第1話 デルヘルムから来た、パイオニア御一行様…。上

 カルファの診療所、2階。


 1階の待合室からは、患者と思える声が聞こえてきており、3階では、生活音が響いて来ている。


 入院患者の受け入れは、アサトらが旅だった後に行うようで、今は、この2階、3つある病室すべてが、アサトらの寝室になっていた。


 目が覚めた翌日、まだベッドから動けないアサトは、天井を見ているしかなく、食事と言えば点滴だけであり、ケイティがたまに来て、尿道に入れられている尿管をみてはゲラゲラ笑っている。

 ジェンスは、体を動かす事が許可されたと言っても、この診療所から出る事はまだであるようで、ベッドの上でなにやらもぞもぞとしていて、アサトは首を動かす事ができるので、何をしているのか確認をしたら、横になりながらロングソードを振っている姿が見えた。


 そんなジェンスは、少しゴロゴロしていると、ロングソードを振り、またゴロゴロしている。と…何かを思いついたのか、ベッドから起きてどこかに行く…。

 数分してから憤慨して戻って来て、ベッドでゴロゴロ始める。と…。今度はケイティが現れ、お決まりの喧嘩を始めると2人でどこかに行き……。

 また憤慨して帰って来る。


 ジェンスに一度訊いたが、どうやら、もうしばらくはご法度のようで、暇を持て余したジェンスは、カルファに大丈夫と直訴に行っているようだが、コテンパンに粉砕され、ご立腹状態で帰ってきており、その様子をケイティが見ていて、からかいに来ていると言う…。


 …まぁ~、もうしばらくの辛抱だから…。


 どうもジェンスは血気盛んになっているようで、素早く斬る!素早く斬る!素早く斬る!!を連呼している。

 クロウの炎よりも確実に多く斬る方法を考えないと…。とベッドで独り言を言っているのが、アサトに聞こえてきていた。


 …てか、炎よりって……。


 その日の午後である……。


 ?


 昼寝をしていたジェンスが上半身を上げて、入り口へと視線を移した。

 「おい…だれか来るぞ…」

 その言葉に目をあけたアサト。

 「…だれだ?」

 ジェンスがベッドから降り、部屋の扉に向かった。


 3階にあがる階段は、この部屋よりも奥に位置しており、音の主は、ほとんどがケイティであり、その音は、ロイドを追いかける音や病室へ向かってくる音、ジェンスを追いかける音で…その音以外は、病室に近づいてこなければ、ほとんど聞こえてこない。


 耳を澄ますと…、確かに慌ただしい足音とは違う、大人数がぞろぞろと多くの足音と床がきしむ音が聞こえる。


 …誰だろう……。


 ケイティなら走って来る。

 その事もあってか、ジェンスがおかしいと思って動いたのである。と…。

 「あ…。どうも…」

 「…ッチ」


 …この舌打ち…。


 天井を見ていたアサトには、その主が1人分かった。

 「…ジェンス。あなたもケガをしたの?」


 …この声は……。


 「…ハハハ。そっす。でも大丈夫。もう大丈夫なんすけど…。あのヤブ医者。あと2・3日寝ていろって!!ったく…そんな時間無いんすけど…」

 「お医者さんの言う事は訊かなきゃ!!」

 「そっすか?」


 …この声は、サーシャさん?


 「セラ達と遊んできていい?」


 …あぁ~、チャ子の声がしていると言う事は…。


 ぼんやり考えていたアサトの視界に、冷ややかな目をしているアルベルトが現れた。

 「あ…」

 「…」

 小さく言葉にしたアサトを、冷ややかな目で見ているアルベルト。


 「アサト!!」

 急にアルベルトが消えたと思った瞬間に、黄色いニット帽を被ったレニィが現れた。

 「びっくりだよ!大丈夫?わたしと結婚して子供作るまでは死なれないんだから!!」


 …えぇ~、なにそれ!!


