34話 あれからあの人達は···ムーフォンス&リンクス
ーーームーフォンスーーー
「何!?本当か!バーバス!」
「ああ。本当だ。ミチルダ公爵夫人はフレア殿を連れて、アンドリエ家を出たらしい。」
何と言うことだ!
「それは確かな情報なんだろうな。」
「間違いない。」
最近、ダン宰相がおかしかったのは事実。 表情は元から出さない方だったが、最近では眉間にシワを常に寄せて、不機嫌さを隠そうとしない。
ダン宰相の執務室ならず、その周辺にもピリピリ感が漂い影響が出てきている。 息子であるシャベール殿もギオレット殿も暫くは表情が暗かった。
「···そうなのか···しかし何故だ」
ダン宰相の正妻であるミチルダ公爵夫人とは仲が良いと母上から聞いている。
正直、ダン宰相の正妻は、大体夜会などに連れて来ていた派手な人かと思っていたが、母上からその人は妾だと聞いた時は驚いた。ダン宰相にはその人がしっくりくる感じだったし。 ···地味な方だが、ミチルダ公爵夫人を見て、何故彼女が正妻なのかは分かる気がするがな···。
「それは判らないな。ただ、フレア殿は平民になったみたいだぞ。平民なら側室も無理だ。」
「ただの家出だろ?離縁した訳ではないだろう。」
「いや、離縁すると言って家を出たらしい。」
「···その情報、一体誰から仕入れている?」
「それは秘密だ。」
「····ミチルダ公爵夫人は確か、男爵家出身と母上から聞いている。なら平民ではあるまい。」
「そうだが、実家である男爵家の方にはどうやら帰ってないらしいぞ。」
「!」
今まで貴族の優雅な暮らしをしていたのに、平民でやっていけるのか?
「とりあえず、母上に聞いてみることにする。母上とミチルダ公爵夫人は幼なじみで親友とおっしゃってたから、何かご存知かもしれない。」
私はすぐ、母上のいる部屋へ向かった。 私は深呼吸をし、ドアにノックをした。 コンコン
「はい。」
母上だ。いらっしゃるな。
「母上、私です。ムーフォンスです。お話したいことがあります。入ってもよろしいでしょうか?」
「···入りなさい。」
「失礼します。」
私はドアを開け部屋に入った。 母上は窓の外をじっと眺めていた。 そしてゆっくりと振り向き私を見つめた。
「珍しいわね。貴方から私の部屋へ来るなんて。」
「母上、単刀直入にお聞きします!ダン宰相の正妻である、ミチルダ公爵夫人が家を出たと聞いたのですが。」
「·····」
「何かご存知ではないでしょうか?」 「···知らないわ。」
母上は落ち着いた様子で紅茶を飲んでいる。
「母上!親友であるミチルダ公爵夫人が居なくなったのですよ!心配ではないのですか!?」
母上はゆっくりとこっちを向き
「もちろん心配よ。···ですが、わたくしは知りません。きっと落ち着いたら連絡はくれるでしょう。」
また紅茶を飲む。 ·······。 この落ち着き様は多分、行き先を知っているな···。 普通ならもっと取り乱してるいるはず!
