第12話 をとめの姿 しばしとどめむ
『先生、おはようございます!』
『あぁ…おはよう。』
『今日はずいぶん楽しそうだねぇ?』
『あぁ…解ります?昨日は久しぶりに友達と江ノ島に行って来たんですよぉ。江ノ島の入り口に、イカ焼きとかサザエを焼いてくれるお店に寄ったんですよぉ。すごく美味しくてねぇ?でぇ、是非とも先生に食べてもらいたくて、買ってきましたよぉ。イカ焼き。』
『えぇ、イカ焼きって。』
『嫌いでした?いやいや、好きだけど…』
『あれぇ、もしかしたら、一緒に食べたかったので、いじけています?』
『いやいや、サザエを期待した…もう、先生ったら…』
『サザエは昨日、食べたでしょ?確か、サザエ丼でしたよねぇ?』
『えぇ?ちょっと、待てって一瞬、一緒にいたと思ったじゃないのぉ…』
『あれぇ、あぁ…あれは夢だった…、先生と旅行をする夢を見て、サザエ丼を食べた夢を見たからだなぁ…』
『そっか、そうなんだぁ…本当に、サザエ丼を食べに行きたいねぇ?あぁ…ところで、いつものはあるかなぁ?』
『もちろんですよぉ。はい、ルイボスティーとソフトチキンとパクチー大量のサラダとハムとチーズのサンドイッチです。』
『あぁ…ありがとう。そう言えば、稲村さんは朝食はいつも、和食派?それとも洋食派?』
『えぇ、私は朝食は和食かなぁ…最近は、食べない事が多くなったかなぁ…睡魔にまけて、バタバタですよぉ。』
『そうなんだぁ…でも、本当は一緒に食べる人がいたら、うれしいって思っている?』
『そりゃ、そうですよぉ。好きな人がいたら、一緒に作りたいですよぉ。』
『よし、それなら、ちょっと待っててねぇ?ちょっと、出掛けてくるなぁ…朝食は食べてないよねぇ?』
『はい、まだ食べていないです。』
『はぁ、はぁ…お待たせ!』
『えぇ?どうしたんですか?』
『ちょっと、そこまで、買い物に行って来たんだぁ…一緒に朝食、食べたくなってねぇ?』
『あぁ…コーヒーで良いかなぁ?』
『はぁ、はい。』
『はい、コーヒーでも飲んでゆっくりしてねぇ?あぁ…好きな曲はあるかなぁ?』
『まぁ、ミスチルとか…MISIAが好きだなぁ…』
『なるほどねぇ…確かに素敵な曲が多いねぇ?『逢いたくていま』『明日へ』など』は好きだなぁ…』
『えぇ、先生も『MISIA』聞くんですねぇ?私もこの曲好きですよぉ。切ない歌詞ですけど…お互いにこのような気持ちがあれば最高ですよねぇ。先生は好きになったら…一途ですか?』
『そりゃ、もちろん馬鹿みたいに一途だなぁ…あぁ…朝食出来たよぉ。』
『先生、すごいですねぇ?完璧ですねぇ!
『ご飯、サラダ、豆腐の味噌汁、冷奴、鮭の切身、納豆、漬物それとイカ焼きねぇ?』って、旅館の朝食ですねぇ?』
『そうかなぁ、ありがとう。一緒に和食の朝食を無性に食べたくなってねぇ?』
『えぇ、私と一緒に?』
『そうなんだぁ、あぁ、解った!江ノ島のイカ焼きの話をしたから、急に白いご飯が食べたくなったんだぁ。』
『いやぁ、一緒に朝食を食べると美味しいなぁ…』
『もう、大げさですよぉ。』
『いやいや、1人で食事はて寂しくてなぁ…いつも、仕事の合間に食べるサンドイッチが定番だからなぁ。ありがとうねぇ…付き合ってもらって…』
『あれぇ、もしかしたら、この年齢まで彼女がいなかったのですか?』
『プシュー。ゲホッ、ゲホッ…ゴクゴク〜。プハァ〜。はぁ、死ぬかと思ったよぉ。』
『すいません。』
『あぁ…ごめんなさい、ごめん。吹き出してしまった。いなかった訳ではなかったけど…こんな性格で長く付き合った事はないなぁ…』
『えぇ?そうなんですか?意外だなぁ…確かに、イケメンでモテると思うし…真面目で料理も出来て、色々と知っていてなおかつ、性格も素敵だから、その辺の肉食系男子よりも良いと思うなぁ…』
『そう言ってもらえるのは有難いけど…昔は、モテていたし、プライドも高くて、性格も最低だったと思うなぁ…あぁ…忘れて、忘れて…』
『えぇ!そうなんですか?女性を泣かしたとでも…最低!』
『いやいや、逆だって…私が泣かされた方だなぁ…夢中になると一緒にいたくなって、束縛していたかもなぁ…』
『なるほどなぁ…解るかも…でも、実は束縛されるのはもっと苦手でしょ?』
