第49話 みかさもり 衛士のたく火の 夜は燃え
『先生、おはようございます。』
『あぁ、おはよう。』
『あれぇ?寝不足ですか?顔色が悪くない?』
『えぇ?いつもと変わらないけどなぁ…』
『どれどれ、熱はないみたいですねぇ?という事は?やっぱりねぇ?』
『ちょっと、ちょっと、この韓流ドラマは面白くて一度見たら止まらなくて…寝不足で…』
『だろうっと思った。私も見ましたよぉ。『トッケビ』』
『えぇ…見たんだぁ。』
『流行りましたからねぇ?『トッケビロス』にならなければ良いけど…先生は忙しくて見る機会がなかったからたまには良いのでは?』
『そうかなぁ…。どうしても見たくなってねぇ。』
『解るなぁ…その気持ち。ところで、そう言えば、大学の方は…どうなんですか。順調ですか?私の大学の後輩になるから応援してますよぉ。』
『あぁ、有難う。そう言えば、そうなるんだよなぁ。最近は…なかなか、思うように課題が進まなくて躓いているなぁ…。仕事と勉強の両立が厳しくて…』
『なるほど…なら、教授に今度、頼んでおきますよぉ。人気がある先生の課外授業なら引受けてくれますよぉ。』
『そうかなぁ…?』
『それにしても、先生はすごいと思うなぁ。新しい事に挑戦する事は勇気や決意を持って新しい扉を開いた事になる訳でしょ?』
『いやぁ、それ程、誇れる訳ないって…興味本意というのかぁ…母親が父親が亡くなった事により鬱になって地域で支える民生委員や社会福祉士のお世話になった事や生活困窮者を支えるニュースやドキュメンタリーを見た事によるよぉ。』
『いやぁ、違うわよぉ!私は、先生が純粋に人の為に何が出来るのだろうって…真剣に考えたからよぉ。』
『真剣かぁ…。真っ直ぐな剣は使わないなぁ。』
『はぁ?また、変な事考えていない?』
『だってさぁ…真剣は真っ直ぐな剣と書くだろう。』
『そうねぇ?』
『だから…人を殺める剣はどんな理由にしろ使いたくないんだよぉ。』
『なるほど…確かに。なら、『本気(マジ)』で良くない!』
『おぉ!流石は久美ちゃんだなぁ。『本気(マジ)ねぇ?』『真っ直ぐに地面を歩む』つまりは『信念を貫くだなぁ。』』
『本当に先生は面白いなぁ。すごい解釈だけど…他人が考えない発想には感心するなぁ。』
『そっかなぁ?』
『だってそうよぉ。『本気(ホンキ)』なら?』
『『本当に気分が盛り上がっている。』かなぁ…。
無理するなぁ…って、思うかもなぁ。』
『でしょ?やっぱり、先生の発想力には感心するなぁ。天才肌よぉ。』
『そっかなぁ。天才肌というより、最近は乾燥肌だなぁ。』
『そうそう、最近は乾燥する季節で困りますって!なるかい!!』
『やっぱり、久美ちゃんは面白いよなぁ。すぐにツッコミ入れてくれて有り難いよぉ。』
『そうねぇ。先生のボケには頭を使うから大変だけど…楽しいから好きだなぁ。』
『あぁ…そうそう、一つ聞きたい事があったんだぁ。村田 久美さんって…知っている?』
『ムラタ クミ?村田組?知らないなぁ…建設会社の名前?それともモラッタグミ?』
『ちょっと、ちょっと、建設会社やもらったグミの話をするこたないって…いやぁ、少し気になってねぇ。』
『私の周囲には『村田 久美さん』という知り合いはいないなぁ…。先生にはいないのですか…?』
『聞き覚えがあるけど…思い出せなくてさぁ。』
『そうなんだぁ。たぶん、どこにでもありそうな名前だから…じゃないのぉ?芸能人にもいそうじゃない。ムラタクミ?』
『だよなぁ。もしかしたら、『村に匠(タクミ)がいるんですよぉ。』って…感じで、旅行番組の冒頭のフレーズを思いだしたのかもなぁ。』
『ある、ある。さり気なく聞いていたらフレーズがリピートしてしまう事。そう言えば、正月番組を見ていたら『正月(ショウガツ)』のフレーズが抜けなくて…ショウガのチューブを購入した事があったなぁ。』
『なるほど…。たぶん、そうだなぁ。ごめん。ムラタクミの件は忘れてなぁ。あぁ、ところで?』
『はい、解ってますよぉ。ルイボスティーとパクチー大量のサラダとハムとチーズのサンドイッチでしょ?』