「···実家に帰られてるんでしょうか?」
探りを入れてみた。
「さあ?居ないでしょうね。」
実家には居ないか····。
「もし居どころが分かりましたら教えてください。」
「知ってどうするの?」
「ミチルダ公爵夫人にフレア嬢がついて行ってるそうなので、フレア嬢を迎えに行きます。」
「貴方、まだフレアのことを諦めてなかったの?」
母上は呆れたように言ってきた。
「もちろんです!」
「フレアは···妻にするのは難しいですよ。」
「その辺は考えております。それに彼女はアンドリエ公爵の息女です。それは変わりはありませんから。」
私は真剣な眼差しで母上を見つめた。
「本人にその意思がないのに···。それにキディングス公爵の嫡子との婚約もまだ解消されてませんよ。無理だと思うけど、分かったわ。」
チッ!そうだ。キディングス公爵の嫡子ローラン殿とはどうなったのか、まだ分からん。 そこも調べないと。
「こんなことになってるんです。婚約は解消されるでしょう。それでは失礼します。」
私は母上の部屋を出て、急ぎ自分の執務室へ戻った。
「バーバス!キディングス公爵の嫡子のローラン殿とフレア嬢の婚約が解消になっているか調べてくれ!」
「御意!」
バーバスは一礼をし、部屋から出て行った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
キディングス公爵の嫡子のローラン殿との婚約のことはまだ曖昧のままだった。
バーバス曰く、一応キディングス側の方には婚約解消の旨をフレア嬢から手紙が送られているとのことだったが、父上の方には婚約解消の報告がないらしい。 キディングス家側で止めているようだった。 と、云うことはまだ婚約したままだと云うことになる。 まあ、ローラン殿はまだ辺境に勤務しているから難しいのかもしれないが···。
バーバスには、ミチルダ公爵夫人の実家、ルカーサー男爵家に行ってもらったが、二人共に居なかったとの事だった。 ルカーサー男爵候も、ミチルダ公爵夫人が家を出て行ったのを知らなかったらしい。
私も内密に側近数名を探しに出している。 まだ見つかったと報告はないが··· フレア、必ず君を見つけてみせるよ。 そして、見つけた際は別館に住まわし、誰にも内緒にして誰にも見せないようにして···愛してあげる。 フレアは私だけのものだ····。 私はその時のことを考え、笑みがこぼれた。
さて、休みの日には遠出をすると言ってバーバスと一緒に探し出掛けようか····。
ーーーリンクスーーー
最近、学校でフレアの姿を見ないな···。 僕は騎士団の練習場でフレアに対しての気持ちを再認識し、諦めないと心に誓った。
僕はムーフォンス兄上よりは一歩リードしている。
ムーフォンス兄上は既に正妃候補がおられて婚約もしている。 結婚しても側室だ。 その点僕なら正妃にできる。 キディングス公爵嫡子ローラン殿と仮の婚約を発表してしまっているが、僕は第三王子なので、ムーフォンス兄上ほど厳しくない。ローラン殿と婚約を解消してもらえれば、どうにでもなる。
僕は意を決して、1学年下の教室へ行き覗いてみるが、フレアが見当たらない。 そういうのがもう3日ほど続いている。今日で4日目だ。 思いきって、クラスメイトに話かけた。
「ちょっと君。フレア·フィン·アンドリエ殿はおられるか?」
「リンクス王子様!」
話かけた女の子は顔を真っ赤にし、お辞儀をした。
「私、キャロルって申します!」
別に名前は聞いてないが···。
「いや、フレア殿はおられるかな?」
僕はもう一度聞き直した。 するとその女の子は首を傾げ
「フレア様は最近ずっとお休みしてますの。」
··知っている···
「何故休んでいるのかな?」
「私もよく分かりませんの。病欠としか···お見舞いに行きたいのですが、先生に止められますの。」
やはり病気で休んでいるのか。 先生に お見舞いに行くのを止められていると云うのは、かなり重い病気なのか!? こうしては居られない! 僕は踵を返し 「ありがとう!」 お礼を言ってその場を離れた。
僕は学校から帰って、早速フレアの元へお見舞いに行くことにした。 お見舞いに持っていく品物を悩んだが、無難な花束にすることにした。 母上の温室の花を分けて貰おうと、母上の部屋へ向かった。 フレアには薔薇ではなく、可愛い花が良いな···。ストーク(ひまわり)みたいな花なんかが似合う。
そう思いつつ歩いていたら、母上の部屋に着いた。 ドアをノックしようとしたら、中からムーフォンス兄上の声がした。
「母上!親友であるミチルダ公爵夫人が居なくなったのですよ!心配ではないのですか!?」
えっ?どういうことだ? 僕はドアに耳を当てて中の会話を聞いた。
「もちろん心配よ。···ですが、わたくしは知りません。きっと落ち着いたら連絡はくれるでしょう。」
「·······!」
少し聞き取り難いが、母上は意外に落ち着いた様子だった。
「もし居どころが分かりましたら教えてください。」
「知ってどうするの?」
「ミチルダ公爵夫人にフレア嬢がついて行ってるそうなので、フレア嬢を迎えに行きます。」
何!フレアが家を出て行った!?
