第48話 風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ
『先生、おはようございます。』
『あぁ。おはよう。原稿出来ているから宜しく。じゃぁ。』
『ちょっと、ちょっと、どうしたんですか?いつもの先生の対応じゃないけど…。怒っていません?もしかして何かありました?』
『言えないよぉ。』
『ちょっと、気になるじゃないですか…』
『今は、言えないよぉ。』
『もしかして、昨日見た夢の事ですか?』
『えぇ?もしかして、昨日見た夢を見たのかい?』
『私も衝撃的で頭が変になりそうでしたよぉ。戦時中に私と同じ顔をした人と先生のお父さんが愛しあっているんですもの。』
『えぇ!もしかして、同じ夢を見ていたのかぁ…知らなかったよぉ。』
『それにしても、何で親父の名前を知っているのぉ?逢った事があるのぉ?』
『ある訳ないでしょ。私はいくつなのぉ?22歳よぉ。』
『そうだよなぁ。』
『あぁ、そう言えば最近、多摩動物公園で撮った写真なんだけど…実は…』
『えぇ!そんな事があるんだぁ。』
『そうなのよぉ。電車で居眠りしていたら、多摩動物公園にいて、お父さんかなぁ?瞬一さんてぇ?』
『そうだなぁ。親父だなぁ。ほとんど、記憶がないけど…』
『えぇ!そうなんだぁ。実は私には記憶がないけど…瞬一さんと付き合っていたみたいなの。』
『マジかぁ。そんな事があるのかぁ…。でもさぁ、不思議じゃないかぁ?戦時中に親父と久美ちゃんが愛し合っていた夢を見たけど…親父は戦後、生まれなんだよぉ。』
『確かに、不思議だなぁ。それに、私が白血病で亡くなったとは言うけど…本当かなぁ…?』
『えぇ?そうなのぉ?もしかして、親父から何か聞いていないかぁ?』
『私も突然の事だったから、怖くてほとんど覚えてはいないけど…瞬一さんとは恋人同士で白血病で亡くなった事しか覚えてはいないなぁ。』
『そっかぁ。でもさぁ…。過去に色々あっても親父はこの世にはいないし、ほとんど親父の記憶はないから大丈夫だよなぁ?』
『どうかなぁ…。少し距離をおいた方が良さそう。あまりにショックだったから…ごめんねぇ。』
『いやぁ、大丈夫だよぉ。俺も少し疲れたから少し距離をおくのはお互いの為だよぉ。』
『あぁ、そうそう、今までの出来事を少し整理してみない?』
『そうだねぇ?まずは私達は1976年生まれで、大学生だった頃にドライブに行って事故にあった。お互いに恋人同士だった。そして、2020年にやって来た。本来なら44歳。しかし、私は22歳で先生は27歳。雪と大和も同じようにやってきた。違う点は…この世界では雪と私は高校生以前の記憶がない事。先生と大和は大学生以前の記憶がない事。間違いないかしら?』
『そうだなぁ…その通りだぁ。』
『そして、今回、新たな真実としては、先生のお父さんと私が付き合っていて、何故か戦時中では愛し合っていた。しかし、服装に違和感があった…こんな感じかなぁ…。』
『そうだねぇ。その通りだなぁ。他にも、久美ちゃんが予知夢をみたり、タイムトラベラーだったり、イマジネーションフレンドがいるなどかなぁ…』
『ちょっと待って!もしかして、もしかして?私とお父さんもタイムトラベラーだったのでは?』
『なるほど…それなら、戦時中に愛し合っていた事が理解出来るなぁ…。服装が違っていた事は推測出来るなぁ。という事は親父は1950生まれで俺が生まれたのは1976年という事は26歳の時に誕生している。多摩動物公園で写真を撮ったのは小学校に上がる前で親父は32歳にはこの世にはいない。つまりは親父と久美ちゃんが愛し合っていたのは…26歳より前になる。しかし、俺達が見たのは…18歳から20歳頃でラッパズボンに髪の毛がロンゲで花柄のワンピースをきていたという事は大学生だった頃ではないかなぁ?』
