33話 あれからあの人達は···ノーレン
私たち三人は、お母様とフレアが見えなくなるまで見送りました。
その後は重い雰囲気の中、誰一人と一言もしゃべらず、お互いに手を握り合いながら屋敷へ帰った。
屋敷の中も重苦しい感じが漂っていました。
なんとなく離れ難く、私たち三人は、私の部屋でただ黙って紅茶を飲んでいました。
何時間が経ったのでしょう。
太陽が傾きかけた頃に
ドタドタドタ!
騒がしく階段を登ってくる人がいます。
オギレットお兄様でしょうか。
すぐに足音はピタリと止まり、私たち三人は顔を見合せ、ドアから覗いてみた。
お母様の部屋の前に、お父様が立っていました。
えっ?お父様、いつもより早い帰りですわ。
お父様は服を整えて、ドアをノックした。
コンコン
「ミチルダ、今帰った。部屋に入っていいか?」
お父様···そう言えば今朝、早く帰ってきて話し合おうって言ってましたわ···
お父様はもう一度
コンコン
「ミチルダ?入るぞ!」
そう言って部屋の中へ入って行った。
そしてすぐに出てきた。
「ミチルダ!?ミチルダ!」
お父様はお母様の名前を叫んで下に降りて行った。
「···お父様、驚いた様子でしたね」
「そうね。多分お母様と話し合う為に、早く仕事を終わらせたのでしょう。」
「でも、もうお母様は居ないわ···」
リリアンが涙をボロボロと流す。
するとまたバタバタと足音が聞こえて
バタンッと私の部屋のドアが開いた。
「ミチルダ!?」
お父様でした。
「···お母様はここには居ませんわ。」
お父様は肩を落とし、気落ちしたように見えます。
「ミチルダはどこに?」
「分かりませんわ···お母様は行き先を教えてくれませんでした。」
「·····。」
お父様は目を伏せ、ふとキョロキョロし始めました。
「どうかなさったんですか?」
「フレアはどうした?フレアが居ないようだが。」
「フレアはお母様と一緒に出て行きました。」
お父様は驚いた顔をして、頭を左右に振った。
私は我慢出来ずに聞いた。
「お父様!どうしてですの?土曜日にお母様にお買い物を誘われてた時に、お母様のは断ってヴィアインと一緒に居ましたよね?」
「!···ノーレンお前見てたのか···」
「はい。たまたまですが。リリアンとフレアと一緒に買い物に出ていた時に、見てしまいした。」
ちょっと嘘をついてしまいましたわ。
「····。」
「お母様はあれで今回のことを決意したのではないでしょうか!!」
お父様は苦痛の顔をして
「あの日は···ヴィアインの誕生日だったんだ。いつもなら、他の誘いは断ってミチルダを取っていたが、前からその日は一緒に居てお祝いして欲しいと言われてたんだ。」
「「「えっ?」」」
「ミチルダに言われて、ヴィアインには別の日にお祝いするからと言ったのだが、誕生日の日ではないと意味はないと言われ···誕生日くらいは一緒に居てくれと泣きつかれてしまった。···誕生日は年に一度しかないし、ミチルダは買い物に付き合って欲しいという要望だったから···どちらを重要視するかと言ったらやはり誕生日だと思い、だからヴィアインといたんだ。」
···確かにどちらかと言われれば誕生日ですわ。
お父様は愛情表現は不器用ですが、本当に優しい方だから。
妾とは言え誕生日だから願いを叶えてあげたかったのですね。
ですが、お母様は頑なにあの日ではないといけないと言ってました。
「ミチルダの言動には気にはなっていた。本当は夜には帰るつもりだったが、ヴィアインが泣いて離してくれなかったのだ。」
「···そのことは、お母様に言ったのですか?」
「もちろん、昨日言ったさ。だけどそれでも私を取って欲しかったと言われたよ。話しかけてもあまり返してくれなかった。」
····お母様はもしかして···。
「もし、お母様とヴィアインでしたらどちらが大事ですか?」
「ミチルダに決まっている!」
お父様は即答しました。
お母様···貴女はお父様に愛されています。
「ノーレン、とりあえず、ミチルダたちはどのような行動をしたのだ?」
「馬車に乗って行きました。」
「馬車か···どっちの方向へ?」
「南の方に向かいましたわ。」
お父様は少し考え込んで
「ベッタングルブのマリア殿のとこかもしれない。」
「マリア伯爵夫人ですか?」
「ああ。」
そう言うなり、走って部屋を出て一階に降りた。
「セバン!私の馬をすぐに用意しろ!」
「旦那様!どこに行かれるのですか?」
「ベッタングルブのマリア殿の所へ行ってくる!」
「旦那様!今からでございますか?明日になさった方が。すぐに夜でございます!危のうございます!」
セバンはお父様を止めようとしています。
「私は大丈夫だ!早く用意しろ!」
お父様は焦ったように急かした。
セバンは仕方なく、すぐ馬を用意し、お父様はすぐに馬に乗りベッタングルブに向けて馬を走らした。
····お父様····。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
お父様は夜遅くに帰って来ましたが、お母様は居なかったようでした。
マリア伯爵夫人からも情報が入らなかったらしく暗い表情でした。
お父様はそれからは毎日、我が家に帰ってくるようになりました。
そして夕食後はすぐに馬に乗り、一心不乱にお母様を探して夜遅くまで帰ってこない日々を過ごしてました。
まるで狂ったかのように····。
私たち姉妹は徐々に日常に戻っていきました。
ある日屋敷に帰ると、メイドたちに雰囲気がおかしかった。
「只今帰りましたわ。」
「ノーレンお嬢様!お帰りなさいませ!」
メイドたちは、私に助けを求めるように寄ってきました。
「貴女たちどうしたの?」
「実は···ヴィアイン様が来られまして···」
あの女!何しに来たのかしら!
