第47話 八重むぐら 茂れる宿の さびしきに

『先生、先生、おはようございます。もう、先生ったら、原稿書いたまま寝てしまうなんて…あれぇ、これは違うわぁ。私の事ねぇ。』

『あぁ…ごめん、ごめん、寝てたよぉ。』

『先生、このメモは何ですか…久美、幽体離脱、予知夢って…』

『いやぁ、以前、不思議な事が起きたと言っていたから、整理してたんだぁ。』

『そうだったんだぁ。なるほどねぇ?先生は調べないと気がすまないタイプですからねぇ。』

『そうそう、そう言えば、最近、押入れを整理していたら…昔の写真が出て来たんだけど…』

『えぇ、どれどれ、かわいい。先生は多摩動物園に行っていたんですねぇ?』

『そうなんだぁ。おじさんの家に招待された時にたまたま、多摩動物園に行って家族で記念に写真を取ったのさぁ。』

『そうなんだぁ。お母さんとお兄さんと先生かなぁ?』

『そうだねぇ?でも、不思議な写真なんだぁ。母親に昔のこの写真を見て、この後ろ姿の男性は明らかに父親だと言うんだ。すでに父親が亡くなっていたのに…でもねぇ。この男性と話しているのが久美ちゃんなんだよぉ。』

『えぇ?まさかぁ…。嘘!本当だぁ。あり得ないって…でも、間違いなく私だわぁ。』

『でしょ?この時代にここに来た覚えはないのかなぁ?』

『ないわよぉ。人違いじゃないかなぁ!世の中には自分と似ている人が3人いるとは言うし…』

『そうかなぁ…あきらかに当時にはいないような服装だったり、髪型だったするし、1番気になるのは…スマートフォンなんだよなぁ。誰かに電話しているように見えるだよなぁ。』

『そうかなぁ…。たぶん、鏡でも落としてそう見えるのよぉ。』

『あぁ…なるほど、そうだよねぇ?この時代にいるわけないよねぇ?』

『もう、私をタイムトラベラーや幽霊と喋れる奇妙な人にうつるでしょ?』

『そうだよなぁ。夢のように魂が抜けて気付かないうちに肉体が移動の幽体離脱、予知夢、イマージネションフレンドにタイムトラベラー、幽霊と喋れる…が追加されたらたまらないもんなぁ。』

『ちょっと、ちょっと、すでに馬鹿にされていますけど…』

『あぁ、ごめん、ごめん、悩みの種だったのに…無神経で申し訳ない。』

『大丈夫よぉ。先生は特別よぉ。』

『そうそう、そう言えば、朝食は食べたのぉ?』

『いやぁ、まだだよぉ。いつも、買ってもらっているからねぇ?』

『もう、相変わらずですねぇ?毎回、買って来れるとは限らないですよぉ!』

『そうかなぁ…。いつも、期待を裏切らないのが、久美ちゃんだからなぁ。』

『ちょっと、ちょっと、今日は買ってきてないわよぉ。』

『えぇ?冗談でしょ?本当に?』

『本当よぉ…。でも、たまには冷蔵庫にあるもので朝食なんてどうですか?』

『まぁ、悪くないかなぁ…。』

『先生、冷蔵庫開けるねぇ?』

『あぁ、良いよぉ。』

『うどん、椎茸、鶏肉、人参、冷凍野菜の里芋ねぇ。よし!決めた。『うどん』を作るねぇ?』

『あぁ、有難う。』

『まずは、冷凍の里芋を軽く水洗いして、ボールに出汁と醤油と味醂を入れて、里芋を付けて30分寝かせてと…』

『久美ちゃんも料理では一人言を言うんだぁ?

私も含めて、家族も同じだから、家に帰ったみたいでほっとするなぁ…』

『そうかしら?有難う。さてぇ、次は鶏肉と椎茸、人参を切って置いてっと、そしてうどんを鍋で湯がいてっと。』

『手際が良いんだねぇ?』

『そりゃそうよぉ。待っている素敵な人がいればなおさらよぉ。』

『そろそろ、大丈夫かなぁ。冷蔵庫から里芋を出して5分レンジでチンしてっと。よし、里芋は大丈夫だなぁ。味も染み込んで美味しい。』

『なるほどねぇ?冷凍里芋に芯が固くて作るのが難しかったけど…簡単に出来るんだぁ。』

『私もたまたま、知ったのよぉ。私も上手に作れなかったけど…。本当は冷蔵庫に1日浸けておけば美味しいわよぉ。』

『そうなんだぁ。流石は女将さんですなぁ。もう、うれしい事をさり気なく言うんだから…。あぁ、そうそう、里芋に浸けていた出汁をわけて、一つはうどんを入れて温めて、もう一つの出汁に先程、切った鶏肉、椎茸、人参を入れます。少し砂糖を入れて温めます。そして、片栗粉でトロミを付けてうどんにかければ『和風出汁あんかけうどん』の出来上がりです。』

