第46話 由良のとを 渡る船人 かぢを絶え
『先生、おはようございます。』
『あぁ、おはよう…』
『あれぇ、素っ気ないなぁ?どうしました?悩みごとですかぁ?』
『ちょっと、不思議な事が…』
『ちょっと、突然どうしました?もう、朝からスキンシップって…うれしいなぁ。』
『肌の感触、温もりもあるよなぁ。突然、ごめんなぁ。』
『もしかして、この世に存在していない幽霊とでも?』
『まぁ、そんな感じかなぁ…。』
『もう、悪い夢は止めて下さいよぉ。存在しているでしょ?それなら、これでどうだぁ。』
『えぇ?キスって…。』
『今回だけですよぉ。はい、いつもの、ルイボスティー、ハムとチーズのサンドイッチ、ソフトサラダとパクチー大量のサラダですよぉ。』
『あぁ、ありがとう。』
『もう、先生は執筆活動で忙しいから変な存在するんですよぉ!そういえば、昨日、『世にも奇妙な物語』見ましたか?』
『あぁ、見たよぉ。確か『イマジナリー フレンド』が題材だったなぁ。』
『先生にはありますか…』
『そういえば、昔から1人事が多かったからいたのかもなぁ。授業中に『あぁ、そっかぁ。そうだよなぁ。だろうと思った。なるほどなぁ。』が口癖だったから、よく先生から黒板に授業内容を板書していたらたいてい、『おい!そこ?隣と喋らない。授業に集中しろ!』って怒られたからなぁ。』
『なら、間違いなくいたねぇ?』
『そっかなぁ?あんまり感じた事がないけどなぁ…』
『久美ちゃんはいたのぉ?』
『そうだなぁ。私は今でもいるかなぁ…』
『えぇ?本当に?どんな感じ?』
『そうだなぁ。今でも隣にいるけど…可愛くて、化粧をして、猫のようにひょいといなくなるけどとても寂しがり屋で私の為に頑張ってしまう小猫がねぇ。』
『へぇ、そうなんだぁ。もう少し聞かせてよぉ。どんな感じに存在しているのぉ?』
『そうだなぁ『トムとジェリー』に出てくるネズミのジェリーが近いかなぁ。あれの猫バージョンで常に軍服かなぁ…を着ていてとにかく全身綺麗な毛で覆われているのぉ。とても綺麗で素敵よぉ』
『今度、逢えたら良いけどなぁ?』
『今も、私の肩に乗っているわよぉ。以前は私達の関係にヤキモチを妬いていたけど…今は大丈夫になったわぁ。』
『ねぇ?』
『ちょっと、ちょっと、こっちは見えないからこっちがヤキモチを妬いちゃうな…』
『もう、先生ったら、カワイイ。』
『そうかなぁ?やっぱり、側にいるというだけで辛いんだよぉ。』
『そう、なんだぁ。有難う。私は死ねないねぇ?』
『おいおい、縁起でもないなぁ…。そんな事冗談でも口にしないでくれよぉ。』
『そうねぇ?ごめんねぇ。そう言えば、最近、寝ている時に魂だけが先生の側に行く事があると伝えたでしょ?』
『あぁ、そうだねぇ?奇妙な事があったから信じるよぉ。』
『実は昨日ねぇ?夢を見たのぉ?』
『えぇ?どんな夢?』
こんな夢よぉ…
『地震よぉ。』
『これは大きいなぁ』
『ガタガタ〜 グラグラ〜 ガタガタ〜 グラグラ〜 ガチャン!
バリバリ…ガタガタ〜 グラグラ〜 ガタガタ〜 グラグラ〜 バタン!
グラグラ〜…』
『ほらぁ、こっちに来て。大丈夫だよぉ。俺が守るから。』
『有難う。』
『ガタガタ〜 グラグラ〜 ガタガタ〜 グラグラ〜 ガチャン!
