第2話 セラとレアの涙に思う事… 上
「うっ…」
尿管をすり抜けるなんとも言えない感覚に、思わず声を出してしまったアサト。
「痛かったですか?」
「いや…なんか…もそ痒いって言うか…」
アサトの言葉に、ゴブリンと人間のイィ・ドゥの看護師が笑みを見せた。
「すみません…。」
「いや…、謝らなくても…」
「わたし…ここに来て、まだ数か月なんです…。お母さんが病気で、この診療所に運ばれて…。どこも見てくれなかったから…」
「そうなんですか…」
「はい…。だから、まだ、色々と慣れてなくて…」
「お母さんは?」
イィ・ドゥは、アサトに入れられていた尿管を手際よく片付け、手に付けていた手袋を外して、チンコをマジマジとみてから、アサトの視界に入って来た。
緑がかった肌であるが、顔の作りは人間であり、綺麗で大きな瞳を持っていて、その瞳は、多分、父親と思われるゴブリンの遺伝なんだろうと、うっすらと思っていた。
「人間族であったお母さんでしたけど、付き添ったお父さんは捕まり、私は…ココに逃げるようにやってきました。カルファ先生に見てもらったけど、もう…。ガンが進行していて…。検査をしてもらって…。ステージ4+と言われました」
「ステージ4+?」
「はい…その時は、わたしも分からなかったのですが…。カルファ先生の話しだと、末期の病巣に犯されていて、余命は2~3か月…。膵臓癌だと言う事でした…」
「そうなんですか…」
「魔法…。でなんとかと言ったら、本気で怒られました。無知だったんですね。魔法で病気は治るものだと…。でも、カルファ先生は、本物の魔法使いの私でも、ここまで進行していたら、どうにもできない。緩和治療でいい所があるって言われて…」
「いい所?」
「…はい。人間至上主義のせいで、私達は行動が出来ませんでした。だから…。クレアさん達に助けてもらい、お母さんと私は、王都より一日ほど行った場所で、鉄で出来た乗り物に乗り、黒鉄山脈を越え、デルヘルム近郊で空飛ぶ鉄の乗り物に乗って、摩訶不思議な街に行きました」
「摩訶不思議って…もしかして、ファンタスティックシティ?」
イィ・ドゥは小さく笑みを見せた。
「ご存じだったんですね。本当は話してはいけない場所なんですが…。アサトさんならわかるかなと思って……。」
「まぁ~」
「そこについて2か月後、お母さんは亡くなり、私は…、エイアイ先生に頼んで、お母さんみたいな人に何か役に立つような仕事をしたいと…」
「それで…看護師?」
「そうですね…今は…。」
アサトの腕から点滴の針を抜いたイィ・ドゥ。
「実は、医師を希望していましたけど…。数日前にカルファさんから、私を返せって連絡が来たから、カルファさんの所で勉強をしなさいとエイアイさんから言われ、デルヘルムの方たちと…」
「あらぁ~、リュッコさん。もうお仕事?」
サーシャがレアを抱いて病室に入って来た。
「そう言えば…リュッコさん?エイアイの姿が見えないんだけど…」
…え?
