シェムリアップの夜
えりぞ
第1話 シェムリアップの夜
僕は初めてキスした相手、カンボジアの17歳の人だったんだ。そう書くとすげえヤバイ感じだけど、ぼくも15歳で。学校行ってないまま中学卒業ってことになっちゃったんだけど、友達のお父さんがカンボジアで働いてて、会いに行くっていうから、それについて行った。
まだポルポトが死んで一年ちょっとしか経って無い時期だったから、内戦後って雰囲気があった。なんかもう人生どないするかなって感じだったから、アンコール遺跡近くのシムリアップって街をウロウロ歩いて。まだ外国人観光客、特に日本人はそんなに多くなかったから、結構珍しがられた。街歩いてると「なに人だよ?」みたいに子どもに声をかけられて、手をあげて挨拶する。
そのころのカンボジアは内戦の影響で子どもばっかりだった。人口の過半数が10代以下とかじゃなかったかな。おじさんおばさんが凄く少なかった。まだおじいさん、おばあさんのほうが多い。そんな街、赤い土ぼこりの舞い立つシムリアップって街に1週間滞在することになった。
そんな1週間で、途中から、みんなが寝静まったあと、深夜に外を出歩くようになった。治安が悪いのは知ってたけれど、学力、九九がわかるか?くらいで中学卒業ってことになっちゃって、最悪もう死んでも良いかなって気分だったんだよ。
歩いていたら、前の日だったか、お昼に飯を食べたお店のウエイトレスさんがたまたま声かけてきた。クメール語だったからわかんないけど、「暇なら来なよ」みたいな感じで手招きされたから、まあ誘拐されても良いかなって感じで付いて行った。
行ったら多分、昼は中華料理屋なんだけど、夜はちょっと飲めます的な感じの店になってて、なんかいかつい白人とアジア系の男2人がソファで酒飲んでた。「コリアンか?」って聞かれたから「日本人」って答えたら、アジア系がちょっと残念そうにして、韓国人だった。白人は国籍聞いたけど覚えてない。
テラス席みたいなとこに通されて、出してくれたジャスミンティー飲みながら、ウエイトレスのお姉さん2人と片言の英語で話をした。17歳と19歳で、夜はこの店だっていってた。話は内戦のこととか、学校の話とか。白人と韓国人の男2人は謎の頑張れよって感じのジェスチャーして、ニヤニヤしてこっちをみてた。
それから、3日連続くらいで、夜も昼もそのお店に通うんだよね。出てくるのはジャスミンティーだけで、お金の請求もない。本当になかった。世間話しながら、日本語と英語で話す。だんだん、ずっと17歳のお姉さんが隣に居るようになった。今思うと、夜に若干女性のサービスのあるお店なのかもしれないけど、その時はよくわかんなかった。
シムリアップに滞在する最後の日の夜、明日首都のプノンペン行って、タイ経由で日本に帰るよって17歳のお姉さんに話したら、お姉さんの顔がゆがんで、泣き始めた。このままここにいろって。ずっと。「それもありだなあー」と思いながら、気づいたら僕も泣いて、お姉さんとキスしてた。15歳だった。
でもまあ、親にも何にも話してないしってことで、住所だけ交換して、明け方帰った。その時、みんなに夜居なかったのがバレてメチャメチャ怒られたけど、まあもうカンボジア人になるつもりだったからね。ハイハイと謝って。翌朝は怒られてたのでお店には行けないまま飛行機に乗せられて、プノンペン、タイ経由で日本に帰った。
結局日本に帰って、一通だけ手紙を出したけど、返事はなかった。届いたのかもわからないし、ぼくは朝起きれないから夜間高校に通うことになった。
今思えばというか、あれが大きかった気がするんだ。「最悪、どこでも生きていけるし、自分を認めてくれる人は何処かにいる」って、思いながら生きていけるようになったような気がする。
お姉さんのおっぱい、ブラジャー越しだったので硬かった。
たまに、温かいジャスミン茶を飲むと、中華料理屋の二階のテラス席で、恐怖と期待がない混ぜになりながら夜のシムリアップの街を見下ろしている15歳の気分に戻る時がある。韓国人のタバコの煙がゆっくりとこちらに漂ってきて。お姉さんが悪い人でなければいいな。僕はどこに行くんだろうなと。
シェムリアップの夜 えりぞ @erizomu
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