良心を信じる 下

 その頃……。


 城の前にある拓けた場所では、十数人のオークやオーガ、人間族に混じってポドリアンとタイロンが、馬車についているような黒い板の大きくしたものを、十数本の鉄のパイプを立て、その上に設置していた姿を、クラウトとエイアイが見ており、近くには、四角く大きな箱が設置され、後方にある城へと、ココにも十数人のオークやオーガ、人間族の者らが小さな堀を掘っている姿があり、城では、奇妙な…、エイアイの話しでは機械的な作業の音…が聞こえてきている。


 「至急設置しなければならないとは…。どのような案件が発生したのですか?」

 クラウトの言葉に丸渕のメガネがクラウトを捉えた。

 「国の内乱が収まったところで、我々が直面するであろう事態を報告しなければならない…」

 「直面する事態?」

 「…。まだ未確定な部分もあるがね…。それを見て女王がどう判断するか…」

 「…」

 エイアイの言葉に目を細めたクラウト。


 「いずれ…事態は世界を飲み込む大戦になる…。とだけ、今は言っておこう…。それに…」

 「それに?」

 「うむ…。次の軍事大臣の候補の推薦も兼ねて…」

 「軍事大臣ですか……」

 クラウトはエイアイから太陽光パネルを設置しているポドリアンとタイロンへと視線を移した。


 …世界を飲み込む…直面する事態とは……。


 2人の作業風景を見ながら小さく考え、メガネのブリッジを上げていた…頃…。


 黒鉄くろがね山脈の向こうにあるデルヘルム、ギルド・パイオニアのマスターの部屋では、アイゼンが机に数枚の写真を置いてから立ち上がり、後方にある窓から外の風景を見ていた。

