冥府を歩く少女

電咲響子

冥府を歩く少女

 私は憎む。


 自分をいじめるクラスメイトを、自分の叫びに無関心な教師を、そして自分をないがしろにする両親を。


 私は使う。


 それが外道の法だろうが構わない。黒魔術。ありとあらゆる文献を丹念に読み、実現可能だと判断した呪いの奥義。すなわち悪魔との契約。


「ごきげんよう。あなたが今回のマスターですね」


 私は言葉を失った。


「おや? どうなされました? 主は私にうらみつらみをぶちまけるのが恒例ですが」

「あ、あんた…… 本当に悪魔?」


 私の眼前にいるのは正真正銘の紳士。私が思いえがく悪魔像とはかけ離れた存在だ。人物、礼服、言動。すべてイメージと異なっている。


「はい、悪魔でございます。ひとつだけ願いを叶えましょう」


 真偽など、どうでもいい。全力で内心を吐露するだけだ。


「私が憎んだ奴を全部殺して!」

「了解」


――――――――


 あれ。私は自分自身の目を見開く。おどろおどろしい光景が広がっている。


「あなたの願いを叶えました」


 悪魔以外に存在するのは、骸骨や腐敗した死体のみ。私が呪った相手はいない。


「…………」

「理解されたようですね」


 はは。結局のところ、私はもてあそばれていた。神か悪魔か知らないが、超越的存在に。漏れ出るのは呪詛の言葉だけ。涙すら出ない。


「あなたが憎悪していたのは、あなた自身です。なので、あなたの命を貰いうけました。ですが…… これでは契約上、魂の二重取りになってしまいますね。出直してください」


 閃光が目を眩ます。

 次の瞬間、私は自室のベッドに横たわっていた。長い夢を見た気がする。けれど本物だという確信もある。ああ、そうか。私はのか。私が私自身を好きにならない限り、目的は達成されない。


 ならば正道を歩んでゆこう。堅実に。

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冥府を歩く少女 電咲響子 @kyokodenzaki

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