『えぇ?なぜ、わかるのぉ?』
『だって、さっき、私を待たせて、買い物行ったでしょ?』
『あぁ…確かになぁ…』
『本当は束縛するのも束縛されるのも苦手何だってねぇ?』
『なるほどねぇ…確かに。』
『でも、心を開くにも時間がかかるから、女性が色々と世話をやきすぎた…本来は一緒にやりたかったり、女性を喜ばせるのに快感何でしょ?』
『そうそう、そうなんだよぉ。解ってくれる人がいなくてさぁ…』
『それに、案外、自分から攻め込むタイプというよりも、攻められたいタイプでしょ?』
『それは違うなぁ…自分から攻め込むタイプかなぁ…もちろん、女性の事を一番に考えるけどねぇ。』
『そっか…先生は攻めるタイプっと…』
『おいおい、メモるなって…』
『メモをとっていませんよぉ。明日の予定を記入していたんですよぉ。さっき、連絡が入って、会議の日程を記入していたんですよぉ。』
『あぁ…そうかぁ。なら、良かった。あぁ…原稿が出来ているから、持って行ってねぇ?』
『あぁ…、ありがとうございます。』
『原稿が出来たら連絡するねぇ?』
『はい、宜しくお願い致します。』
『そっか、先生は一途で束縛が嫌いかぁ…なるほどなぁ…それにしても、攻めるタイプなんだぁ…メモしたのばれそうになったなぁ…焦ったなぁ…あぁ…嫌だぁ、キスされる事、想像しちゃった。もう、馬鹿、馬鹿、そんな関係になれるわけないじゃない。でも、朝食を2回も作ってもらっているし、特定の彼女もいなければ…って、あぁ…私って最低…私みたいなぁ、ブスなんて、相手にするわけないじゃん。』
『あぁ…久しぶりにハリキリ過ぎたなぁ…あいかわらず、可愛いよなぁ…癒されるよなぁ…『MISIA』が好きとはなぁ…共通点が見つかるとうれしいなぁ…それにしても、これから先、色々、知りたくなるなぁ…でも、もしかしたら、サザエ丼を食べた夢って…昨日、見た夢なのかなぁ…なわけないよなぁ…たまたま、サザエを食べて夢に出てきただけだなぁ…さぁ、切り替えて、仕事、仕事!』
今日の百人一首は…
『僧正遍昭〜天の風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ
をとめの姿 しばしとどめむ』
20××年
『あれぇ、先生どうして、大空を眺めているんですか?』
『あぁ…久美ちゃんかぁ…おはよう。』
『あそこに雲があるけどねぇ…あの雲が通い路になると天女が天に戻ってしまうらしんだぁ?』
『えぇ、そうなんですか?神秘的ですねぇ?先生って、ロマンチックなんですねぇ?』
『いやいや、僧正 遍昭が『天の風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ をとめの姿 しばしとどめむ』と百人一首で歌ったんだぁ。』
『あぁ…それは、百人一首を題材にした作品で教えてくれましたねぇ?』
『そうだったねぇ?実は『新嘗祭』の翌日に宮中で披露される『五節の舞』を舞う少女を歌ったとも言われているんだぁ。』
『えぇ、それは知らなかったなぁ…』
『あぁ…それとねぇ?僧正 遍昭は実はイケメンで小野小町と恋をしていて、『天女』は小野小町だとも言われているんだよぉ?』
『えぇ、知らなかったなぁ…それを聞くとこの歌、恋文に思えてきますねぇ?』
『それにしても、昔、伝えた事を覚えてくれてうれしいなぁ…あれは、もう、5年も前になるなぁ…』
『そうですねぇ?先生と一緒だからかなぁ、あっという間に感じますよぉ。』
『昨日は一緒にいれて良かったなぁ…』
『いえいえ、私も先生の原稿を一番先に読めてなおかつ、先生の部屋から会社にメールで送れて楽になりました。ありがとうございます。』
『あぁ…そうそう、天女で思い出したけど…昨日の久美ちゃんは天女のように綺麗だったなぁ…。』
『もう、先生ったら…』
『あぁ…夢かぁ…それにしても、リアルな夢だなぁ…この部屋にあるわけないよなぁ…こんな狭い部屋が5年後に…2部屋増えるって…それに、稲村さんが一緒に仕事って…あれぇ、何故だろう、口の中がコーヒーの味とは…不思議だなぁ…。』
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