『もしかして…大学生の頃に写真が取られているかも…でも、私には記憶がないんだよなぁ…。』
『そっかぁ。記憶がないのは厄介だなぁ。』
『近いうちに、実家に行ってアルバムを見てくるよぉ。』
『そうねぇ…もしかしたら、私の名前がわかるかも…あぁ、一つお願いがあるんだけど…良かったら今度、水族館に連れて行ってもらいたいなぁ。』
『もちろんだよぉ。ところで、どうして水族館?イルカショーでも見に行こうかぁ?』
『不思議なんだよねぇ?無性に水族館に行きたくなっているのぉ。江ノ島水族館が良いなぁ。クラゲがみたいなぁ…』
『えぇ?クラゲ?どうして?』
『何でかなぁ…クラゲが見たくなった。』
『よし、来週でも見に行こう。原稿が出来ているから持っていてねぇ?』
『あぁ、有難う。』
『それにしても、最近、不思議な事ばかり起きるなぁ。何でなんだろう。それにしても、先生の記憶が消える事は言えなかったなぁ。私の事も忘れてしまうのかなぁ。私は生きているようで死んでいるって…どう言う事なんだろう。』
『それにしても、色々な事があるなぁ。ただ、久美ちゃんが好きなだけなんだけど…。最近は少し、お互い冷めてきたよなぁ。何でなんだろう。とはいえ、久しぶりのデートだなぁ。楽しみだなぁ。さてぇ、仕事、仕事。今日の百人一首は…』
『源 重之〜風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ 砕けてものを 思ふころかな』
20××年
『どうしてなのぉ…。私はあなたに愛されたい。ただそれだけなのに…』
『駄目なんだぁ。久美ちゃんとの記憶がないんだよぉ。確かに、君は綺麗でかわいいところがあるけど…タイプじゃないだよぉ。』
『どうしてよぉ。お父さんの記憶があったかも知れないけど…私は今の先生が好きなのよぉ。』
『気持ちはうれしいけど…今の君を愛する事は出来ないだよぉ。』
『どうしてよぉ…。急に私との記憶が失くなった。タイプじゃないって…嘘をついているぐらい解るわよぉ。本当の事を言って。言ってよぉ…』
『駄目なんだぁ。言ったら消えてしまうかも知れないんだぁ。』
『知っているわよぉ。私は植物人間状態何でしょ?人の身体を借りて生きているんでしょ?違う?』
『えぇ?どうして知っているんだよぉ。』
『やっぱりねぇ?だろうと思ったわぁ。実は瞬一さんからその事実は聞いていたわぁ。』
『なら解るだろう?俺の気持ち?お互いに辛くなってしまうだろう?』
『嫌なのよぉ。やっと巡り逢えたのに…』
『俺と久美ちゃんが好きでも久美ちゃんを好きだった記憶は親父の記憶なんだよぉ。俺が愛したいのは植物人間状態になっている村田 久美さんなんだよぉ。』
『ちょっと、待って。私との関係がなくなれば寂しさしか残らないじゃない。あなたが愛した村田 久美さんはあなたを好き過ぎて10階のマンションから飛び降りたのに…それでも好きだと言えるのぉ?』
『止めてくれ!これ以上は言わないでくれよぉ。』
『私はあきらめないわぁ。瞬一さんの面影がある先生にやっと逢えたのだから…』
『頼む。俺を困らせないでくれよぉ。』
『いいえ、私はあなたを好きになるはずよぉ。』
『風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ 砕けてものを 思ふころかな。』
『えぇ?なんだって?村田 久美って…誰なんだぁ。俺にはまったく、覚えがないし、記憶にもないけど…。恐ろしい事が起きるのかも…』
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