第50話 君がため 惜しからざりし 命さえ

『先生、おはようございます。』

『あぁ、おはよう。今日は久しぶりに気持ちが良い朝だねぇ?』

『そうですねぇ…。』

『あれぇ、元気がないなぁ?どうしたのぉ?』

『先生、忘れていませんかぁ?』

『えぇ?何を?』

『ちょっと、ひどくないですかぁ?』

『だから、何を?』

『だから、先週、江ノ島水族館に連れて行ってくれるって…言ってくれたので、連絡を待っていたんですよぉ!』

『あぁ!すっかり忘れていた。』

『最低。』

『ごめん、ごめん。今から行こう!仕事なんてぇ…後回しだぁ。』

『えぇ?大丈夫何ですか?私の為に、そんな事は出来ないですよぉ。冗談ですてぇ。無理しないで下さいよぉ。』

『いやいや、大好きな久美ちゃんを困らせてしまったんだよぉ。それも大切な約束じゃないかぁ!』


『ちょっと、待ってて。えぇ、そうなんですよぉ。最後の文章が書けなくて、実際に現場に行きたいと思うので…すいませんが付き添って…もらうわけには…』

『もう、しょうがないなぁ…。解りました。それなら、直帰の申請を出しますので…原稿は必ず持たせて下さいねぇ?』

『はい、はい、必ず持たせますので!』


『良かったねぇ?久美ちゃん。』

『えぇ!本当に!うれしいなぁ。先生とデートなんてぇ…最高だなぁ。』

『えぇ?本当に私で良いのぉ?』

『そりゃ、大好きな先生とならうれしいですよぉ。』

『よし!行こう!あぁ、しまった。車は車検に出していて、明日取りに行くんだった。電車で大丈夫かなぁ?』

『もちろん大丈夫ですけど…条件がありますが?』

『えぇ、なになに?キスをしないとダメとか?』

『もぅ!先生ったら…恥ずかしくなるでしょ?違うわよぉ。手を握って欲しくてぇ?』

『もちろんだよぉ。久美行こう!』

『えぇ!ちょっと、優しく触ってほしいなぁ…』

『あぁ、ごめん、ごめん、なれていなくて…あれぇ、この感覚って…懐かしいけど…何なんだぁ。』

『どうしたのぉ…?ボケッ〜っとして?』

『そう言えば、最近、電車に乗っていなかったから片瀬江ノ島って…何処だっけなぁ〜って…』

『先生、ここですよぉ。』

『なるほど、ここからなら、片瀬江ノ島方面だなぁ。近いねぇ?』

『近いのはなぁ…先生と一緒に話す時間が短くなるなぁ。』

『えぇ?それって、一緒にいたいって…事?』

『そりゃそうですよぉ。先生、先生、江ノ島水族館割引チケットがあるみたいですよぉ。江ノ島水族館と往復の切符が付いてお得みたいですよぉ。あぁ、藤沢駅から江ノ電も乗れるみたいですよぉ。』

『あぁ、本当だぁ。これはお得だなぁ。江ノ電は狭い街中や海沿いを走るから最高なんだよなぁ!』

『では、それで行きましょう。』


片瀬江ノ島行が到着致しますので、白線の内側までお下がり下さい。

『先生、来ましたよぉ。電車。』

『あぁ。』

『先生、緊張してるなぁ。かわいい。』

『席が空いているねぇ?座ろう。』

『ですねぇ?ところで、江ノ島には何度か行った事があるんですか?』

『学生の頃はバンドの仲間と海でバーベキューしたり、鵠沼海岸でナンパしたりとしたかなぁ?』

『えぇ?ナンパですか?』

『若い頃だよぉ。』

『でも、奥手で撃沈でしょ。』

『そうだねぇ。久美ちゃんは何でもお見通しだなぁ。』

『あぁ、そうそう、鵠沼海岸でナンパに失敗して、江ノ島に行ったんだよぉ。その時に初めて江ノ電に乗ったなぁ。』

『えぇ?意外だなぁ?誰と行ったんですか?』

『たぶん、大和じゃないかなぁ…。バンド組んでいたから、バンド仲間と海に行ってコンタクトレンズを無くしたんだぁ。思い出したよぉ。たまたま、眼鏡を持参していたから良かったけど…ナンパは撃沈したんだった。大和は無精髭をはやしていたし、コンビニのバイト明けだったなぁ。』