グラグラ〜…』
『ふぅ、やっとおさまったみたい…怖かった。』
『あちゃ、食器棚から食器やらグラスが落ちて散乱しているなぁ…あぁ、久美ちゃん怪我はないかい?』
『私は大丈夫よぉ。』
『テレビ、テレビ付けなきゃ。』
『近況、地震速報です。
本日、15時15分 埼玉県川口市を震源にマグニチュード7.5の地震が起きました。『首都直下地震』が発生しました。
なお、マグニチュード7 東京都北区、千代田区、中野区他23区
マグニチュード6 横浜市、川崎市…
これより、津波が予想される為に避難を行なって下さい。政府は『首都直下地震対策チーム』を結成し、自衛隊の要請を行いました。』という夢よぉ。
『まさかぁ…あり得ないでしょ?あれぇ、後5分でその時間だなぁ…』
『くるわよぉ。間違いなく。急いで、食器棚をガムテープで止めて!』
『あぁ、こうだなぁ…』
『よし、机の下に隠れよう。』
『ガタガタ〜 グラグラ〜 ガタガタ〜 グラグラ〜 ガタァ、ガチャ、ガチャ。
ガタガタ〜 グラグラ〜 ガタガタ〜 グラグラ〜…』
『ほらぁ、もっと側に来て。俺が命にかえても守る。』
『あぁ、有難う。』
『ガタガタ〜 グラグラ〜 ガタガタ〜 グラグラ〜 ガタガタ〜 グラグラ…』
『やっとおさまったみたい…怖かった。』
『久美!大丈夫だぁ。』
『有難う。チュ。』
『あぁ…。テレビ、テレビを付けよう。』
『近況地震速報です。
本日、15時15分 茨城県日立市を震源にマグニチュード6の地震が起きました。
なおマグニチュード5は埼玉県秩父市、川越市、東京都千代田区、新宿区他23区…
マグニチュード4は東京都八王子市、調布市…なお、この地震による津波の心配はございません。』
『久美ちゃん、これは予知夢だったんだねぇ?』
『でも、震源地や被害状況が変わったわぁ。』
『もしかして…』
『でも、久美ちゃんのおかげで回避できたから有難うねぇ。』
『そうねぇ。でも、今日は疲れたわぁ。』
『そうだねぇ?今日はゆっくりと休んだ方が良さそうだねぇ?』
『はい、原稿を渡しておくねぇ。』
『有難う。』
『それにしても、なんでかなぁ…予知夢の話をしたのかなぁ。現実に起きたけど…被害状況も変化したし、先生の家にも被害がなかったけど…』
『私よぉ。私があなたの身体をつかって伝えたのぉ…』
『えぇ?あなたは誰?声だけが聞こえるけど…』
『ちょっと、黙っていないで教えてよぉ。』
『…』
『それにしても、久美ちゃんには不思議な力があるなぁ…。魂が抜けたり、予知夢があったりと…あまりに突然の事で驚くけど…まぁ、良いかぁ。さぁ、仕事。仕事。』
今日の百人一首は…
『曾禰好忠(そねのよしただ)〜由良のとを 渡る舟人 かぢを絶え 行方も知らぬ 恋の道かな 』
20××年
『先生、私、私、おかしくなってきたみたい。』
『えぇ?どういう風に?説明しないと助けられないよぉ。』
『私は、この世に存在していなくて、唯一、見えるのは先生だけで、予知夢も先生を守る為で、魂だけが肉体を持ち存在するのよぉ。』
『何を言っているんだよぉ。そんな事はないって…考え過ぎだよぉ。』
『現実に目の前に存在しているし、目の前に置いてあるルイボスティーやサンドイッチやサラダは誰が買ってきているんだよぉ。それに、久美ちゃんが飲んでいたコーヒーだって無くなっているじゃないかぁ。』
『ほらぁ、久美。こっちにおいて…もう、大丈夫だよぉ。』
『有難う。先生。いつも優しいねぇ?でも、真実なら怖いなぁ…』
『何を言っているんだよぉ。久美はずっと一緒だよぉ。もし、他人からみえていなくて存在していなくても、俺にはちゃんと見えていて存在している。』
『そうかなぁ…ほらぁ、元気出して、笑顔、笑顔。笑顔にまさる宝石はないんだよぉ。』
『ですねぇ?有難う。先生。恋の行く末の不安が過剰になったみたいです。』
『大丈夫だよぉ。一緒に幸せになろう?』
『もう、先生ったら…それを早く聞きたかったなぁ…』
『由良のとを 渡る舟人 かぢを絶え…』
『えぇ!えぇ?存在していない?予知夢は俺を守る為?魂が肉体になるって…あり得ないよなぁ。あり得るわけがないって…』
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