第44話 逢ふことの 絶えてしなくは…

『先生、先生、こんにちは?』

『あぁ、こんにちは?』

『はい、ルイボスティーとパクチー大量のソフトチキンのサラダとハムとチーズのサンドイッチですよぉ。本当に飽きないで食べますねぇ?』

『そっかなぁ…お肌を大切にしていると食べないとスイッチが入らないだよなぁ。』

『なるほどねぇ。私の朝のコーヒーみたいなものかなぁ?』

『そうかも知れないねぇ?そう言えば、以前にも話た事があるけど苦手な事を『習慣』にする事は出来るようになったかい?』

『私は、無理だなぁ。好きな事は習慣に出来るけど…苦手な事は1人だと難しくてどうすれば良いですか?』

『なるほど…それなら、一緒に住んでやってみる?』

『ちょっと、ちょっと、突然!本気にしますよぉ?』

『住むのは冗談だけど、担当になって、すでに10ヶ月にもなると通勤も大変かと思ってねぇ?確か、都内からだと2時間近くかかるでしょ?』

『そうなんですよぉ。往復4時間ぐらいですから…たいていは1日潰れます。』

『一緒に住まなくても近所に住めば何かと便利かなぁ…ってねぇ?』

『確かに、駅からは離れていますけど駅前は色々なお店もあるし、東京都と神奈川県の県境は魅力ですねぇ?』

『でしょ?江ノ島や横浜や高尾山、新宿なども40分以内と便利なアクセスが魅力ですぞぉ。』

『費用はこっちが持つから考えておいてよぉ。』

『あぁ、ありがとうございます。でも、まだ新人ですから、突然、引越しは社内で問題になると思いますので…』

『そうだよねぇ?元は恋人どうしでも、この時代では先生と担当者の関係だからねぇ?』

『ですよぉ。それに、先生には少なくとも、ファンがいますから。』

『俺は、好きだけどなぁ…』

『もう、先生ったら、うれしいですが…今は、だめですよぉ。そう言えば、あの後、雪と大和は大丈夫なのかぁ…?』

『あいかわらずですよぉ。いつも、喧嘩するけど…お互いに逢っているみたいですよぉ。』

『なるほど。ところで、久しぶりにぶらぁ〜っと、ドライブついでに付き合ってもらえるかぁ?』

『えぇ、少しなら大丈夫ですけど…』

『良かった。久しぶりにコストコに行きたくなったから付き合ってなぁ。ちょっと、車持ってくるなぁ。コーヒーでも飲んで待っていてねぇ?』

『お待たせ。あいかわらず、車内には何も置いていないですねぇ?それに、ミネラルウォーターとフリスクですねぇ?』

『置かないのではなくて車内が狭いからだよぉ。それに、炭酸とか飲むとこぼした時に…『ウゲェ。ホゲぇ。ベタ、ベタ、ベタりん』になるしなぁ。フリスクは口臭予防かなぁ…』