『そうなんだぁ…。解るなぁ。でも、私もその場に居たかったなぁ…。』

『いやぁ、最悪だよぉ。バンド仲間の友人は最悪だったなぁ。機関銃っか…マシーンさぁ。』

『あぁ…なるほどねぇ?若い頃は誰とも寝るって…感じですねぇ?』

『そんな感じだなぁ。まぁ、俺と大和はこう見えて一途な性格だったからお互いにブレーキを駆けていたからなぁ。』

『ですねぇ?そんな性格だから好きになったのですよぉ。』

『そうだなぁ。俺達も気がつけば長いなぁ。』

『あぁ、着きましたよぉ。藤沢駅に。』

『ここから、江ノ電に乗り換えだなぁ…楽しみだなぁ。』

『ですねぇ?楽しみですねぇ?あれぇ、藤沢駅から10分ですけど…海が見えるのですか?』

『しまった!江ノ島から先だったなぁ…海沿いを走る場所や住宅地を走るのは…ごめん。』

『大丈夫ですよぉ。今度、鎌倉に行く時にリベンジですよぉ?』

『もちろん。着いたよぉ。江ノ電の江ノ島駅に。』

『先生、すなば通りって、昔ながらな感じで素敵ですねぇ?』

『そうだねぇ?潮の香がするし、紀伊国屋旅館や石政旅館などの老舗旅館があったり、土産物店があるから風情があるねぇ?浴衣とか着たら最高だろうなぁ?』

『ですねぇ?たまには、江ノ島に1泊もありですねぇ?』

『そうだねぇ?久美ちゃんの浴衣姿は綺麗なんだろうなぁ。』

『もぅ、先生ったら。うれしい事をさり気なく言うだから…。先生、見て、見て、江ノ島弁天橋ですよぉ。』

『おぉ!テンション上がるねぇ?あぁ、そうそう、少しお腹が空いたでしょ?』

『お腹がペコペコだなぁ。』

『良かった!江ノ島に入って仲見世通りがあるでしょ?ここには、シラス丼や魚介の美味しいお店があるんだよぉ?』

『へぇ?そうなんだぁ。行きたいなぁ?』

『待ってました。これから行くところは『とびっちょ 江ノ島弁財天仲見世通り店』だよぉ。』

『ここは、グルメ番組で出ていたシラス問屋のお店ですよねぇ?一度行きたかったんだぁ。うれしいなぁ。』


『いらっしゃいませ?何名様ですか?』

『2名です。』

『はい、こちらにどうぞ?』

『とびっちょ丼2つと江ノ島ビール2本とシラスコロッケ2個。』

『えぇ?メニュー見ないですか?』

『大丈夫だよぉ。このお店のオススメメニューだからねぇ?』

『店員さん、本当ですか?』

『そうよぉ。ここで1番人気ですよぉ。』

『へぇ、そうなんだぁ。楽しみだなぁ。』

『はい、お待たせしました。』

『すごい!こんなに贅沢な丼ぶりは初めてだなぁ。先生有難うございます。』

『良かった。喜んでくれてうれしいなぁ。』

『そりゃ、こんなに贅沢な丼ぶりですよぉ。テンション上がりますよぉ。』

『ちょっと待って。久しぶりにのんびり出来た記念に江ノ島ビールで乾杯しよう?』

『そうですねぇ?カチン。』

『いやぁ、旨い!この喉越し最高だなぁ!』

『本当ですねぇ?ここで飲むビールは江ノ島ビールですねぇ?』

『でしょ?』

『はい、お待たせ致しました。シラスコロッケです。』

『あぁ、有難う。』

『美味しい。シラスの味が格別ですねぇ?江ノ島ビールに合いますねぇ?』

『でしょ?』

『それにしてもとびっちょ丼も最高!やっぱり、江ノ島に来たらここに寄るに限りますねぇ?』

『あぁ、美味しかった。最高だなぁ。』

『ですねぇ。先生、ごちそう様でした。』

『いえいえ、どう致しまして。』

『先生。すごい行列ですねぇ?あれは何かしら?』

『あぁ、あれは噂の『蛸せんべい』だよぉ。』

『へぇ、そうなんだぁ。ちょっと、食べたいなぁ。今度は私が払うから良い?』

『えぇ?良いのぉ?』

『もちろんですよぉ。先生、すごい、見て見て、顔以上にあるんだぁ。』

『美味しい。先生も食べて?』

『おぉ!旨いなぁ。あぁ、そうだぁ。江島神社の参拝はどうする?』