「どこにいるの?」
「ミチルダ様のお部屋です···」
何ですって!
私は怒りに身体が震えてきました。
私は息を荒くして、お母様の部屋へ向かった。
部屋からセバンの声が聞こえた。
「ヴィアイン様、ここはミチルダ様のお部屋ですのでお引き取りくださいませ。」
「うるさいわね!セバン!もうミチルダは居ないじゃない!」
正妻であるお母様を呼び捨てにしてますわ!
バン!
私は荒くドアを開けた。
「ヴィアインさん、何故お母様の部屋にいらっしゃるのかしら。」
ヴィアインは、フンと鼻を鳴らして
「あら、ノーレン様、ご機嫌よう。ミチルダ様はもうこちらへはいらっしゃらないとお聞きしましたの。」
誰?まだそんなに知られていないはず!
まさか情報を洩らしてるメイドでもいるのかしら···
「その話はどちらで?」
「···それは秘密ですわ。」
「もしそうだとしても「妾」である貴女がここにいるのはおかしいでしょう?無礼よ!」
ヴィアインはムッとした顔になり、
「ダン様と離縁なさったと聞いてるわ。次の正妻はわたくしに決まっているようなものですもの。でしたら、この部屋はわたくしの物でしょ?」
やっぱり内情を洩らしている人間がいるわね···
しかし凄い自信ね。
「あら、私はそんなこと知りませんわ。もしそうだとしても次は貴女とは限らないのでは?」
ヴィアインは、ギリっと歯ぎしりをした。
「わたくしはダン様に愛されてる自信があるわ!わたくしと子供達がこちらに来たら、ノーレン様たちには、今のわたくしの住んでいる屋敷へ引っ越しをして頂くことになると思いますわ!」
「····」
「素敵な部屋だわ!ベッドも最高!でも、上のお布団は買い換えね。あのお方が使ったお布団なんて嫌ですもの。」
ヴィアインは我が物顔で、ベッドに寝そべる。
「ヴィアインさん、まだ貴女の物ではありませんわ。出て行きなさい!」
私は指でドアを指す。
「まあ!失礼な!」
「失礼なのはそっちよ!妾のくせに!」
「まあ!母親はたかが男爵家の出身のくせに、公爵家出身のわたくしに対し無礼な!」
「男爵家出身の母親ですが、正妻ですから立場はこちらが上ですわ!いつまでも公爵家出身を出されない方がよろしくてよ!ご出身の権力を自慢できるのは妾同士だけですわ!」
「!!!」
お互いに睨み合う。
ヴィアインは顔を真っ赤にして怒っていた。
負けませんわよ!
ヴィアインは私の方へ来て
「この小娘が!」
手を振りかざし、私を殴ろうとした。
私はそれをじっと見ていた。
殴りたいなら殴りなさいよ!私はその倍をお返ししますわ!
「何をしている。」
声がした方を見るとお父様が立っていました。
「あ···あの···」
ヴィアインは振りかざしていた手を下ろし狼狽している。
「何故ヴィアイン、お前がここにいる?」
「····わたくしは···」
「ここはアンドリエ家の屋敷である正妻、ミチルダの部屋なのに、何故お前がいる。」
お父様は少し怒っている様子でした。
ヴィアインは意を決したように
「ミチルダ様とは離縁したとお聞きしました!そしたら、わたくしが正妻になり、この屋敷···部屋はわたくしの物ですわよね?なので下見に来てみたのです!」
お父様は怒りなのか、手が震えてます。
そんなお父様に気づかないヴィアインは
「よろしければ来週にはこちらへ、子供たちを連れて引っ越しをしてきてもよろしいでしょうか?」
目を輝かせで言っていたが
バシッ!
ドタ!
ヴィアインは、お父様に頬を叩かれ倒れた。
おっ、お父様!?
「私はミチルダと離縁はしていない!勝手な憶測は辞めてもらおう!しかも、この部屋はミチルダの部屋だ!お前の香油匂いが充満していて不愉快だ!」
「ダン様···」
「しかもノーレンに手を上げようとしてたな?」
「あの···」
ヴィアインはあたふたしている。
「お前の顔はもう見たくない。離縁する。すぐにこの屋敷から出ていけ!」
「ダン様!申し訳ございません!早まってしまいました!お許しくださいませ!」
ヴィアインは必死にすがる。
「今後のことはマイルスを通して通達する。セバン!ヴィアインを屋敷まで送れ。」
「嫌ですわー!ダン様ー!」
ヴィアインは大泣きをして暴れているが、護衛二人に引きづられ出ていった。
「·····」
お父様は自分の手を見て
「初めて女性を叩いてしまった···」
自分でも驚いているようです。
「叩くつもりなどなかったのに···あまりにも傍若無人だったから···ヴィアインには悪いことをした。」
いえ!もっとやっちゃってください!
「お父様、ヴィアインとは本当に離縁するのですか?」
「ああ。そのつもりだ。まさかお前を叩こうとするとは。今回の行動も許せるものでもない。あんな女だったとは···」
ヴィアインはもっとひどい女ですわ!
···今は言わないでおきますが。
いきなり離縁なんて驚きましたが、多分、お母様との離縁のきっかけになったヴィアインを少なからず恨んでいたのかもしれませんわね。
お父様は、あの時ヴィアインを選んだことを後悔なさってるんですね···。
ともあれ嫌なやつが居なくなるなら大歓迎ですわ!
お母様!帰ってきてください!
皆待ってますわ!
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