第3話 3人の思いが交差した時… 上

 朝食を終えたケイティが、病室の入り口からアサトを見ていた。

 今日から動けると言う事であったが、規則正しい呼吸を発しながら寝ている姿に、小さく顎を引いた傍にライザが現れる。


 「ケイティ…」

 「やっぱり…無理…。黙ってやる…」

 その言葉に、肩に手を乗せた。


 「分った…。なら…私も付き合う」

 ライザの言葉に振り返ったケイティ。

 「ライザ…」

 「夕べ、セラとレアが泣いている声を聞いた。それにサーシャさんの言葉…。確かにサーシャさんは正しいけど…。あの状況を見ていなかった…。あいつは私を蹴ったし…。もし女王が、あの男が言うように恩赦を与えたら…って思ったら…。それに…私には経験がある。」

 「経験?」

 「うん…。こう言うのでの殺しは無いけど、頼まれた時には…」

 カギエナで、ライザが遺体の中にいた女性のこめかみに、短剣を突き立てた姿を思い出していた…。


 「どういう気持ちになるかは…わからないけど…」

 「チームから外されるかもしれないよ…それでも…」

 「ケイティだって、そう思っているんでしょう?だから…弟弟子を見に来たんでしょ?」

 ライザの言葉に小さく顎を引いたケイティ。


 「…もし外されても…後悔はしない…。レアと共に生きてもいい…。」

 「…そうね…。私もやるけど、ココで約束して」

 「約束?」

 「そう…。クラウト君が言っていた、死んだ、殺されたの人情ごとや、復讐心で行う事では無い…それは正論。だから…誓って。…。」

 ライザはケイティの瞳を見て言葉にし、その言葉に小さく頷くケイティ。

 「……」


 「そう…。今回だけ…。私達は、生かしておいてはいけないモノを殺す…。それは決して正義では無い。レアの教育にも悪い…。でも…誰かがやらなきゃ」

 「うん…その汚れ仕事…。私達が…」

 「やる!!」

 最後のヤルの言葉は、ライザも一緒に発していた。


 ケイティもライザもわかっている。

 これは道理には合わない事、そして、道徳的ではない事で、奪っていい命なんてない事も分かっていたが、体の奥から湧き上がってくる憤りは、城の広場で拘束されていた時の、クレミアの表情と言葉を思い出すだけで最高点に達していた。


 セナスティに処遇を任せる事で、クラウトやアリッサ、クレアから言われ、一度は殺す事を諦めたが、ライザの言っていた恩赦が気になっており、レアがサーシャからひと時も離れない事は、母親を恋しがっているとも感じ、セラは人を殺めた罪悪感を内に秘め、サーシャの母性に爆発させている状況は、一番年上のアリッサや包容力のあるシスティナにさえも見せなかった姿に、自分らの存在を小さく感じさせ、血は繋がって無いが、彼女らは、心のよりどころが欲しかったのだと感じた夕べ、真剣に考えた。