『ここまで来たら、行きたいけど…今日の目的は江ノ島水族館だからそっちに行きたいなぁ。』

『名残惜しいけど…行こうかぁ。』

『ですねぇ?』

『あれぇ、すごい美味しそうな匂いがしますけど?』

『本当だなぁ。醤油の香ばしい匂いだなぁ。あぁ、ここは!磯焼きで有名な『貝作』だよぉ。少し、寄って行って良いかなぁ?食べたくなったなぁ…』

『まぁ、少しなら大丈夫ですけど…』

『おぉ、サザエとはまぐりが美味しそうだなぁ。よし、決めた。アサヒ スーパードライとサザエとはまぐりを頼むかなぁ。』

『もう、先生ったら、しょうがない付き合いますよぉ。』




『ビールとサザエとはまぐりですねぇ?今から、焼くから、ここに座って。はい、ビールです。』

『うわぁ!最高!やっぱり、海にはビールは最高だなぁ。』


『それにしても、今日はついてますよぉ。これから、観光バスツアーが来る時間になるけど…30分程遅れているから空いているんだよぉ。』

『へぇ、そうなんだぁ。江ノ島水族館は混んでますか?たぶん、大丈夫だよぉ。先に江ノ島水族館に行ってからの観光バスツアーだからねぇ?』

『そうなんだぁ。タイミング良かったんですねぇ?』

『そうだねぇ?新婚旅行にはタイミング良かったと思うなぁ。』

『えぇ?新婚?』

『えぇ、違うのかい?新婚さんだと思っていたよぉ。でも、これだけお似合いの2人なら今日は特別だぁ。イカ焼きをサービスするよぉ。』

『あぁ、有難うございます。』

『いやぁ、旨いなぁ。ビールに合うな、はまぐり、サザエ。』

『はい、お待ち!イカ焼きだよぉ。』

『えぇ、頼んでいないけど…』

『なぁ〜に、綺麗な奥さんのおかげで、お客さんが増えたから助かるよぉ。これはサービスだよぉ。』

『あぁ、有難うございます。』

『えぇ?いつの間に?』

『さっき、店員さんに江ノ島水族館が混んでいるかぁ?聞いたのぉ。そしたら、新婚旅行だと思ってサービスしてくれたのぉ。』

『なるほど…。ほらぁ、久美も食べよう。』

『あぁ、有難うございます。って…すでにビール2本も開けているんですかぁ?すでに、はまぐりやサザエがなくなっているじゃないですか?』

『いやぁ、久美といるだけでうれしくてつい…』


『あいよぉ。追加のはまぐりとサザエです。』

『もう、先生ったら。あぁ、本当だぁ。はまぐりやサザエにはビールが合いますねぇ?確かに、ビールには合いますねぇ?』

『だろう?海にはビールだろ?』

『ですねぇ?海にはビールは最高!あぁ、美味しかった。では、新江ノ島水族館に行きましょう?』

『そうだなぁ。』

『着きましたよぉ。新江ノ島水族館に。』

『えぇ?ここなんだぁ。綺麗になっているなぁ…ビックリしたよぉ。昔は江ノ島水族館マリンランドだったから…こんなにもなっていたんだぁ。イルカショーはあるのか?』

『もちろんありますよぉ。でも、見たいのはクラゲなんだぁ。すごい、綺麗なんですよぉ。あぁ、そう言えば、昔ドラマの撮影場所だったんですよぉ。』

『あぁ、見たことあったかもなぁ。』

『でも、覚えていないじゃない。いやいや、主題歌が有名だったよなぁ?確か、流星じゃなかったかなぁ?』

『先生、流石ですねぇ?コブクロの流星ですよぉ。良かった…私、この曲好きで、歌詞に出てくる場所に行きたかったんですよぉ。』

『なるほどなぁ。よし、入ろう。』

『楽しみだなぁ。先生、見て見て?熱帯魚ですよぉ?』

『そうだねぇ?綺麗なドレスを着て武道館に行きそうだなぁ?』

『ちょっと、ちょっと、武道館って…これから剣道や柔道の試合に行くみたいじゃないですか?それを言うなら舞踏会ですよぉ?』

『そうそう、舞踏会だなぁ。』

『ですねぇ?綺麗なドレスかぁ?例えが素敵ですねぇ?』