もう少しで、ムーフォンス兄上と母上の会話が終わりそうだったので、急いで自分の部屋へ戻った。
先ほどの母上達の会話を思い浮かべる。 ミチルダ公爵夫人がフレアを連れて屋敷を出て行ったって、何が合ったんだ···。 だから学校に来ていなかったんだな。 行方不明だから、病欠にして、見舞いに行かれたらバレてしまうから、先生が見舞いには行かないように言ったのか、アンドリエ家の指示なのだろう。
ムーフォンス兄上はフレアを諦めていない。絶対に捜すだろう。 ····これはムーフォンス兄上にとっても僕にとってもチャンスかもしれない。ローラン殿とは婚約解消になるだろう。 ムーフォンス兄上よりも早く、フレアを捜し出さないと!
「サーガ!」
側近であるサーガを呼ぶ。
「リンクス様、お呼びですか?」
「すぐにアンドリエ公爵家のことを調べてくれ!」
「いかがなされましたか?」
「フレアが公爵夫人と姿を消したらしい。」
「!!誠ですか!?」
「ああ。だがよく判らないのですぐに調べくれ!くれぐれも内密だぞ!」
「かしこまりました。」
フレア、君が誘拐などではなければいいが。
母上とムーフォンス兄上の様子だと違うとは思うが。
サーガの報告だと、どうやらダン宰相とミチルダ公爵夫人が離縁したのではとの事だった。 確かにダン宰相は最近様子がおかしかった。元々凄いオーラを放っている方だったが、もっと険悪なオーラを放っていて、周りは皆ピリピリしている。
実際の所は、まだ正式に離縁したというのは聞かない。ローラン殿とフレアとの婚約もそうだ。
ふむ···どうなっているのか···
ムーフォンス兄上は既に動いているようだ。側近であるバーバスがバタバタと動いている。
バーバスだけでなく、まだ数名動かしているっぽいな。 僕もサーガと数名に動いて貰っている。
母上の幼なじみでもあり、ミチルダ公爵夫人の幼なじみでもあるマリア伯爵夫人が何かを知っていそうだが、なかなかしっぽ出さない。流石に商売されている方だ。
マリア伯爵夫人を密偵に張り付かせている。 ダン宰相もマリア伯爵夫人を張っているようだ。ちょくちょく 会いにきていると報告がある。 まだ何の情報もないが、必ずフレアを最初に見つけるつもりだ。
僕はまだ、まともにフレアと話しが出来ていない。
フレアは覚えてないだろうが、一度お忍びで、母上と一緒にアンドリエ家へ行ったことがある。
私はその時にフレアに一目惚れしたのだ。年齢や爵位を考えたら、フレアは僕の正妃の筆頭候補だと信じて疑ってなかった。
まさかムーフォンス兄上の方になるとは···それでも当時は八歳 。
ムーフォンス兄上は豊満な肉体を持つ女性が好きなはずだったのに、何故かフレアに興味を持ち、正妃にしたいと言ってきた時には本当に驚いた。
ムーフォンス兄上には渡さない···いや、誰にも渡さない! ムーフォンス兄上より早く!早く見つけないと! ムーフォンス兄上のフレアに対する執着は脅威にさえ感じる。
僕はフレアが無事であるのと同時に、あの太陽みたいな笑顔がそのままでありますようにと願った。
異世界に転生したら女の子でした~一夫一妻の所に嫁ぎたいと思います! 妄想いちこ @mousouithico
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