言いたいことはレビューのタイトルに尽きます。技巧をこらした美文であるわけではなく、むしろかなりラフなスタイルで書かれていますが、そこがこの作品のキモかなと思います。
一読して単なる思い出話の叙述に費やされる文体は、小学生たちの現在と未来=大人にとっての過去と現在を自在に往還し、フィクショナルな想像力を忍び込ませます。
おそらく作者の方の実体験であるさまざまなエピソードは、時間と空間のひろがりに支えられて、読み手に――おそらく作者さん自身の体験をこえて――強烈なイメージを喚起させます。個人的なことをいえば、夜の線路の闇と光についてこれほど注意を傾けたのは、芥川龍之介の「トロッコ」以来のことです。
ラストの部分も飛びぬけてすばらしいです。抽象性としての「夢」が、作者の方の、目覚めた瞬間の皮膚感覚とむすびつくとき、そこには一瞬の、けれどたしかな実在感が宿ります。
くどいようですが、文章が非常によいです。本気でびっくりしました。