『そっかなぁ…』

『私は今が舞踏会ですけど…』

『あれぇ、今何か言った?』

『いえいえ、何も言ってないですよぉ。危なぁ、心の声がだだ漏れじゃん…ふぅ。』

『久美?見てこうか?イルカショー?』

『ですねぇ?私は久しぶりだなぁ。イルカショー。』

『どのくらい振りなのぉ?』

『たぶん、タイムトラベルしてからは記憶にないなぁ。でも、その前は中学校の遠足で行ったきりかなぁ…だから10年振りとかじゃないかなぁ?』

『そうなんだぁ…。先生?』

『そうだなぁ。たぶん、この時代にタイムトラベルしてからは初かなぁ。』

『昔の記憶はあるのぉ?いやぁ、ないんだよなぁ。』

『そっかぁ。なら、お互い好きな人とは初めてになるねぇ?』

『久美?』

『もう、さり気なくキスは良くないなぁ…イルカショーが始まる前で良かったけど…これ以上はダメよぉ。ほらぁ、イルカが出て来ましたよぉ。』

『おぉ!挨拶しているねぇ?』

『本当だねぇ?かわいい。』


『ザッザッザッザァー。あれ、どうなっているんだぁ…』

『瞬ちゃん、イルカショーが始まるよぉ。どうしたのぉ?久しぶりだから、今日は化粧を頑張ったんだぁ。私の顔に何か付いている?』

『えぇ?誰?』

『何を言っているのぉ?幼なじみの久美よぉ。』

『えぇ?俺の知っている久美じゃないなぁ…』

『もう、うれしいなぁ。化粧を初めてしたからビックリしたのぉ?江ノ島水族館で待ち合わせしてからキョロキョロしているけど…はい、ソフトクリーム。好きな味が解らなかったからチョコとバニラを買って来たけどどっちがいい?』

『じゃ、チョコでぇ。』

『美味しいねぇ?夏休みで混んでいるけど…席が取れて良かったねぇ?』

『そうだねぇ?美味しいなぁ。ソフトクリーム!』

『でしょ?』

『おぉ!イルカショーが始まるみたいだねぇ?』

『かわいい。上手に挨拶しているねぇ?』

『そうだねぇ?そう言えば、大学は何処に進学するか決まったのぉ?私は瞬ちゃんと同じ大学にしようかなぁ?』

『えぇ?同じ大学?』

『付き合ってかれこれ3年でしょ?とは言え、小学校からの幼馴染みで家も近所なら必然かなぁ?瞬ちゃんは昔から頭が良かったから現役で安全圏だと法大か明治かなぁ?』

『いやぁ、決めてないなぁ。なら、私が決めても良い?』

『もちろんだよぉ。なら、一緒に大学に行きたいから日大で良いかなぁ。』

『あぁ、もちろんだよぉ。』

『良かった。キャ!水しぶき。もぅ。瞬ちゃんごめんねぇ?』

『あぁ。』

『瞬ちゃん…大好き。チュウ。』


『ザッザッザッザァー。えぇ、どうなっているんだぁ。』


それでは、これから、ここにいるイルカ達があの輪をくぐってボールにタッチしますので、成功しましたら、盛大な拍手をお願い致します。

『先生、先生?ちょっと、私を見つめていないでイルカショーのクライマックスですよぉ。』

『あぁ、そうだねぇ…。さっきのは一体なんだったんだぁ。思い出せないなぁ。今から、10年前に何があったんだぁ。』

『先生、すごかったですねぇ?』

『そうだねぇ?』

『次は、クラゲを見に行きますよぉ。』

『そうだねぇ?楽しみだなぁ。』

『先生、先生、すごい!クラゲがこんなにいますよぉ。』

『本当だなぁ。こんなにいると気持ち悪くなるなぁ…』

『ですねぇ…。ねぇ?先生、こっちは綺麗ですよぉ。白いドレスを着たお姫様みたい?』

『そうだなぁ…。ザッザッザッザァー。』


『えぇ?ここは?どこだぁ?』


『瞬ちゃん、ごめんねぇ?私達は結婚出来ないのぉ?』

『えぇ?どうして?なんでだよぉ。お互いで好きだっただろ?あれ程愛し合って、同じ大学に通って、俺は小説家になって、久美は出版社に入って俺の担当になっただろ?それに、俺達は結婚するんだろう?どうしてなんだぁ!』

