第13話 恋ぞ積もりて 淵となりぬる

『先生、先生!すいません、すいません、はぁ、はぁ…すいませんでした。寝坊しましたぁ…』

『大丈夫だよぉ。ほらぁ、これ飲んで…』

『はい、ありがとうございます。プハァ〜!お水、ありがとうございます。』

『いえいえ、ところでどうしたのぉ?大丈夫かい?』

『実は昨日、また、夢を見まして…』

『えぇ、どんな夢なの?気になるなぁ…』

『笑いませんかぁ?』

『笑わないから、聞かせてよぉ。』

『本当に笑いません?』

『大丈夫だよぉ。笑わないから、言ってみてよぉ。あぁ…もしかしたら、笑うかも知れないから、最初に謝っておくなぁ。『すいません』でした。』

『ちょっと、『笑う』前提で話せなくなりますよぉ…笑ったら、『パンケーキ』作ってもらいますからねぇ?』

『解ったよぉ。』

『では、話しますよぉ。夢の中で、仕事の準備をして、靴を履いて一歩、踏み出すとすでに、先生の家何ですよぉ?最初、『えぇ、夢?』と戸惑ったんですけど…でも、手渡されたコーヒーが温かくて美味しいんですよぉ。あぁ…これは、現実なんだぁ〜って思ったんですけど…』

『あぁ…なるほどねぇ?ドラえもんから『何処でもドア』を買ったなぁ?でも、あれを使った瞬間から、『犯罪者』になるらしいぞぉ?』

『えぇ?海外ならパスポートがないから不法滞在になるからでしょ?国内なら大丈夫でしょ?違うんですか?』

『国内なら無賃乗車になるかなぁ…』

『あぁ…なるほど、そこまでの交通手段を考えると…確かに、そうなりますねぇ?なら、『何処でもドア』は使えないですねぇ?近所だけに限るとなるねぇ?』

『そうだねぇ?とはいえ、近所で使うにも、突然、人が現れたら、心臓が弱い人が側にいたら?』

『あぁ…そっか、犯罪者になり得るねぇ?』

『だろう?裁判所で家族から『家のおじいちゃんの前に、突然現れまして…あまりの衝撃で突然苦しみ出して…』となり、損害賠償でもされたら、たまったもんじゃないなぁ…って何の話だっけ…』

『あぁ、夢の話ですよぉ!でぇ、先生がコーヒーを入れてくれて、天女の話だっけなぁ…それがかなりリアルだったので、先生の家にいるもんだぁ〜と思ったら、会社から電話が入って遅刻した事に気付いて…』

『ハッハッハッ…そんな事があるんだぁ…夢の中で夢かぁ…なるほどなぁ…想像したら、笑えるなぁ…あるんだなぁ…やばい、クックックックッ…あぁ…ダメだぁ…思い出したら又、笑えてきた!』

『ちょっと、笑わないって言ったのに…ひどいなぁ…』

『だって、だってさぁ…会社から、電話でしょ?それも、想像すると笑えてきて…』

『もう、最低!人の不幸を笑うって、あり得ないなぁ…約束のパンケーキねぇ?』

『解った、解ったよぉ。特別なパンケーキを作るから紅茶でも飲んで待っていてなぁ。ポンポン…』

『もう、先生ったら…』


『へぇ、先生、剣道やっていたんだぁ…』

『おいおい、いつの間に、アルバムをどこから持ってきた?』

『えぇ、テーブルの上にありましたよぉ?』

『あぁ…そうかぁ。』

『見ちゃ駄目ですか?』

『いやぁ、大丈夫だよぉ。』

『えぇ…先生、可愛いねぇ?女の子みたいだなぁ…意外だなぁ…剣道やっていた頃は男前ですけど…剣道をやる前がこれなら、ギャップ萌えですねぇ?』

『そっか…確かに、可愛いよなぁ?自分の子供だったら、毎日、餌付けだなぁ…』

『餌付けって、ペットではないでしょ。』

『あぁ…ほらぁ、パンケーキ出来たぞぉ。』

『ありがとうございます。あぁ、美味しい!もう、小説家辞めて喫茶店でもやれば儲かるじゃない?』

『そっか、ほめられるとやりたくなるなぁ…でも、1人だと寂しくなるからなぁ…』

『なら、私とやります?』

『マジかぁ?』

『冗談ですよぉ。先生って可愛い。』

『こらぁ、先生で遊ばないのぉ…あぁ…原稿出来ているから、持って行ってなぁ…』

『ありがとうございます。』

『それでは、原稿が出来たら連絡するねぇ?』


『あぁ…危なかった、アルバムをこっそり見ていたら、声が出ちゃた…でも、先生って優しくて良かった…それにしても、先生って、昔からイケメンで素敵だなぁ…でも、本当にモテなかったのかなぁ?案外、先生の事、好きな人はいたと思うけどなぁ…不思議だなぁ…あぁ…宇宙人と交信だったなぁ…それも好きだけどなぁ…あぁ、もう何を言ってるのかしら?』


『あぁ…まさかなぁ…アルバムを出していた覚えはないけどなぁ…まぁ、イケメンかぁ…嬉しいなぁ。でもなぁ…今はモテないから自信はないなぁ…それにしても、間違いなく、俺が見た夢だよなぁ…次の夢が同じならきっとこれは正夢になるよなぁ…明日が楽しみだなぁ…さぁ、仕事、仕事!』


今日の百人一首は…

『陽成院〜筑波嶺の 峰より 落つる

みなの川 恋ぞ積もりて 淵となりぬる』


20××年


『先生って、本当に鈍感で腹が立ちますよぉ!』

『えぇ?どうしたのぉ?突然?』

『どうしたのぉ?って呆れますよぉ。』

『ごめん、本当にごめん。何か悪い事したなら、謝るから、教えてくれないかなぁ?』

『いやぁ、謝って許されないですよぉ。』

『ちょっと、本当に解らないから教えて欲しいんだけど…』

『いやぁ、教えないわぁ…早くこれに名前を書いてくれます?』

『えぇ?これは…ちょっと、ちょっと、これは勘弁してよぉ。この通り。今まで以上に大切にするから…』

『はい、サプライズ成功!』

『もう、先生ったら、泣かなくても…本当に…心配したんだねぇ?ありがとうねぇ?』

『まさかの離婚届けだものねぇ?これをとってみてよぉ?』

『えぇ!えぇ…これは、婚約前届けって…』

『これから、同棲するからねぇ?』

『えぇ、本当に?ここで?』

『残念!ちゃんと、準備したよぉ…引っ越し業者に…手配しておいたよぉ!』

『えぇ、久美ちゃんが嫌いになったらどうしよう…』

『もう、大丈夫だよぉ、瞬にはそんな事はしないから心配しないでねぇ?』

『それにしても、どうして…』

『あれぇ、1年前に『みなの川 恋ぞ積もりて 淵となりぬる』って言ってくれたでしょ?』

『あぁ…もちろん、覚えているよぉ。俺の心が久美ちゃんで溢れだしているって伝えたよぉ。今でもその気持ちは変わらないさぁ!』

『あの返事はまだ伝えてなかったし、寧ろ、私にも迷いがあったけど…今も変わらずに、私の事が大好きだと言ってくれてうれしくてねぇ…でもねぇ…私は…』


『あぁ…夢かぁ…チキショー最後の言葉が気になるなるなぁ…それにしても、本当に夢なのかなぁ…現実なのかなぁ…妄想なのかなぁ…それにしても、夢でうなされて大量の汗と枕が涙で濡れているなぁ…はぁ、さすがにこの話は真実か夢だったかは聞けないなぁ…』


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