる。


 「クラウト…」

 「話はアルから聞いた…。同席しても?」

 クラウトの言葉にセナスティが小さく頷いた。

 「アルさんが…。って、なんで知っているの?」

 その言葉にクラウトが中に入って来て、セナスティに一礼をしてから、一人掛けのソファーへと腰を落とした。


 「君も見たそうだが、アルも門から入って来た時に、君が路地に入って行くところを見て後を追い、その状況を見たそうだ…、大まかな内容は聞いたが…。」

 「…そうなんだ…。でもどこで?私以外はいなかったと…」

 「君の後ろで見ていたそうだ…」

 その言葉に小さく考えたアリッサ。

 「まぁ~、いいわ…それじゃ…。続きを話すわ……」

 アリッサは、路地裏で聞いた話をセナスティとクラウトに語り、その他にカルファの診療所で、サーシャと話した内容と、ケイティ達が出て行く時に言った言葉を事細やかに説明した。


 少しだけ重い空気が流れ、話し終えたアリッサはクラウトを見ており、クラウトはメガネのブリッジを上げ小さく顎を引き、腕組みをしてソファーに背中を預けたクレアと扉の前で目を細めて見ているビッグベアの姿があった…。

 しばらく続いた沈黙の中で、セナスティが言葉を発し始めた…。

 「さっき…城内の廊下で、ケイティさんとライザさん…そして、ロイド兄さんとすれ違った…。彼女らは、ロイド兄さんのコレクションを見る為に、城に来たって言っていたけど…。そう言う事だったのね…」


 再び、静まり返った部屋に重苦しい空気が流れ、外で作業をしている音が、小さく響き、声も聞こえる…。

 暗くなったので、今日はここまでと言う号令が聞こえると、会話をしている作業員の声が聞こえ、城の一室を借りて飯を食う話をしている中に、タイロンの声が聞こえて来た。

 「じゃぁ~、また明日…」

 どうやらタイロンは、カルファの診療所へ行くようで、ポドリアンの笑い声がえげつなく響いていて聞こえた……。


 そんな声が聞こえる中でセナスティが口を開いた。

 「あの後…。兄さんから、お母さまが亡くなった時の状況を教えてもらったわ…。最初は嘘の内容を教えてもらったけど…。最終的には…。ここで話す事は他言無用でお願いします…」

 セナスティの言葉に視線を向けたクラウトにアリッサ、クレア。


 「…私のお母さんは、ドミニクが用意した衛兵に守られてオルフェルスへと向かった…その途中で……犯されて…」

 目を細め、テーブルのカップに視線を落としたセナスティ。

 「セナスティさん…無理に…」

 アリッサの言葉に首を振ってから、振り絞るように話を再開した…。


 「ドミニクが用意した衛兵に犯され…。ロイド兄さんたちが着いた時には、もう…ボロボロの状態だったみたい…。お兄さんは、オルフェルスにいる叔母様の所へ行こうと言ったようなんだけど…。こんな哀れな姿を…。私やセナスラルには見せられないと言って…。自分で首を斬った…ようなの…。遺体は…オルフェルスの叔母様の宮殿で保管している…。もう…灰になっているけど、ロイド兄さんは…、私の前で泣いて謝った…俺がもう少し早く到着していれば…って……」

 セナスティの言葉に目を細めたビッグベアは、小さく顎を引いた。


 「…その話を聞いて…、正直…。ドミニクを殺したいと思った…。投降して来たクレミア、エルミアの異母兄弟に、エルソアも…。ドミニクは…。」

 小さく唇を噛みしめたセナスティは、深呼吸をしてから話しを続けた。

 「刑の裁量を任せられても…。あれから、お兄さんはドミニクの死刑を口が酸っぱくなるほど言っていた…。クラウトさんが言うように、この戦いは、死んだ、殺されたの人情ごとや、復讐心で行う事では無い…その言葉は…。彼らへの死刑をためらわせている…。もし私が、彼らに死刑を…いえ…」

 セナスティうっすらと涙を浮かべて、アリッサとクラウトを見てから、クレアを見た。


 「私は…心の底から、彼らへ死刑を言い渡したい…。出来るなら…この手で…彼…ドミニクを殺したい……」

 両手を小さく上げ、その手を見た一同。

 「…でも……私がこう思っている内は…どこかに復讐や恨み…。人情事を入れている……。エルソアに生きる事を許しただけでも…後悔をしている自分がいる…。そんなわたしは、もしかしたらケイティさんらと少しも違わないのかも…」

 その姿を見たクラウトはメガネのブリッジを上げた。


 「我々は知性の備わった生き物です…。女王の言っている事は、今の私達には、正論なのだと思います…。人を許す寛容さを身に付けるには、まだ…未熟な経験にある思考さゆえ…。その言葉を意味だたせているのが…サーシャさんの言葉だと思います…」

 「サーシャさんの言葉?」

 アリッサがクラウトに訊き、その言葉に頷いて見せたクラウト。


 「彼女らを止めたいのなら、それだけの理由を用意しなければならない…。これは僕の考えだが…。たぶん。その理由とは…。殺めた事実…、マモノでもあるが、一番大きな要因、それは、同じ種族を殺めたと言う事実なのでは無いだろうか…」

 「人を殺した…と言う事?」

 クレアの問いに小さく頷くクラウト。


 「実際、我々はマモノを狩っている現状であるが、その命の重みは、捉えるモノによって違うと思う。だからアサトは、我々が目にした事のないような行動をとる…」

 「それは?」

 セナスティが訊くと、合唱のポーズを見せ、小さく黙とうをしてからセナスティへと視線を向けた。

 「少なくとも、アサトの中には、命の重さは平等であると言う考えがあるのだと思っています…、だから黙とうをしている…。それが彼の感じている命の重さであると僕は思っています…。だが、命の重さには優劣を付けてはいけないが、同じ人間族は捉え方が違う…。それは、同じ形の者であり、同じ思考や理性を兼ね備えた、同じ生き物…。その命を奪うと言う事は…」

 「なんとなく分かるわ…」

 アリッサが言葉にした。


 「敵とは思えない…。殺そうとしても躊躇してしまう…」

 クレアの言葉にメガネのブリッジを上げたクラウト。

 「我々が狩猟者である事が前提で、マモノは狩りの対象…。それが、我々が持っている『』と言う逃げ口…。だが…」

 「狩りの対象は、人は含まれてないもんね…」

 再びソファーへと背中を預けたクレア。

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