『駄目なのよぉ。そんな…頼む。俺の大好きな白いワンピースを着ているなら、もっと近くに来てくれよぉ…』


『ザッザッザッザァー。あれぇ、どうして泣いているんだぁ。』

『先生、先生、大丈夫ですか…?』

『えぇ、今、何かあったのぉ?』

『えぇ?知らないんですか?綺麗なクラゲを見た瞬間、『逢いたかった。やっと逢えたねぇ?お前に逢いたかったんだぁ。』って…崩れるようにしゃがみこみ泣き崩れたでしょ?』

『えぇ?そんな事が…』

『確かに、綺麗ですけど…小説のワンシーンと重なったのですか?』

『そうそう、そうなんだぁ。この最後のシーンなんだよぉ。結婚して3日目に戦場に行き戦場から帰ってくる思って白いワンピースを来ながら…駅が見える丘から夕暮れの街を眺める日々が日課としていた。そんな時に木箱に入った戦死届けが届く。白いワンピースを来ながら、毒薬を飲むが、息を引き取るタイミングで戦死したと思ったご主人が帰ってくるんだぁ。最後に『月光の鮮やかな輝きを浴びた海辺に佇む白いドレスをまとった貴婦人のように…』』

『なるほど…なんて素敵な作品なんでしょう?確かに、この女性とクラゲと重なる部分がありますねぇ。』

『あぁ、ごめん。これ以上は読まないでねぇ。ネタバレになってしまうからねぇ?』

『もちろんですよぉ。やっと、落ち着いたみたいですねぇ?行きましょう?』

『そうだねぇ。行こう。』


『あぁ、そうだぁ。久しぶりに海を散歩しません?』

『そうだねぇ?せっかく、海に来たんだからねぇ?』

『先生、すごく気持ち良いですねぇ?』

『そうだねぇ?こんなに天気が良くて、青い空は最高だなぁ。』

『ですねぇ?先生、ほらぁ?』

『おい、海水が服にかかったぞぉ。こらぁ、待て!』

『待ちませんよぉ。先生、私を捕まえて見てねぇ?』

『待てぇ。捕まえたぞぉ。ふぅ。やっと捕まえた。』

『先生?砂浜に寝転ぶと気持ち良いですねぇ?』

『久美。俺は久美が大好きだぁ。』

『もぅ。先生、重いって…上に乗っかからないでよぉ。』

『久美を見ていていたいんだぁ。』

『先生…チュ。』


『もぅ、他の人がくるから…恥ずかしいから退いて下さいよぉ。』

『あぁ。ごめん、ごめん。』

『あぁ、あそこに座りません?流木がありますよぉ。』

『そうだねぇ?』

『それにしても、海って…素敵ですねぇ?』

『もっと一緒に居たくなるなぁ。』

『私も一緒にいたいなぁ。それにしても、夕陽に染まる海って…ロマンチックですねぇ?』

『久美…』

『先生…』

『先生の温もり温かいなぁ。』

『久美…チュ。』


『ザッザッザッザァー。あれぇ、君は誰なの?』

『もぅ、久美だよぉ。イルカショーの後に、砂浜を歩いていたら、急に倒れて心配したわぁ?木陰で休んで、水を飲んだら大丈夫みたいだねぇ?良かった。心配したんだからねぇ?』