 「こぉ~らレニィちゃん。それは、私がゆるしませんよ!!」

 今度はレニィが動き、そこには優しい表情のサーシャが現れた。

 「あっ…」

 「まったく…。話を聞いたら心臓が止まる思いがしたわ!どう?どこか痛む?かゆくない?お腹は減ってない?」

 「サーシャさん…。あのぉ……」

 サーシャの後ろから訊きなれた声が聞こえて来て、その言葉に振り返ったサーシャ。


 「すみません。今は、一応安静にと…」

 「あっ、シスちゃんがいてくれるから大丈夫だったのよネ。」

 「えぇ~、シスは、インさんと出来ているんじゃないの?なに?アサトも狙っているの?」

 「そんな事無いですよ、レニィさん。私は…」

 「…ったく、ここは怪我人が寝ている場所なんだぜ!他にも病人とか…」


 ジェンスがベッドに横になる音が聞こえ、アサトの視界に入っているサーシャは辺りを見渡している…と…。


 「…ジェンスさん?」


 …え?


 アサトも思ったが、ジェンスも大きく跳び起きた。

 「あ…あぁ~~、なんで?なんでいるの?俺のスウィートハニィぃぃぃ……」


 …この声って、バネッサさん?


 「一応ね。私らが出発の準備をしていたら、バネッサさんが納品に来てね。ジェンス君の話しをしたら、一緒に行きたいと言ってね」


 …この声って、テレニアさん?


 遅れて病室にテレニアとバネッサが入ってきた。

 「おぉ~、本当に?ほんとに?」

 「ケガしたって訊いたから…。」

 「大丈夫。腹ちょっと斬られたくらいだから…」

 「本当に大丈夫なの」

 「あぁ~、もう動けるんだけどね。あのクソヤブ…」


 「誰がクソヤブだって?」

 遅れてアリッサとカルファ、クレアが入って来た。

 「あわわわわ…、まぁ~」

 「こらジェンス。わたしはお前を一生動けなくする事も出来るんだぞ!!」

 その言葉にベッドに横になったジェンス。

 「…まったく。おっかねぇ~医者だ!!」


 …まぁ~。


 「エイアイから聞いていました。あなたは、腕は一流であると。だから、安心してくれと…」

 「そうか、あの、メガネがね……」

 アサトの傍に来たカルファは、アサトを見てからサーシャを見た。

 「とにかく、1か月は安静ですよ。ちょうどお昼だから、昼御飯食べたら、処置の内容を教える」

 「ありがとうございます」

 カルファの言葉にサーシャが深々と頭を下げている。


 「サーシャさんも疲れたと思いますから、とりあえず上で休んでください。」

 アリッサの声が聞こえ、その言葉にサーシャが頭をあげた姿が見えた。

 「アリッサさんも大変だったんでしょう?あなたは、このチームのお姉さんだから…。色々と迷惑ばかりかけてね。ごめんなさいね」

 「いえ…、アサトをこうしてしまったのは」

 その言葉にアサトが口を開いた。


 「…アリッサさん。ホンと気に止まないでください」

 「え?」

 アサトの言葉に振り返ったサーシャ。


 「僕が…力量的に敵わなかっただけで、最終的には、アリッサさんに助けられたんですから」

 その言葉に口に手を当てたアリッサ。


 「…ッチ、とにかく。俺たちは当分、王都にいる。まぁ~、ここでこうしていても、クソガキが良くなるわけじゃないから…。飯を食わせてもらおう」

 アルベルトの冷ややかな声が聞こえ、その言葉にサーシャが顔をアサトへ近づけて来た。


 「ナガミチが残した可愛い息子だからね。ちゃんと治るまで看病してあげるから!!ファンタスティックシティではできなかったし、もっと遠くに行けば、出来ないから。だから、一杯甘えな!!」

 サーシャの言葉に頬を赤らめたアサト。

 「…はい…」


 …ナガミチの可愛い息子って……。

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