 クレミアは、もし死刑であっても自分が殺さなきゃ、レアに対し、また、セラに対しての責任が、負えないような気がしていたのである。

 間違った解釈かも知れないが、レアが助けを求め、その目の前で母親を殺したクレミアは…自分の力で……。


 「城のどこにいるか探らなきゃならない…。時間が少しかかる」

 ライザの言葉に何かを思いついたケイティ。

 「…いや、ライザ。いい奴がいる!」

 「いい奴?」

 「そう…、毎日、飽きもせずに求婚に来る、おバカな摂政候補…」

 「あぁ~、あいつね…」

 「そう、あいつ…」

 「どうやって聞くつもり?」

 「…うぅ~ん。とりあえず、城に連れて行ってもらおう。私があいつを相手にしている内に、トイレに行くとか言って…」

 「いいね!その案。よっしゃ。あいつが来たら作戦開始だね!」

 ライザの言葉に小さく頷いたケイティは、再び病室中央で眠っているアサトを見た。


 「…ごめんねアサト。……許して……。」



 昼御飯を食べ終わった頃に、そいつはいやおう無しに現れる…。


 「いやぁ~、ほんとすみません…僕まで御飯を頂いて…ほんと、すみません…すみません……」

 頭を掻き、顔を撫でながら食卓に就いたロイド。

 茶色生地の短いマントに髪はぼさぼさの姿は、皇族には決して見えない身なりであり、その容姿に屈託の無い大きな笑みを見せて、毎日のようにアリッサに求婚に来ていた。


 「あなたが次期摂政さんなのね…」

 「おぉ~、いやぁ~、たまげました!!この麗しき女性は…」

 立ち上がりズボンに掌をこすり付けてから、右手を差し伸べたロイドを見たサーシャ。


 「デルヘルムから来ました。ギルド・パイオニアのサーシャよ。よろしくね摂政さん」

 手を握ると…、…なんとなく、汗のようなヌメっとした感覚に、眉間に皺がよる。


 「いやはや……」

 サーシャが手を離し、その手を見ている先で、再び髪を掻き乱しながら席に就いて、運ばれてきたスープを口にしたロイド。

 「デルヘルムですか…」

 「え…えぇ~」

 やけにつやつやしているロイドの頭と、自分の掌を交互に見ているサーシャが小さく答えた。


 「そうなんですか…。いやぁ~、デルヘルムにはベッピンさんが多いですね!!アリッサさんを筆頭に!!」

 厨房で皿を洗っているアリッサへと視線を送り、その視線に眉間に皺を寄せ、目を細めて見ているアリッサ。


 「あらぁ~、摂政さんは、アリッサさんが好みなの?」

 「好み?違いますよ!!」

 「え?」

 顔を撫でまわし、髪を掻き乱してから、再び顔を撫でまわしたロイドは、目を鋭くしてサーシャを見た。


 「愛しています!!」

 「好みなのね…」

 その表情に言葉にしながら笑いだすサーシャの後ろで、舌打ちをしているアリッサ。

 「うっさいボケ!!」

 「まぁ~、まぁ~」

 そのアリッサを落ち着かせているクレアの姿があった。


 「アリッサさんも良かったじゃない。次期摂政さんにこんなに愛されて!」

 「そうですよ、言って下さい。お母さま!!」

 「お母さまだって…じゃ、この話をまとめたら、私にも…」

 サーシャの言葉に立ち上がったロイド。


 「街を差し上げます!!なんなら!!」

 「お前はバカか!!」

 厨房からアリッサの叫び声が上がり、その隣のクレアが目を丸くしており、大きく頭を下げたロイドの前で、サーシャが小さく笑っていた。


 「ホンとは、ここで皿が飛んでくるはずなんですけどね……」

 頭を上げてサーシャを見上げたロイド。

 「アリッサさんも悪い気にはなってないみたいね。あんなアリッサさんは見た事が無いわ。楽しそう…」

 振り返りアリッサを見ると、頬を赤らめながら皿を洗っているアリッサがいた。


 「…それで、摂政さん。アリッサさんのどこがいいの?顔?性格?」

 「そうですね……」

 頭を掻きむしりながら席に就いたロイドは、スープを口に運んでからパンへと手を伸ばした。


 「もう僕も大人ですからね…。顔が20%、体…80%…そうそう、80%の内、おっぱいが95%占めてますけどね!!やっぱり女性はおっぱいですよ!おっぱい!!え?」

 言葉を放った後に立ち上がったロイドは、なぜかファイティングポーズを取って辺りを見渡し、なぜそのポーズをしたのかわからないサーシャが目を大きく見開いた。

 「せ…摂政さん?なにをしているの?」

 言葉を発した後ろで、アリッサとクレアも辺りを見渡している。


 「あれ?今日は、お宅の貧乳姫は…不在?」

 「そう…ね…さっきまで、そこのソファーでライザと横になっていたんだけど…」

 クレアが食卓傍にあるソファーを見ると、ゆっくりと頭が上がって来た。


 「げ!!やっぱいたんじゃん!!」

 ロイドは齧っていたパンを頬張り、スープを口に流し込んだ。

 「もふ…もふ……んじゃ。また来ます!!」

 サーシャに小さく手をあげたロイドが逃げる体制に入ると……。


 「おい、エロ摂政!!ちょっと顔貸しな!!」

 起き上がってきたのはライザであり、その傍のソファーからケイティが起き上がり、冷ややかな表情でロイドを見た。

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