『あぁ、有難う。』

『見て、見て、瞬ちゃん、夕陽が綺麗よぉ。』

『本当だぁ。綺麗だなぁ。』

『瞬ちゃん…』

『どうした?』

『私、怖いのぉ…。抱きしめて。』

『あぁ、これで良いかなぁ?』

『もっと、ギュッと抱きしめて。有難う。』

『良かった。瞬ちゃんの温もりを感じるわぁ。』

『瞬ちゃん、消えないでねぇ?』

『もちろんだよぉ。チュ。』


『ザッザッザッザァー。』

『先生、先生、起きて下さいよぉ。』

『えぇ?どうした?』

『もぅ、先生、私のひざ枕が気持ち良かったのかなぁ?すっかり、寝てましたよぉ。可愛かったなぁ。』

『あぁ、そうなんだぁ。有難う。チュ。』

『もぅ、先生ったら、うれしいなぁ。今日は泊まって行こうかなぁ?もっと、刺激的な事をしたいなぁ?』

『俺も久美ちゃんの全てを知りたいなぁ…。』

『先生…。あぁ、先生、今日はここまでにしましょう?』

『そうだねぇ。』

『ところで、先生?チョコレートでも食べました?』

『いやぁ、食べてないけどなぁ…。』

『そうかなぁ?これでもどうだい?チュウ。』

『これは…フリスクですねぇ?』

『あぁ、バレたかぁ。』

『先生のキスの味はフリスクだけど…さっきは何でチョコの味がしたのかなぁ。』

『よし、久美ちゃん帰ろう。』

『そうですねぇ?帰りましょう。』


『今日は本当に楽しかったです。有難うございました。』

『いえいえ、本当なら一緒に帰りたいけど…』

『そう言ってくれて、うれしいですよぉ。最後に抱きしめて。』

『あぁ。チュ。原稿渡したからねぇ?失くさないでねぇ?』

『はい、先生。では、またねぇ?』


『それにしても、今日の先生は少しおかしかったなぁ?もしかして?あなたでしょ?』

『えぇ?ただ、先生とキスがしたかったから少しだけ入れ替わったのぉ。』

『やっぱりねぇ?もしかして、チョコレートのキスは?』

『初めて行ったデートした記憶と時間を少しだけもらって、デートしました。一緒にソフトクリームを食べました。』

『なるほどねぇ。だから、チョコレートの味がしたキスだったのねぇ?次はないわよぉ?大丈夫よねぇ?』

『はい…すいません。』

『まぁ、今回はあなたが初めてデートした場所とは知らなかったから許してあげるけど…私達は相思相愛なんだからねぇ?解っているわよねぇ?』

『はい。本当にすいませんでした。』


『それにしても、いったい、今日は昔?の記憶が戻ったみたいだけど…久美ちゃんとは別の久美ちゃんって…誰なのかなぁ?知らない事が多いけど…真実はいったい…?とはいえ、今は久美ちゃんを幸せにする事だけを考えよう。さぁ、仕事、仕事!今日は久しぶりにデートしたから、気分が良いなぁ。今日の百人一首は…』

『藤原 義孝〜君がため 惜しからざりし 命さえ

 長くもがなと 思ひけるかな』


20××年


『先生、今日は久しぶりに私の秘密を伝えるねぇ?』

『えぇ?どうしたのぉ…突然。でも知りたいなぁ。』

『実はねぇ?昔、私は先生に命を救われた事があったのぉ?』

『へぇ、そうなんだぁ。私にはここに来るまでの記憶が大学時代から先の事しか記憶してないけど…』

『ですよねぇ?でも、本当の記憶が蘇ったらどう思う?』

『そりゃ、知りたいけど…でも、今の人生が楽しいから複雑だなぁ…』

『ちょっと、だめよぉ!同じような外見でも、私ではないわよぉ!』

『あれぇ、どっちも久美ちゃんだけど…どうなっているんだぁ。』

『あなたは消えなさいよぉ。』

『あなたこそ消えなさいよぉ。』

『ちょっと、ちょっと、2人とも喧嘩しないでよぉ?せっかく、私が愛した久美ちゃんが2人もいるなら事情を説明して欲しいなぁ?このとおり…』

『もぅ、先生、頭を上げて下さいよぉ。』

『瞬ちゃん、頭を上げて。』

『そうねぇ…お互いに争っている訳にもいかないからねぇ?』

『ですねぇ…。でも、真実を知ったら困らないかなぁ?』

『えぇ?真実って…もしかして、今、生きているのは違う世界なのかい?』

『そうねぇ…。』

『えぇ?どういう事なの?』

『落ち着いて、まずは私から説明するわぁ。あなたは1976年に誕生して交通事故に合って1996年にタイムスリップしてこの世界に来たわぁ。しかし、お父さんの記憶を持ってこの世界に来た事と私達は時空を越えた事によりあなたは大学以降の記憶はないわぁ。そして、あなたが経験した大学での思い出は架空のものなのよぉ。つまりは私達との出逢いは作家と出版社のアシスタントの関係から始まったのよぉ。もちろん、あなたは1996年に坂浦 瞬として作家デビューしたけど…本名は三浦 瞬よぉ。そして、三浦 瞬は…別の身体を使って存在しているわぁ。安達 豊という身体を使ってねぇ。27歳として存在して、今年でデビュー5周年よぉ。』

