デルヘルムから来た、パイオニア御一行様…。下

 病室の入り口から去ってゆく足音が聞こえ、レニィが顔をだし、ポドリアンが枕元で親指を上げて見せ、最後にアルベルトが冷ややかな表情で現れた。

 「…力量的か…。まぁ~、とりあえず…。誰も死ななかった事には、お前らを褒めておく…。黙って寝てろ。これからが大変だぞ」

 「大変?」

 「あぁ~、サーシャは…。お前から離れないと言っていて、デルヘルムから、腐るだけ食い物を運んできていた。他にも…。まぁ~、大変だと思うが…」

 「え?、ま…待ってください。それって…」

 「あぁ~、片時も離れないって言っているぞ…」


 …え。えぇ~~。


 アルベルトの言う通りであった。

 昼食を終えた後にサーシャが意気揚々に現れると、そばで果物の皮をむき始めた。


 …というか…まだ食べられませんけど…。


 天井を見ているアサトの視界の端で動くサーシャ。

 しばらくするとケイティがチャ子、セラ、レアを伴い現れ、ジェンスとバネッサが現れた。


 「ネコ娘!これ見て?」

 「ナニ?」


 …ってか、チャ子の雰囲気は分かっていたけど、まだ見てない…


 アサトの傍で掛布団が小さく揺れた。

 「ナニそれ?」

 「これ、アサトのオシッコ、キャハハハハ…」

 「えぇ~汚い!!ってか、なんでオシッコ?」

 「アサトのチンコに、これ入っているんだって!!」

 「チンコ?」

 「見る?」


 …えぇ~、ちょっとまってケイティ…


 布団が大きく動く。


 …あぁ~~。


 上から押さえつけられていた股間が急に軽くなり、それは、アサトの股間をさらけ出した感じである。

 上着には服は着ていたが、太もも辺りには、確かに何かを履いている感覚はあったが、それがズボンなのか掛布団なのかはわからない、ましてや動かない左腕と痛みのせいもあり、ケイティの動きに素早く反応が出来ない。


 …まって、ケイティ…。


 「こらっ!!」

 「痛てててて…」

 サーシャの声にケイティの悲鳴があがった。

 「何てことしているの!アサトは怪我人なんだよ。チャ子も、まだ、男の子のチンコを見る歳ではない!!」


 …サーシャさん。チンコって…。


 「えぇ~、チャ子、アサトのチンコ見たい!!」

 「見たいでは無いでしょ!アサトの見舞に来ているのよ!遊びに来ているんじゃないの!ちゃんと顔を見せたの?」

 その言葉に視界にチャ子が現れた。


 「あ…」

 「アサト。チンコ見ていい?」


 …いやぁ~~、いきなりですかぁ~。


 「ダメって言っているでしょ!」

 サーシャの言葉に、頭についている耳が小さく前に折れて、いとも残念そうな表情を見せた。


 …そう言えば。


 「チャ子、なんか大人になったんじゃない?」

 「大人?」

 「そう…」


 デルヘルムから出て、まだ1か月も経ってないが、チャ子の表情が、なんとなく大人に感じたアサト。

 ロマジニアと同じ黄色い髪も長くなり、左のオデコにある黄色の肌に茶色の斑点もくっきりと浮かび上がっているように感じた。


 「そっかなぁ~」

 「そうね…。獣人の亜人は、成長が早いって言うけど…。体は大きくなっているけど、精神がまだまだ子供…。これからたくさん勉強しなきゃなんない!!」

 「えぇ~~。かあさん、いつも、いつも、勉強。勉強って言うから…勉強なんてしたくない!!アサトとケイティ、セラと一緒に旅に出たい!!」

 「ダメ!!とにかく…」

 「んぢゃ、元気そうだから。パッフェ食べに行ってくる!!」


 視界から消えたチャ子。

 「パッフェ?」

 サーシャが訊いている。

 「うん。ケイティが、白くて甘くて…冷たくて…ふわふわしたクリームとキャラみたいな甘くて冷たい塊の食べ物があるって!それ食べてくる!!」

 「食べるって…」

 「セラ、レア行こ!!」


 チャ子が走り去る音と2人を呼ぶ声が聞こえ、小さく顔を動かすと、サーシャがチャ子を見ている姿があり、その傍で、レアがサーシャの腕を掴んで、アサト見ている姿があった。


 「レアちゃんは行かないの?」

 その感覚にレアを見て言葉をかけたサーシャ。

 「うん…。ここにいていい?」

 「え?」

 「抱っこして……」

 サーシャに腕を広げたレア。

 その姿を見たサーシャは、小さく微笑みながらレアを抱き上げ、膝に乗せると、顔をサーシャの胸に押し付けたレア。

 「…そっか…お母さんが恋しいのね…」

 サーシャの姿を入り口で見ていたセラは、小さく俯いていた。


 「セラ、レア!!行こう!!」

 ケイティの言葉に振り返り廊下を駆けだしたセラ。

 「レアは行かないって!!」

 「え?なんで?」

 「わからない…。3人で行こう!!」

 「…ったくぅ~~」


 廊下からセラとケイティの会話が聞こえ、アサトの視界に、小さく入り口から覗き込むケイティの姿が見え、そのケイティは…、サーシャの抱かれているレアを見ると、小さく何かを考えてから廊下へと消えて行った。

 優しいリズムで腰を弾いているサーシャの動きに、レアも心を許したのか、いつの間にか眠っているようであり、その表情を母親のような優しい表情で見ているサーシャ。


 「シスちゃんから聞いたけど、この子も大変だったみたいね…」

 「僕は詳しくは聞いてはいないですけど…、システィナさんの話しだと、カギエナの街で、ケイティに助けを求めたって…。」

 「うん…。さっきケイティに訊いたけど、詳しくは話してくれなかった…。何かを忘れたいのか…それとも…」

 「それとも?」

 小さく顔を動かしたアサト。


 「わたしね…。ケイティの表情を見た事があるの」

 「え?」

 「…アイゼンやナガミチと旅をした時にね…。…違うといいんだけど…」

 「違うって、どういうことですか?」

 「ん?」

 レアを見ていたサーシャがアサトを見た。


 「…ケイティなら大丈夫だと思う…だから、あなたは心配しないで、ちゃんと休んでなさい!!」

 アサトはサーシャの言葉に天井へと視線を向けた。


 …大丈夫だと思うって……。



 王都の街には、珍しい食べ物がある。

 コーヒーを飲ませてくれるケーキ屋の一席で、ケイティにライザ、セラとチャ子が座っていた。

 カルファの診療所に帰って来たライザを伴い、ここでパッフェを食べる。と言っても、ココを教えてくれたのがライザであり、もちろん、お勘定もライザ持ちで、チョッコパッフェを4人で食べていた。


 黒く甘くとろける液体がチョッコであり、白く冷たい雪のような塊がバッニラアイシュ、それにトッピングされている、白くふわふわなクリームが生クリームと言うらしい。

 メロンとサクランボが置かれた食べ物を喉を鳴らしながら食べるチャ子。

 チョッコパッフェを前にしていたセラは、一応食べており、ケイティは黙ってチョッコパッフェを見つめていた。


 その様子をチョッコパッフェを食べていたライザが見た。

 「ケイティ…」

 「…ライザ」

 「…ダメだよ、考えちゃ。忘れないと…女王に任せるって言ったでしょ!!」

 ライザの言葉に顎を小さく引いたケイティ。

 そして…。

 「…うん…」

 小さく言葉にすると、チョッコパッフェを食べ始め、その姿を見ていたライザは、重いため息をついていた……。

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