第25話 人に知られで くるよしもがな

『先生、おはようございます。それにしても、暑いですねぇ?』

『あぁ、おはよう。そうだなぁ…暑いなぁ…』

『ちょっと、暑そうには見えないけど…寧ろ涼しそうですけど…足元にはたらいの中に氷に扇風機にガリガリ君を食べて…暑いはないのでは…』

『そっかなぁ…暑いけどなぁ…良かったら…一緒に食べるかぁ?ガリガリ君。ミートソース味が残っていたなぁ…まずいけど…』

『食べません。私はこれを食べます。』

『おい、まだ一口しか食べてないのに…ガリガリ君のソーダー味…』

『はい、先生はこっちねぇ?』

『マジかぁ…これは美味しくないって…あれぇ、案外、旨いなぁ。ミートソース味。食べる?』

『あぁ…本当だぁ。暑いと美味しいねぇ?』

『そうだねぇ?たぶん、『ミートソース』がパスタと絡める固定観念を打破した時に究極の味覚になるのかもなぁ…』

『ところで、何をやっているんですか?』

『あぁ…これか?大学の講義をオンデマンドで勉強して、ノートにまとめているんだよぉ。』

『あぁ…そう言えば、大学に通い始めたんですよねぇ?忙しいのに通うのも大変ですよねぇ?』

『いやいや、そんな暇はないから、正式には通信で大学の講義を受けているけど…スクーリングがあるからその時期は夏に1ヶ月キャンパスライフを送るけどねぇ。』

『へぇ、そうなんだぁ。楽しいそうだなぁ…』

『いやぁ、通信だとそうもいかないよぉ…オンデマンドで講義受けて問題やって、テスト、スクーリングの前にレポート提出と…かなりハードだなぁ…。』

『そうなんだぁ…頑張っているんですねぇ…』

『そうでもないよぉ。』

『ところで、何処の大学ですか?』

『えぇ?ここだよぉ?』

『えぇ?えぇ!この大学って私の母校ですよぉ?藤ヶ丘大学って。』

『えぇ?そうだったんだ。富士丘女子大だと思っていたけど…』

『あそこの大学名が似ているので、よく間違えられますけど…それに、卒業後に藤ヶ丘女子大学から藤ヶ丘大学に名前も変更になって男女共学になったんですよぉ?』

『へぇ、そうなんだぁ。』

『でも、うれしいなぁ…私と同じ大学で学んでいるとはなぁ…』

『そうなんだぁ…たまたまだよぉ…。』

『大学のOGとして、スクーリングに通っちゃおうかなぁ?』

『おい、おい、それは止めてくれよぉ…本気で勉強しようと思っているからなぁ…』

『ですよねぇ?でも、うれしいなぁ…』

『あぁ…ところで?』

『はい、ルイボスティーとソフトチキンとパクチー大量のサラダとハムとチーズのサンドイッチです。』

『すごいなぁ…『ところで?』でと言っただけで解るのかぁ…』

『そりゃ、好きな人の事に対しては興味が出るでしょ?』

『確かになぁ…あぁ…そう言えば、『興味が出る』で思い出しだけど…最近、以前にまして綺麗になったねぇ?』

『あぁ…解ります。どこが変わりましたでしょうかぁ?』

『えぇ?たぶん当たるとは思うけど…まずは髪型と少し色を明るくして、イヤリングをつけた。それから、アイシャドーをさりげなくつけて、つけまつげに口紅も薄いピンクにして、あぁ…ネイルもしていて、可愛いくなったねぇ?』