『次は私が説明するわぁ。そうなのぉ。瞬ちゃんは1976年に誕生したわぁ。本名は三浦 瞬よぉ。しかし、交通事故に合うのは「私と出逢わないで欲しい」と願ったからなのぉ。本来なら私と幼馴染みで同級生で大学まで一緒だったわぁ。あなたは三浦 瞬として新人作家として活躍して、私は先生のアシスタントだったわぁ。主に原稿を出版社にわたすのが仕事だったわぁ。先生のコネで出版社に就職していたけど…お互いに結婚しようと決意した時に真実を知る事になるのぉ。私達は親が違う兄妹だったのよぉ。瞬ちゃんの父親が死んでいたから知らなかったけど…お互いの両親に挨拶に行って判明したわぁ。そして、私は…』

『だめよぉ。それから先は話さないで…』

『ちょっと、ちょっと、どうなっているんだよぉ。もしかして、2人とも存在していないのは事実なのかぁ…。』

『えぇ…?』

『なぜ…知っているのぉ…?』

『夢で見たんだよぉ。俺が愛した村田 久美はマンションの10階から飛び降りて植物人間に。そして稲村 久美は父親の彼女で白血病で亡くなって魂だけが現世に蘇り村田 久美の魂に入り、出版社に勤めている山田さんの身体を借りて見えている真実を受け入れずに私が恋に堕ちた。違うかい?周囲は出版社の山田さんなどと恋をしているように見られている。』

『どうして?そうよぉ。あなたがキスをした相手は、あなたより20歳も離れている山田さんよぉ。』

『やっぱりなぁ。たぶん、そうだと思ったよぉ。なら、若い女性に転移して欲しいなぁ。』

『えぇ?今までの事は許してくれるのぉ?』

『だってさぁ。俺が今、好きなのは久美ちゃんには変わらないからさぁ。なら、その事実を受け入れれば良いかなぁ…って…ねぇ?』

『あぁ、有難う。』


『ちょっと。どうなっているのぉ?私とは付き合う事が出来ないって…?年齢のせいなのぉ?あなたとはデビューから5年間支えて来たじゃないのぉ!前担当の西村 佳代子を埋めたのに…酷いじゃない。』

『えぇ?まさかぁ?嘘だろ?』

『嘘だと言ってくれよぉ。流石にばれるだろう?』『大丈夫よぉ…あがってこないから。』

『先生も同じような運命にしても良いけど…どうする?』

『嘘だよなぁ。今のは聞かなかった事に…するよぉ。いやぁ、本当に有り難いとは思うけど…20歳も年齢が離れているし出版社の担当としては尊敬しているけど…ごめん。無理だよぉ。』

『なら、何で、私に告白なんてしたのよぉ。それは、若かったからだと思うんだぁ。許して欲しい。』

『どうしてよぉ。先生、捨てないで下さいよぉ。』

『捨てる?捨てるわけではないよぉ。担当を変えて欲しいと思っているだけだよぉ。新しい担当者の方が新しい発想や新しい価値観が生まれると思ったから何だぁ。』

『私は先生の為なら、命まで惜しくはないわぁ。ずっと一緒にいたいのよぉ。担当は私以外にはしないで欲しいのぉ!長生きするわぁ。』


『ガチャ!警察だぁ。

山田 友梨だなぁ?西村 佳代子さんの殺人容疑で逮捕します。

自宅の裏山から西村 佳代子さんの白骨死体が見つかりました。連行します。』

『先生、私はあなたが好きなのよぉ!あなたなしでは生きていけないわよぉ!助けてよぉ。』

『先生には任意でご協力願います。』

『はい、もちろんです。』


『君がため 惜しからざりし 命さえ 長くもがなと 思ひけるかな…』


『ガバぁ!えぇ、嘘だろう?嘘だよなぁ。こんな事なんてあり得ないよぉ。最悪じゃないかぁ!明日にはもしかして…。』







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『すれ違いの奇跡〜儚い恋物語』 末吉 達也 @yasu8376

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