『おぉ!流石は久美ちゃんだなぁ。有難う。』
『そりゃ、私の大好きな先生ですからねぇ?』
『ちょっと、怖いなぁ。スティーヴン キングの『ミザリー』みたいにはならないで欲しいけど…大丈夫だよなぁ?』
『私も昔見たなぁ。スティーヴン キングの映画だから『スタンド バイ ミー』の映画のように感動すると思ったからなぁ。』
『解るなぁ。あの映画は感動したけど…もともとはミステリー作家だからなぁ…』
『えぇ?そうなんだぁ。知らなかったなぁ。先程のミザリーの話だけど…どうかなぁ…好き過ぎたら足をトンカチで叩いて歩けないようにしようかなぁ…。』
『ちょっと、ちょっと、冗談でも止めて欲しいなぁ。』
『解ってますよぉ。そんな時は…感情的にはならずに受け入れるわよぉ。』
『だと…有り難いけど。不安だなぁ。』
『もう、そんな事はしないわよぉ!』
『冗談だよぉ。本気にしないでよぉ。』
『解っていますよぉ。』
『あぁ、原稿が出来ているから、持っていってねぇ?』
『はい、解りました。では、先生またねぇ。』
『危なぁ。それにしても、ビックリしたなぁ。まさかぁ、村田 久美さんの名前が出てくるとはなぁ。先生が思い出したら、私の計画が水の泡になるわぁ。瞬一さんより、若くてハンサムな先生にぞっこんなんだか。』
『ちょっと、私を追い出さないで、あなたのおかげで先生に逢えているから…』
『解ったわよぉ。村田さん。あなたが生きていないと消滅するからいたければいれば。』
『有難う。』
『それにしても、この人の身体は歳取っているからしんどいわぁ。山田さんの身体に憑依すると本当に疲れるわぁ。』
『それにしても、本当に村田 久美は知らないのかなぁ?それにしても、何でそんな名前を思い出したのかなぁ…。たぶん、疲れているんだなぁ。しまった。ボケッ〜っとしていたら、いつの間に。さてぇ、仕事、仕事しなきゃ!今日の百人一首は…』
『大中臣能宣朝臣(おおなかとみのよしのぶあそん)〜みかさもり 衛士のたく火の 夜は燃え 昼は消えつつ ものをこそ思へ』
20××年
『ちょっと、先生、先生。どうしてですか?私を裏切るつもりですか?』
『裏切るって…違うよねぇ?私が愛した女性は稲村 久美ではなくて、村田 久美の方だよぉ。』
『あの人はマンションの屋上から飛び降りて植物人間状態なのよぉ。あなたへの一途な気持ちがあっても許されない恋だと知ったからよぉ。それに今も、病院のベッドで呼吸器を付けているじゃない。』
『確かに、そうだけど…私の事を愛してくれた女性はいないんだよぉ。』
『ちょっと、先生は解っているのぉ?村田 久美さんは先生のお父さんの子供よぉ。』
『えぇ!嘘だろ?母親以外に付き合っていたのはいないはずじゃないのかぁ…。』
『違うわぁ。私が初めての女性で私が白血病になって亡くなった後に寂しさを癒やす為にスナックで働いていた村田 百合恵と一夜を共にして出来たのが村田 久美よぉ。先生と同じ中学校の同級生だったでしょ?』
『そんなぁ…。嘘だろ。嘘だと言ってくれよぉ!』
『だから…あなたを愛していても自殺をしたのよぉ。』
『さぁ、私を愛しなさい。』
『出来ないって…身体は山田さんじゃないかぁ。無理だって。』
『何を言っているのぉ。あなたが愛していたのは私でしょ?あなたの瞳には22歳の稲村 久美が見えているでしょ?』
『真実を知ってからはそうは見えないだよぉ。親父の記憶は徐々に消えているんだよぉ。』
『はぁ、呆れるわぁ。私は朝も昼も先生の事を片時も忘れてはいないのよぉ。私はあなたと一緒にいるだけで幸せなのよぉ。』
『待ってくれよぉ。父親が一途に愛した気持ちを忘れたのかよぉ。』
『はぁ?知らないわよぉ。男は一途で疲れるわぁ。私が今、好きなのは先生だけよぉ。それに、最初に惚れたのはあなたの方でしょ?忘れたのぉ?』
『でも、無理だよぉ。無理なんだよぉ。』
『みかさもり 衛士のたく火の 夜は燃え 昼は消えつつ ものをこそ思へ』
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