「エイアイさんも来ていたんですか?」
「あら!」
レアを抱きながら、隣にあるジェンスのベッドに座ったサーシャ。
「ここには来ていなかった?」
「いえ…まだ見てないですが…」
「そう言えば、医療道具を運んでいた時に、神官の男性と話をしてから、城に行ってくるからよろしくと言ったっきり、わたしも見ていません…」
「神官って…クラウトさんですか?」
点滴をしまったリュッコは、アサトを見て首を傾げて見せた。
「クラウト君が一緒なら城も考えられるわね…。カルファさんなら大丈夫って太鼓判を押しているくらいだから…。案外、違う目的で来たのかも…」
「違う目的って…」
「リュッコ!どうだ?終わったか?」
威勢よくたばこのいぶされた香を振りまきながら、カルファが入って来た。
「はい先生…。出血は見られません…。」
「そうか。なら…バイタルを見て見ろ!」
「え?わたしがですか?」
「そうだ。お前以外に誰がいる。お前、医者になりたいんだろう?わたしはガン専門じゃないけど、ここで循環器の神髄を教えてやる!」
「循環器って…」
「それが、ガンと因果関係があるかも知れないからな…。とにかく、早く沢山学んで、私に楽をさせろ!!」
…楽をさせろって……。
冷たい感覚が右の手首に感じられ、しばらくすると足首へと進み、再び、右腕に冷たい感覚がくると、布を巻かれて圧迫され、冷たい鉄のようなモノが押し当てられた感覚と共に、急激に腕を圧迫され、その圧迫はすぐになくなり出し…、次第に勢いをつけて圧迫が無くなると、布が腕から外され、布団をはがれたと思ったら、心臓辺りに冷たい鉄が当てられ、視界に入って来たリュッコの横に長い両耳に、何かが付いており、その何かから黒い筒が下へと延びているのが見えた。
「それ…」
「あっ、すみません。これは聴診器と言って、心臓や呼吸の音を聞くモノです。冷たかったですか?」
「いえ…。何度か見た事がある…」
「そうですか…。とりあえす。心臓の音も呼吸の音も正常だと思います…。脈拍は62、血圧は上が112に下が72…。安定してます」
「どれ…」
今度は、カルファが視界に入って来て、聴診器を胸に当て、何か所かを移動させてから右の手首をつかみ、しばらく動かず…、しばらくしてから、布を腕に巻き、再び圧迫が始まり、圧迫がなくなると大きく深呼吸を吐きながら、布をしまい始めた。
「まぁ~、少しの誤差はあるがな…。とりあえず、今は看護師が少ない。お前は看護師の仕事をしながら、医者の勉強をしろ!いいな!!」
カルファの言葉に小さく頭を下げたリュッコ。
「うん。じゃ、あたしは下に居る。あの煩いやつの包帯を変えてやれ、んで…。まだ動けばダメか?って来て来るかもしれないから、あと2日は安静だって言え。あいつは元気が余り過ぎている!!」
…それって、ジェンス?
アサトを見て小さく笑みを見せたリュッコは、アサトから取り外した医療機器を抱えながら視界から消え、その視界にたばこの煙が入って来た。
「さて…、じゃ、明日から動くか…。もう1週間たつからな…。明日はベッドの周りを2~3周あるいてみるか…」
「歩くんですか?」
「そうだ?なんだ、歩くのがいやか?」
「いえ…でも、安静って…」
「お前はバカか?安静って、寝てろって言ってるわけじゃないんだよ。少しずつ体を元に戻す。ゆっくりな…。だから安静なんだよ!!お前の仲間みたいに、いきなり動こうとしたら安静じゃ無いだろう!!…ったく…」
…その行動は。ジェンスらしいけど…
「先生?もう何か食べさせてもいいのかしら?」
振り返ったカルファ。
「そうだね…。消化の良いのを与えてやってくれ…。まずはスープからかな?固形なモノは…もうしばらくしてから…。それにトイレは、看護師を呼んで車いすで行くんだ!いいな!」
視界に入って来たカルファ。
「はい…」
「よし。看護師に用事がある時は、これを押す!!」
見えるカルファの前に小さな四角い物が現れ、そこには赤く丸い突起物が見えた。
「それは?」
「これか?」
一度、四角い物を見たカルファ。
「魔法の呼び鈴だ!!」
どうやら携帯呼び出しブザーと言うものらしい。
その赤い突起物を押すと、看護師がいる部屋にあるブザーが鳴るようで、それを聞いた看護師が現れると言う事である。
そう言えば…、ジェンスに渡したら5分に1度鳴らし、ケイティが面白半分で鳴らしたとカルファが怒っていた。
…まぁ~、あの二人なら…。
ジェンスは呼ぶ度に包帯を取れとか、いつから動けるとかうるさかったと苦笑いを浮かべたカルファの表情は、決して明るいモノではなかった…。
…まぁ~、なんとなくわかる気がする…。
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