"打ち明け話"の威力ってすごい。もはや魔法だ。人と人とを、急速に結びつける。最悪な初対面(少なくとも私にとっては)を果たしたあたしたちまで結びつけてしまうとは、恐れ入る。


 放課後の花壇の脇に腰かけ、あたしと佐野誠は時々話をするようになった。


 佐野はどの男子にも分類できない風変わりな男子で。宇宙人の生態でも研究するみたいに、あたしは佐野を観察し、質問をした。


 よくよく知ってみれば、佐野は全く理解できない宇宙人ってわけじゃなかった。初対面の女子に絵をくださいって平気で言っちゃうような、ちょっと変わってるところはあるけど。


 佐野はよくしゃべり、あたしの話を聞くのも上手だった。友達を作るのが苦手だって佐野はいうけど、信じられない。あたしがそう言うと、佐野は困った顔をする。


「ぼくがこうしていられるのは、遠坂さんが接しやすい人だからですよ」


 佐野は一人っ子で、母子家庭で、本を読むのと料理をするのが趣味で、昔はきれいな石を集めるのが好きだった。興味が失われたその石は、今では金魚の水槽に沈んでる。漫画やアニメはあまり知らなくて、お母さんの影響で、音楽は少し古めの曲が好き。秘密の放課後を二人で何度か過ごすうちに、これだけのことを知った。


 宇宙人ではなかったけれど、佐野はアニメや漫画の中からでてきたキャラクターなんじゃないかって、この頃、あたしは半ば本気でにらんでた。だって、佐野には、現実感ってものがまるでない。現実の男子っていうのは、女子と喋るときは緊張を滲ませて、おどおどと視線を合わせないものだ。もしくは、女子の反応を気にしすぎて、わざと大げさに振る舞ったりするものだ。佐野はそのどちらでもなく、自然体すぎるんだ。そこに、違和感がある。


 佐野は多分、クラスメイトに嫌われているわけではないんだと思う。ただ、現実感のないこの人にどう接すればいいかわからなくて、みんな、遠巻きにしてるだけ。勿体ないな、と思う。ちょっと話せば、みんなきっと佐野の良さがわかるのに。たしかにちょっと変わってるけど、面白い人だよ。


 佐野と二人の時間は楽しかった。なにより、遠慮がないのがいい。



「あの絵、やっぱり返す気にならない?」


 別にもう、返してほしいなんて思ってないけど、あたしは時々佐野に聞いた。「ダメです」って、語気を強めて言う佐野の反応が見たくて。


「あれはぼくがもらったものですからね。しっかり額縁に入れて一番目立つところに飾ってあるので、もう返せません」


 全国大会で最優秀賞をとったという佐野の絵が、美術部の部室にあると言うから、見せてもらった。青を中心に、鮮やかな色彩で描かれた、それは海だった。文句なしに、美しかった。


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