 その後ろ姿を見ている緑を基調とした迷彩服のイィ・ドゥと人間族の者4人が、机の向こうにあり、置かれた写真に映し出されているモノは……。



 王都にあるカッフェでは、バネッサとジェンスがパッフェを食べていた。

 「なぁ?うめぇ~だろう?俺も初めてなんだけど、ケイティがすっげ~うまそうに言うからさ!どんなもんかなって…なぁ?うめぇ~だろう?」

 「うん…。と言うか…。初めて食べたのにそのテンション…。ジェンスさんらしいわ…。でも、まだ出て歩けないんじゃないの?」

 心配そうな表情を見せた。

 「大丈夫。ってか、大丈夫だって言ってんのに、あのヤブ、絶対にダメだってしか言わないんだ!俺にはアサトみたいに悠長に寝ている時間は無いんだつうの!!」

 「なにかしなきゃなんないの?」

 口にクリームをつけた状態のジェンスが、目を見開いてバネッサを見ると、その表情に思わず笑い声をあげた。

 「もうジェンスさんたら…」


 王都の外では……。

 「レニィさん…だいぶ良くなりました!」

 大きな爆発音と共に衝撃が360度の円を描いて去って行く姿を見ていたシスティナが言葉にして、大きな笑みを見せたレニィ。

 「そうね…。本物の魔法使いが教えてくれているんだから」

 システィナの傍にいたテレニアの言葉に、頬を赤らめたシスティナ。


 「そろそろ帰るぞ。暗くなって来た…」

 ロマジニアが辺りを見渡しながら言葉にすると、そのロマジニアへと視線を向けたレニィ。

 「なんだ、愛娘に会いたいのか?子離れできないのか豹男!」

 ちゃめっけたっぷりにレニィが言葉にすると、鼻をならして空を見上げた。

 そして…。

 「まぁ~な…」

 その姿を見て小さく笑い声をあげている3人らが、帰るべき場所では……。

 診察に来ない事に、いら立ちを見せているカルファの姿があった…。


 「ったく、誰が外出許可を出した!!だれが!!」

 その近くで、リュッコが小さく困った表情を見せている…。


 「ジェンスさん…早く帰って来て……。」



 「ねぇ~なんでアルがぁ~、一緒に城に行こうって言うの?なんでぇ?」

 クレアがアルベルトを見ながら言葉にしていた。

 城の前にある橋の先に立ち、高い壁を見上げているアルベルトの隣では、クレアがアルベルトから離れず、アリッサが門兵に女王との謁見を申し出に向っていた。

 「ねぇ~どうして?もしかしてぇ~、あたしと…」

 「ッチ、ったく、お前は黙っている事ができないのか?」

 「えぇ~、これでもぉ…今日は静かな方なんだけど…ってか教えてよ!なんでお城に?いいわ…。当てちゃう!城の中を見たいんでしょう!ならあたしが案内してもいいわぁ~」

 「ッチ…ったく。デブ髭を探していたら、テレニアがし…」

 「はぁ~?」

 アルベルトの言葉を遮って、顔を近づけたクレアに小さく目を見開いたアルベルト。


 「なに?テレニア?あの腐れエルフを呼び捨て?ほんと付き合ってんのぉ?あの子、ってか、エルフって長寿なのよ!!もしかしたら私達が3度生き返って送った人生を、生きているかもしれないのよ!!ねぇ~アル?お化けよ。エルフって!!」

 「ッチ。ったく…、盾女はまだなのか?」

 視線を門兵と話しているアリッサに向けた姿を見たクレア。

 「あぁ~、なになに?今度はアリッチなの?ねぇ~、どうして?なんであたいを見てくれないの?ねぇ~」

 「ッチ…」

 舌打ちをして何かを言おうとした時に、アリッサがこちらを見て手招きを始めた。

 「…おまえはここにいていい…地面と会話してろ…」

 吐き捨てるように言ったアルベルトは進み出し、その後ろ姿を怪訝な表情で見たクレア。

 「地面が会話してくれるわけないじゃない……」


 大きな跳ね橋を渡ると、重そうで見上げる程の城へと続く門の扉が、重い音を上げながら小さく開き、そこを通り抜けるアリッサにクレア、そして、アルベルト。

 門を抜けると100メートル程の道がまっすぐに伸びており、その先には、レンガ色の壁を持っている城が、高々に聳える4本の塔を備えて鎮座し、クロウに壊された壁を修理しているような音が鳴り響いていた。

 しばらくその道を進んでいると、巨体を伴って進んで来る白く長いドレスを着た女性が見え、その姿がセナスティとビッグベアと確認したアリッサは、アルベルトを見た。

 「あの方が、次期女王のセナスティ皇女で、そばにいるのが…衛兵長のビッグベア…。クイーンズガードです」

 「クイーンズガード?」

 「まぁ~、女王専属の衛兵ってところね!!」

 アルベルトの言葉に返したクレア。

 「…まぁ~いい……」

 アルベルトは何かに気付いたのか立ち止まり、城のそばで何かを作業している風景を見た。


 「アリッサさん!クレアさん…。」

 セナスティの言葉に片膝の姿勢を取るアリッサとクレア。

 「…いいですよ。そんなことしなくて…ところで?そのお方は?」

 セナスティの言葉に片膝の状態で振り返った両名。


 「アル!!礼をして!!」

 「あぁ?」

 アルベルトは冷ややかな表情でクレアを見てから、セナスティへと視線をむけた。

 「…。おれは、この世界のモノではない。だから…悪いな。ここには人探しに来ただけだ。デブ髭…。あぁ~~、あそこにいたから…いい…。またな…」

 小さく手をあげると道を外れ、作業をしている方向へと進み出した。


 「すみません…ご無礼を…」

 「いえ…彼は誘われし者ですね。その言葉は正しいのかも…。それに…。なんとなく安心できる人ですね」

 去ってゆくアルベルトの後ろ姿を見ているセナスティを、怪訝そうな表情で見上げたクレア。

 その様子を見たアリッサは…。


 …クレアさん……。


 そのアルベルトが振り返った。

 「あぁ~言い忘れた……」

 その言葉に一同がアルベルトを見る。

 「…ッチ、ったく。まぁ~いい。俺からクソ眼鏡に言っておくから、お前たちは女王様と話していろ」

 その言葉に顔を見合わせたアリッサとクレア。


 「え?」

 「アル?」

 その言葉を聞かずに、振り返り作業をしている方向へと進み出した。


 「クソ眼鏡?って…それに…なにか話でも?」

 セナスティの言葉に立ち上がったアリッサとクレア。

 「はい…。すみません女王。急遽、内密にお話がしたくて…」

 「内密?」

 その言葉に辺りを見渡したアリッサ。

 「できれば…3人で…」

 アリッサの言葉にビッグベアを見上げたセナスティは、目を細めているビッグベアを見てからアリッサらへと視線を移し、城へと案内を始めた。

 「…とても大事な要件のようですね…」

 「えぇ…」

 セナスティの言葉にアリッサが短く答え、4人は城の中へと消えて行った……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る