『すごい、すごい!全部正解!うれしいなぁ…誰も気付いてくれないから…寂しかったけど…大好きな先生だけには気付いて欲しかったから、うれしいなぁ…。』

『そりゃ、私の担当だよぉ…無くしてはいけない宝物だからなぁ…』

『もう、先生ったら、うれしい事言いますねぇ?でも…』

『解っているよぉ…作家と担当者の恋愛は業界のタブーだからなぁ…』

『ですねぇ?でも、仕事で逢えるのは癒されるし、何よりも常に一歩、歩める希望になってます。』

『なるほどねぇ?そう言ってもらえるとうれしいけど…『希望』を叶える為にはどうすれば良いと思う?』

『えぇ…強く思うとか…自分を信じるとかですか?』

『『希望』を叶える為には、『白い布と月を王様が見ない事を知る事さぁ!』』

『はぁ?よく解らないですが…教えてもらっても良いですか?』

『『希望』という漢字はさぁ…布は×、王は月を亡くなす(ない)っと書くよねぇ?』

『確かに…漢字を崩すとなりますねぇ?』

『だからねぇ?布は白旗で、王様は自分で、月(小さな幸運)を見なければ良いのかなぁ…ってねぇ?→小さいな幸せに油断せずにギブアップしない事かなぁ…ってねぇ?』

『なるほどねぇ?確かに…そうかもなぁ…それにしても、先生って…すごい感性してますねぇ?たぶん、天才かもなぁ…』

『そうかなぁ…寧ろ、変態なんだと思うなぁ…理解するにも頭を柔くすると楽しいなぁ…ってねぇ?あぁ…たぶん、子供の感覚があるのかもなぁ…それに、想像力が重なるから、理解不能になる。』

『でも、ちゃんと自分の事理解していて、素敵ですよぉ!』

『ありがとうねぇ。そうは誰も言ってくれないさぁ…たいていは、『変わっている人』や『関わりたくない』と思うのさぁ…時々、寂しくなるけどねぇ。あぁ…まだまだ、本気で理解出来る人に合わないなぁ…ってねぇ?』

『そうかなぁ…先生みたいに一途で不器用で純粋で頭の回転が早い人はたぶん、逢えないと思うなぁ…それに、常に子供のように喜んだり、人を幸せに出来る人はいないなぁ…。』

『あぁ…お世辞ねぇ?ありがとう。』

『もう、お世辞なんて言いませんよぉ…。』

『そんなわけないさぁ…現実は違うのさぁ…無理しなくて良いから…あぁ…原稿が出来ているから…持って行ってなぁ…。』

『ちょっと、待って下さい!先生は言いましたよねぇ!『すれ違いの奇跡』の事?私はこの言葉を知った時に、心の底から尊敬し、この人は色々と辛い想いをして、ぼろぼろな気持ちを持ちながら、光を求めて、立ち上がる為にもがいていると感じました。そんな、純粋で一緒懸命な人にお世辞を言えますか?私は言えませんよぉ…私は、先生の事が誰よりも好きです。でも、その一方で夢の途中を歩んでいる人の足を引っ張る事が出来ますか?

私が逆の立場なら、夢を叶えた時に素直に受け入れますよぉ!

もちろん、私も先生に取って、かけがえのない存在として、自信を持っていれば幸いですけど…

だからこそ、もっと先生の事を知りたいと思うし…先生なら出来ると信じてます。』

『あぁ…ありがとう。すごい、勇気をもらったよぉ…。稲村さんは存在しているだけで、私が輝いていけるけどなぁ!又、連絡するねぇ?』

『はい。』


『あぁ…、嫌だなぁ…私って気持ちが高ぶって本音を伝えてしまった。それにしても、去年まで通っていた大学に行くんだぁ…うれしいなぁ…。大学では、キャンパスライフはなかったし、たいていは、キャンパス内の図書館と教室だけだったからなぁ…スクーリングの時期にさりげなく行ってみよう。

でも、先生の深い闇を救えたかなぁ…かなり辛い経験をしてきたみたいだなぁ…。少しずつ、私を知ってもらえればうれしいなぁ…それにしても、私の存在が先生を輝かせているとはなぁ…うれしいなぁ…。』


『あぁ…何を言ってしまったのかなぁ…本当はうれしかったけど…恋愛はタブーだから、小さな嘘をついてしまったなぁ…。

でも、久しぶりに強く、叱ってくれてうれしかったなぁ…。『ガツン』と殴られた気持ちだけど…すごく、気持ちが晴れたなぁ。

それにしても、同じ大学を選んで正解だったなぁ…キャンパスライフを一緒にしたかったから、もしかしたら…楽しみだなぁ…。

それにしても本当に何を言ってしまったんだろうなぁ…。『本気で勉強しようと思っているから…』って本当に幼い性格をしているなぁ…。稲村さんが、授業中にいるだけで、授業に集中出来なくなるから…少し、距離を置かないといけないだけだからなぁ…気付いていれば良いけど…