『すごいねぇ?これを朝から食べれるのは最高だなぁ。有難う。』 

『いえいえ、いつかは、先生に食事を作ってあげようかなぁ〜っと思っていたのでお礼が出来て良かったわぁ。さぁ、食べましょう。』

『旨い!こりゃ、最高だなぁ!こんなに美味しいうどんなら毎日食べたくなるなぁ。』

『もう、先生ったら、有難うねぇ?お世辞でもうれしいなぁ。少し、自信になりました。』

『いやいや、お世話なんて言ってないさぁ!ありのままの事を言ったのさぁ?それに、自信とは自分を信じる事から始まるんだよぉ。』

『なるほど…自分を信じる事かぁ。なんか、先生といるとすごく『元気』になるねぇ?』

『そっかなぁ。少し、自信になったなぁ。癒やし系で元気になる。太陽にも負けない笑顔が素敵とはなぁ。』

『ちょっと、ちょっと、そこまでは…。まぁ、先生には敵わないなぁ?』

『有難うねぇ。おいしかった。ごちそうさまでした。』

『いえいえ。』

『あぁ、そうそう、原稿が出来ているから、宜しくねぇ。』

『危ない、危ない、すっかり、忘れるところでした。では、先生またねぇ?』

『あぁ、またねぇ。』



『それにしても、久しぶりに素敵な人に料理を作ると簡単な料理でさえ、疲れるなぁ。少しだけ、寝ようっと。電車の中はよく眠れるからなぁ…』


『久美さん?久美さんですよねぇ?』

『はい?ここは…』

『ごめんねぇ?遠いところまで来てもらって…』

『えぇ?どう言う事ですか…』

『ここは、今から20年前の多摩動物公園ですよぉ。』

『えぇ?もしかして?』

『そうですよぉ。先程、写真で見た場所です。』

『とい事は?』

『私は、坂浦 瞬の父親の坂浦 瞬一です。すでにこの世にはいないですが…あなたを探していました。』

『すいません…。突然の事で理解に苦しむのですが…ちょっと、警察に電話しますねぇ?』

『繋がらないよぉ。』

『えぇ、圏外って…もう、帰らないと行けないから、元の世界に戻してもらえます。』

『ちゃんとこれまでの経緯を説明するから…少しだけ時間を下さい。私は、死んでも死にきれないのです。お願いします。このとおり…』

『頭を上げて下さい。解ったわぁ…。聞きたくないけど…聞くわぁ。』

『有難うございます。有難うございます。実は、私と久美さんは前世では恋人同士でした。しかし、久美さんを白血病で亡くし、死ぬタイミングが重ならずに、私は生きておりました。しかし、私は交通事故に逢ってしまいました。時の流れは不運なもので、私の子供の瞬に久美さんとの恋人同士だった当時の記憶が入ってしまいました。もちろん、久美さんは一緒懸命に私を探してやっと、私の記憶をもった瞬を探す事が出来たのです。しかし…私と久美さんとの記憶をもった瞬は徐々に記憶がなくなります。それを伝えなければならないと思いまして…。』

『えぇ?私はどうすれば良いのですか…』

『それは、病院で寝ている久美さんが成仏するしか方法がありません。』

『はぁ?どう言う事?私は生きているでしょ?』

『生きているようで、死んでいるといった状態です。』

『あぁ、よく解らないなぁ。もう、帰るわぁ。』

『あぁ…そんなぁ。振り返らないでぇ…私は消えてしまいます…』

『ちょっと、怒ってしまったけど…ごめんなさい。えぇ?いないなぁ…何処かしら…。』


『あれぇ、変な夢を見たなぁ。なんだったのかしら?来週でも、さり気なく聞いてみようかなぁ。父親の名前が瞬一?』


『さてぇ、今日は久しぶりに久美ちゃんに料理を作ってもらったなぁ!おいしかったなぁ。元気100倍、アンパ〜ンチ!なんてなぁ。さぁ、今日もバリバリ頑張って作品を作るぞぉ!』

今日の百人一首は…

『恵慶法師〜八重むぐら 茂れる宿の さびしきに

 人こそ見えね 秋は来にけり』

20××年

『えぇ?ここは?』

『私だって、知らないわよぉ?』

『それにしても、ここはどこだろうねぇ?』

『周囲にはあばら屋みたいな小屋があるけど…』

『そうだねぇ?あれだと、秋の気配を感じる季節にはきついだろうなぁ?』

『ちょっと、待って…これは何かしら…?』

『勝つまでは忍耐 日本国民は負けません!大日本帝国万歳。』

『もしかして?もしかして?』

『戦前じゃないのぉ?』

『ウゥ〜 ウゥ〜 空襲警報発令!空襲警報発令!』

『早く、早く、隠れないっと…誰か来たわよぉ!』


『久美ちゃん、大丈夫かい?』

『私は大丈夫よぉ…瞬一さん。』

『何でなのぉ…。この戦争が私達を…』

『大丈夫だよぉ。俺達は生きている。それだけでも幸せだよぉ。ほらぁ、防空壕があるよぉ。』

『良かった。街中は火の海で私達は生きる事が出来るかなぁ。』

『もちろんだよぉ。一人ならきっと生きていくには厳しい世の中になるけど…』

『そうねぇ?私には瞬一さんがいますからねぇ?』

『いやぁ、私には久美さんがいるからですよぉ。』


『えぇ?どうなっているんだぁ?』

『もしかして、先生のお父さん?』

『えぇ…本当だぁ。若い頃の父親だなぁ。どうなっているんだぁ…』

『隣にいるのは…久美ちゃん?』

『確かに、私に似ているけど…』

『もしかして…?』


『瞬一さん…』

『久美さん…』


『えぇ…どうなっているんだぁ。』

『あばら屋みたいな小屋で愛しあっているなんてぇ…』

『八重むぐら 茂れる宿の さびしきに 人こそ見えね 秋は来にけり』

『ちょっと。ちょっと。のんきに百人一首を思い出さないでよぉ?もしかして…私達の出逢いは運命的ではないのかも…すれ違いなんじゃない?』

『いやいや、そんな事はないって!』


『えぇ?どうなっているんだぁ!父親と久美ちゃんが恋愛していたって…あり得ない。あり得ないって…それに、父親は戦後に生まれたはずだからきっと夢でも見ていたに違いないって…。しかし、戦時中の服装ではなかったけど…どうなっているんだぁ…?』



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