『そうなんだぁ…キスの為かと思っていた。』

『ブホォ。突然…何をいうのかぁ…っと。』

『あれぇ、まんざらでもなさそうだなぁ。』

『もう、冗談はそこまでだぁ。行くよぉ。シートベルトよし、後方よし。笑顔よし。』

『もう、教習所じゃないんだから…パシィ。笑顔よしって。でも、先生らしいけど…』

『この道はいつも混んでいるけど…ごめんねぇ?』

『いえいえ、大丈夫ですよぉ。』

『あぁ、そうだぁ。裏道で行こうかなぁ…っと。』

『へぇ。こんな道があるんですねぇ?あれぇ、ここは、確か、桜の時期にドライブに連れて行ってもらった場所ですよねぇ?』

『おぉ。よく覚えているねぇ?この道は大学と高校があるから覚えやすいねぇ。』

『確か、甲子園の常連高と桜がついた大学があるんですよねぇ?』

『そうだねぇ…桜のついた大学ねぇ?確かに知名度は低いけど…甲子園で優勝しているんだよぉ。』

『えぇ、そうなんだぁ。すごいなぁ。』

『とはいえ、最近は関西の高校が甲子園で優勝して、プロ野球でも活躍しているからなぁ。たまに、甲子園に出場しても、初戦を勝っても2回戦で姿を消すなぁ…。』

『でも、すごいですよぉ。予選大会で強豪チームが市内に2高もあるって…うらやましいですって。』

『そうなんだぁ。』

『ところで、先生は高校の時は何部だったのですか?』

『根暗の文芸部だったなぁ…。』

『文芸部は何をするのですか?』 

『小説を現代風にアレンジして文化祭で披露するなどかなぁ。確か、高校の文化祭で『老人と海』ヘミングウェイを現代風にして演じたなぁ…『老婆と山』に変えてねぇ。』

『えぇ、そう何ですか…やっぱり、才能があったのかなぁ…』

『当時は才能はなくてねぇ。まったく駄目だったなぁ…。流石に老婆が山で熊を退治するのは無理がありすぎてねぇ。最後、力尽きるといった内容だったなぁ。』 

『何となく『老婆と山』なら展開が読めますよねぇ?』

『だろう?最初、書いている時はウケると思ったけど…上演すると観客は最後は1人になるし、軽音部とダンス部からは煽られて途中で熊に喰われて終了と散々だったなぁ…』

『なるほどねぇ?だから、大学では執筆活動をやっていたんですねぇ?』

『そうなるなぁ。』 

『でも、今では若いファンがいる作家ですからねぇ?すごいですよぉ。』

『あぁ、着いたよぉ。コストコだよぉ。』

『ここですか?何処にでもありそうなお店ですよねぇ?』

『そう思うだろう…入ったらビックリするよぉ。』

『これは何ですか?』

『これは買い物カゴ…タイヤ付きだよぉ。』

『えぇ!すごい大きいですねぇ?こんなに買うんですか?』

『そうだよぉ!大抵はこのカゴ一杯になるよぉ。特にクロワッサンやピザは美味しいんだぁ!ほらぁ、見て見て!』

『へぇ?すごいなぁ…何でも大きいんだぁ!すごいなぁ!』

『でしょ?昔は意味もなく毎日行っていたなぁ…でも、最近は1人だから行かなくなってねぇ…ミネナルウォーターを購入したりしたけど…最近はネットだなぁ…。』

『そうなんだぁ…寂しいですねぇ?』

『そうだなぁ…寂しい熱帯魚だなぁ…』

『なるほど…発想が独特ですねぇ…熱帯魚って…私を手に入れるには管理が大変って…言いたいのかしら?』

『違うって…たいていは、鑑賞用だから、飽きられるって…なぁ。秋だけに…あぁ、そうだぁ。少し、お腹空かないかぁ?』

『そうですねぇ…少し減りましたねぇ。』

『良かった!ここのホットドッグが最高なんだよぉ。後、ピザも最高なんだよぉ。良かったら食べないかい?』

『良いですねぇ。じゃ、買ってきましょうかぁ?』

『いやいや、買ってくるから待っていてよぉ。』

『あれぇ、どうしたのかなぁ…いないなぁ。もしもし、何処にいるのかなぁ?とりあえず、電話でもしてみるかなぁ…』

『もしもし、今何処ですか?えぇ、どうしたのですか…突然?』

『これから、先生のところに行こうとしたのですが…』

『えぇ!今まで一緒にいたよねぇ?コストコのピザとホットドッグを買いに戻ったらいなくて…』

『はぁ?大丈夫ですか?夢でも見ているのですか?今から、会社を出るのにテレポーテーションなんて出来ないですよぉ!!しっかりして下さいよぉ。最近の先生はおかしいですよぉ?原稿を取りに行きますから家に戻っていて下さいよぉ。』

『えぇ?どういう事だぁ…。本当に誰とも来ていないのかぁ…それとも本当に一人で来たのだろうかぁ…。とにかく、家に戻ったら解決するかもなぁ…。』


『ふぅ、家に帰ってきたけど…そうだぁ!ルイボスティーやチキンとパクチーのサラダとハムとチーズのサンドイッチが冷蔵庫に入っているはずだなぁ。あれば、夢じゃないはずだぁ。よし、開けるぞぉ。1.2.3…『ガチャ』』

よし、目を開けるぞぉ。

『あれぇ、冷蔵庫は空っぽだなぁ…。はぁ…俺はおかしくなったみたいだなぁ。待てよぉ、でも何で飲みかけのコーヒーカップが机の上にあるんだぁ…?それよりも、新しい作品を書かなきゃな。今日の百人一首は…』


『中納言 朝忠~逢ふことの 絶えてしなくては なかなかに 人を身をも 恨みざらまし』


20××年

『お久しぶりねぇ?突然、消えてごめんねぇ?』

『ちょっと、突然消えるのは慌てたよぉ!電話をしても、これから会社から出るところって…』

『でもねぇ…私も辛かったのぉ。逢えば一緒に居たくなるけど…どんどん、あなたは優しくなっていったわぁ。本当は以前のようにお互いが話せる関係が良かったのぉ…』

『どういう事?よく解らないなぁ…』

『本当に鈍感なんだから…この世界ではあなたは先生よぉ。作家の偉い先生よぉ。すでに10年以上作品を出してファンもいるのよぉ。しかし、私は新人の出版社のアシスタントよぉ。解る?』

『お互いに恋心が芽生えるのも早すぎるし、なおかつ業界ではタブーなのよぉ。例え、先生が独身でもファンは許さないわぁ。禁断の恋なのよぉ。だから、私から姿を消しました。』

『そんなぁ…。』

『もし逢うことが絶対にないのなら、かえって先生をも私自身をも恨む事は…してないのに…って…ごめんねぇ。』

『ちょっと待てよぉ。それはないだろう…』

『しょうがないわよぉ…。でも、私も逢いたいからしばらくは逢わないわぁ。』

『逢ふことの 絶えてしなくは なかなかなに…』


『えぇ!本当に逢っていたのかぁ…。間違いないなぁ。飲みかけのコーヒーも飲んだ記憶がなかったからこれは現実なんだ!』

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