次からは普段通りに接しなきゃなぁ…それよりも、仕事、仕事しなきゃなぁ…』


今日の百人一首は…

『三条右大臣(藤原 定方)〜名にしおはば 逢坂山の さねかづら 人に知られば くるよしもがな』


20××年

『あぁ…最近は先生も忙しくなって大変そうだなぁ…常に、誰かがいるから困るなぁ…』

『あぁ…、久美ちゃんに逢いたいなぁ…なんとか逢えないかなぁ…あぁ…ラインだぁ。『先生、お元気ですか?身体は大丈夫ですか?最近、マスメディアで、出演して忙しそうですねぇ?とても、逢いたいけど…方法が見つかりません。どうしたら、逢えますか?』』

『あぁ…先生からだぁ!すごい、すぐに、返信がくるって最高!『ごめんねぇ?久美ちゃんには逢いたいさぁ!すぐ、駆けつけて抱きしめなたくなるさぁ。側にいて欲しいよぉ…。でも…今が大事なんだぁ。だから、俺から逢いに行く。待ってて…今から、君に逢いに行く!』』


『マネージャー?午後の予定をキャンセルして欲しい。』

『どうしました?』

『身内が事故にあってしまって…すいません。』

『えぇ!困ったなぁ…。今回は、やむを得ない事情ですので…明後日に変更しますから…次は、どんな事情でも作家の人生に左右しますからねぇ?大丈夫ですねぇ?』

『解ったよぉ…。』

『もしかして…いやぁ、大丈夫です。頑張って下さい。』


『久美、今何処にいる?』

『私はここにいますよぉ…えぇ!どうしたんだぁ?車椅子で目の前にいるとは…?』

『逢わない間に何があったんだぁ…俺がこれからも守っていく。例え、歩けなくなっても側にいて…』

『もう、先生ったら…ちょっと、ちょっと、待って…私は、大丈夫ですよぉ。それよりも『身内に不幸があってとか?』と嘘ついたでしょ?』

『えぇ!何で解るのぉ?』

『そりゃ、解るわよぉ…だからねぇ、私の方から連絡したわよぉ。』

『えぇ?車椅子って…どう言う事?』

『とにかく、落ち着いて…確かに…階段から滑って右足を骨折したけど…完治しているけど…車椅子を借りていたから…利用したの?』

『えぇ!そんな事があったのかぁ…すぐ、言ってくれでば…すぐ、逢いに行ったのに…』

『瞬ちゃんなら、そう言うと思っていたから…伝えなかったのぉ?夢を叶えて今ではマスメディアで見ない日はないわぁ!その姿を見ていたら、私も『リハビリ頑張らなきゃ!』って勇気をもらったんだぁ!ありがとう。でも、辛いリハビリを終えて、1年間逢わないとすごく逢いたくなったのぉ?ごめんねぇ?』

『そうだったんだぁ…突然、連絡もとらえて、出版社に聞いても詳細も解らなくて…働き過ぎたので1年間休んでいると連絡先も聞けないし、マスメディアに出演しても力が入らなかったよぉ…もう、この業界にいても…つまらないさえ思っていたら、久美ちゃんから連絡が先月からあって以前の前向きな自分を取り戻す事が出来たよぉ…。ありがとう。もう、連絡なしにいなくならないで欲しい。』

『もちろんよぉ…これからは一緒だけど…大丈夫?』

『ごめん…この1年で心に大きな穴が開いてしまった…それはお互いに同じ気持ちだとうれしいけど…』

『解っているわぁ…私もこの1年色々な事を考える機会を持ったし、先生に依存していたと思うけど…私には、瞬ちゃんが必要なの?理解出来る?』

『ありがとう。でも、まだまだ、失った時間を思い出すと辛いんだぁ…。

好きになったから余計に怖いだぁ…もう、泣かないで…大丈夫だからねぇ。辛かったねぇ?来週から、職場に復帰するから、大丈夫だよぉ…。』

『ごめん…私の担当は辞めてもらって良いかなぁ…これ以上は辛いから…逢うのも今日で最後にして欲しい…』

『えぇ!ちょっと、そんな事言わないでぇ…私がいけなかったのぉ…』

『ごめん…今日で最後になるけど…最後のデートをしよう…』

『人に知られば くるよしもかな…』


『えぇ!何だぁ…夢かよぉ。1年も逢えなくなるって…、逢うのも最後に…。どうした?いったい、何があるんだ。これは、まずいなぁ。今のうちに、お互いの気持ちがおもくならないように、気軽に話せる友人として、逢えるようにしなきゃなぁ。』






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