セラとレアの涙に思う事… 下
その夜…。
ふと目が覚めたアサトは何かの気配に視線を向けると、そこには、寝間着姿のセラの背中があった。
そこはケイティが寝ていた場所であり、今日からサーシャが眠っていたのである。
声が聞こえる。
「…一緒に寝ていい?」
その言葉に、小さな笑みを見せたサーシャの表情が見え、右腕をあげて掛布団をあげ、セラは、その中に滑るように入って行った。
サーシャの向こうにも影が見える。
黄色い髪…。
チャ子ではない小さな頭がもぞもぞと動いては、鼻をすする音が聞こえて来た。
…もしかして…レア?
アサトはサーシャと視線があうと共に、サーシャの顎辺りに銀色の耳が見え、その形が小さく動くと、サーシャの胸に腕を上げて抱きついた。
…セラ?
しばらく見ているとすすり泣く声が聞こえ始める。
…え?泣いているの?レアはともかく…なんでセラ?
しばらくサーシャを見ていたアサトへ、小さな笑みを見せた。
「殺したの…」
「そうなの…」
セラの声が聞こえ、その言葉に優しく返しているサーシャ。
「うん…クロウに…焼かせて…わし…あの子を殺した…。真っ黒になった…真っ黒に…」
「そうなんだ…。」
「うん…。あの子…クロウが欲しいって…。わしを殺して…クロウを貰うって…だから…」
「そうなの……」
「うん…、でも、わしは、お前の負けだから、もうやめろって言ったの…でも…あの子は…」
「聞かなかったのね…」
「うん…だから…クロウに焼かせたの……わしは………」
鼻をすすり始めたセラ。
「頑張ったわねセラちゃん…。そうね…セラちゃんは助けたかったんだよネ…」
サーシャの言葉に小さく頷くセラ。
「殺したくは無かったけど…。でも…、クロウを奪うって言われて…。キマイラに乗った…。戦おうとしたから……わしは…」
「もういいわ、セラちゃん。命を奪う事は痛みを伴うの…。その痛みは、あなたを成長させるわ…。今回は殺しちゃったかもしれないけど…、成長は、新しい何かを生むわ…だから…気に止まないで…。アサトやクラウト君が出した戦いだから…。あなたが責任を負う事はないわ…。」
アサトはサーシャの視線に小さく顎を引いたアサト。
…そうなんだ、これは僕が選んだ戦いで、その中で、セラは…。
「あたなはやるべき事をやったの…。これからあなたがやれることは、その子を忘れない事…。その子に恥じない生き方、戦い方をする事…。あなたが決めた戦いをしなければならない時が来る…。その時は、あなたが責任を持つの、だから、今回はいいのよ…。それがこの世界で生きる為の事なの…。奪われない為に戦い、そして、命を奪った…。それは、この世界では正解なの…。本当は良くない事なんだけど…。それがおかしいから…あなたのリーダーは旅に出ているの…。色々見て、感じて、答えを出そうとしているの…だから、信じよう。」
…そうなんだ、この世界では正解。でも、道徳的には行けない事なんだ。
この戦いも、人間族以外を排除しようとしていた者らを止める、辞めさせようとしていた…。
形は違ったけど、エルソアの考えは、人間族以外は奴隷的な…。
いや人間族もその中に入っている的な言い方だった、だから…。
…ごめんねセラ、辛い思いをさせて…。
「泣きたい時は思いっきり泣くの…。レアのお姉さんなんだから、いつまでもめそめそしているのはダメよ。泣くのは今夜だけ…」
小さく頭を上げたセラは、反対側で泣いているレアを見ると、レアもセラへと視線を移し、セラと目が合うと同時にサーシャに体を寄せ付け顔をうずめた。
「レアのおねぇ~ちゃん?」
「そうよ…。そのお姉さんは、ケイティにシスちゃん、そして、アリッサさん…。クラウト君もタイロンも…。そして、頼りないけどジェンスにアサト…。みんなあなたの仲間でお姉さんにお兄さんなの…。彼らは、ちゃんとセラちゃんを見ていてくれるわ…。そのあなたより小さいのがレアちゃん…。ここに居るうちは、あなたはレアちゃんのお姉さんなんだからね…。弱音を吐くには今日だけ…泣いた分、明日は強いお姉さんになるのよ…」
サーシャの言葉に体を倒し、サーシャに抱き着いたセラは小さく頷いた。
「うん…わしは…強くなる…。レアの為にも…。みんなの為にも…ウフェ…ウフェ……」
鼻をすすり泣き始めたセラ。
「いいのよ…それで…。誰もセラちゃんを責めないわ…。今日は、沢山泣きなさい…」
サーシャの言葉に顔をうずめたセラは小さく震え始め…、押し殺した鳴き声を上げており、サーシャは、頭に2つある銀色の耳の近くに口づけをしてから天井を見た。
「…痛みは、共有するモノよ…」
小さく言葉にしたサーシャを見ていたアサトは、小さく顎を引いた。
…痛みは共有するモノ……。
その言葉を聞いていたのはアサトだけではなかった。
サーシャの向こうで、横になっていたケイティは、小さく震えているレアの後ろ姿を唇を噛みしめて見ており、その瞳には大粒の涙がとめどなく流れ、ケイティに抱き着いて横になっていたチャ子も、腕から伝わるケイティの震えと、サーシャの言葉を聞きながら、自分の卒業試験の時の事を思い出して、うっすらと涙を流していた。
その隣のベッドで横になっていたライザは、カーテンから少しだけ見える向こうを黙って見ていた。
夜空に浮かぶ月は満月に近い形がしており、その中に、昼間のケイティの表情が浮かんで見えていた。
その表情を察するに……。
言いたい事は分かっているが、女王に処遇を委ねることにしていたが、本当にそれでいいのか……。
小さく考えているライザの表情は、次第に険しくなっていたのであった……。
そして…翌朝を迎えて……。
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