第11話 わたの原 八十島かけて

『それにしても、上野のアメ横に行った事ないのに…アメ横が夢の中に出てくるとはなぁ…二木のお菓子のCMを見たからだぁ…もうたまに見ると夢に出るとはなぁ…流石に寝不足だなぁ…はぁ…先生、おはようございます。』

『あれぇ、元気がないなぁ…どうした?』

『ちょっと、寝不足でぇ…夢にうなされました。』

『へぇ、どんな夢だったのぉ?実は正月にアメ横に行って人混みにのまれる夢ですよぉ…』

『あぁ…なるほどねぇ…朝のラッシュアワーはすごいから…精神的に追い込まれたのかもなぁ…解る気がするなぁ。』

『ですよねぇ…それに加えて、寝る前に…上野のアメ横二木のお菓子のCMが後押ししたみたいですよぉ。本当に参りましたよぉ。』

『そっか、それでげっそりしていたんだぁ…でも、良かったよぉ。『体調を壊したのか?』と思って心配したよぉ。』

『ありがとうございます。大丈夫ですよぉ。まぁ、『タケモトピアノ』だと起きれなかったかもなぁ…』

『解るなぁ…『電話してちょうだい』は夜に見るとうなされたなぁ…『みんな丸くタケモトピアノ…』コワァ…ってねぇ。』

『確かになぁ…何故かインパクト強かったですよねぇ…幼い頃にみるとトラウマになりそうですよねぇ?』

『ところで、持ってきている?』

『もちろんですよぉ。ルイボスティーとソフトチキンとパクチー大量のサラダ、ハムとチーズのサンドイッチですねぇ?』

『ありがとう。』

『あぁ、ところでご家族は元気ですか?』

『えぇ、どうした突然?』

『いえ、最近、テレビでたまたま、家族が疎遠になって、連絡を取れない家族も多い事を聞いて少し、気になったんですよぉ。』

『なるほどねぇ・・そうだなぁ、最近は母親は障害者施設で調理をやっているなぁ。父親は若いうちに交通事故でなくなったけどなぁ・・。兄貴は今も、介護施設で介護をやっているけど。すぐに人間関係がうまくいかなくなるんだぁ。』

『そうなんですか?すいません、昔は大変な家庭環境だったんですねぇ?もう少し、話を聞かせてももらえますか?』

『えぇ、聞いてくれるのぉ?』

『もちろんですよぉ。聞かせてくれますか?』

『そうだなぁ・・確かに、昔は、大変だけど・・大学に入学してすぐだったなぁ。母親が鬱状態になりだして、私も学費を稼ぐのにバイトしていたからなぁ。一つ上の兄貴が頑張ったなぁ。当時は、大学を中退して、実家に戻る事を考えていたけど・・『夢を叶えろ!!』って電話で言われたなぁ。弱音を吐くとすぐに駆け付けてくれて兄貴には感謝しているんだぁ。』

『そうなんですかぁ?素敵なお兄さんですねぇ?』

『そうだけど・・・今は、競馬にたまに行くようになったなぁ・・特にG1のシーズンは駄目だなぁ。競馬の予想しかしていないよぉ。』

『そうなんですか・・でも、母親を一人で支えてきたからそのくらいは多めにみないとねぇ?』

『そうなんだぁ。確かに、この10年は兄貴に感謝しなければならないと感じているよぉ。建築現場で働いて、夜は居酒屋でアルバイトをしていたなぁ。それに、母親も急に父親を思い出して街を彷徨って駅で過ごす事があったと聞いているからなぁ。交番から電話が入ると兄貴が迎えに行く事があったらしい。今は、やっと仕事にも復帰して落ち着いて良くなったからなぁ。東京にいたおじさんもよく駆けつけてくれて、生活の足しにとお金を置いていったよぉ。今は、おじさんは実家に戻っているけど…スナック通いは相変わらずだよぉ。まぁ、父親みたいだけどねぇ。』

『ごめんなさい。私、私・・・すいませんでした。グスン・・』

『どうしたんだよぉ。泣かなくても大丈夫だよお。ありがとうなぁ。』

『ほらぁ、顔を上げて、これで涙を拭きなぁ・・』

『本当にすいませんでした。私って最低ですねぇ・・誰にも伝えてはいけない過去があるのに・・・土足で踏み込んでしまいました。急に冷静になって、悲しくなってしまいました。』

『もう、大丈夫だよぉ。これ飲んで元気になりなぁ。ホットココアだよぉ。』

『ありがとうございます。少し、元気になりました。』

『この話をしたのは稲村さんが初めてなんだぁ。今までこの話をする事はなかったし、自然と話す事が出来たのは稲村さんなら受け入れてくれると思ったんだ。本当にありがとうねぇ。』

『私だから・・?』

『そりゃ、そうさぁ。こんな話をして誰が喜ぶ?寧ろ、『あぁ・・大変だったなぁ。私でなくて良かった。別の話題にして?』と言うのが大半だよぉ。でも、聞かせて下さいって言ってくれて少し胸の中にあったモヤモヤがなくなったよぉ。本当に感謝しているよぉ。ありがとうございます。』

『そんなぁ、感謝される事は何一つしていないですよぉ。寧ろ、今の先生から勇気をもらいました。ありがとうございます。』

『あぁ、原稿が出来ているから持って行ってねぇ?』

『はい。ありがとうございます。』

『では、次に作品が出来たら連絡するねぇ。』


『あぁ・・しまったなぁ。まさか、先生の家庭環境が大変だったとはなぁ・・お父さんが亡くなっていたとはなぁ。それも『交通事故』にあって亡くなっていたとはなぁ。お母さんもお父さんの事が大好きすぎたんだなぁ。でも、素敵な家族だなぁ。うらやましいなぁ。どんな時でも家族の愛があるって素敵だなぁ。私の家族とは正反対だなぁ・・とはいえ、先生は『嫌い』になったよなぁ。逆の立場ならたぶん口を聞かなくなるどろうなぁ・・でも、先生なら許せるかなぁ・・』


『あぁ・・・しまったなぁ。まさか、家族の話を話すとはなぁ・・・それも不幸すぎる話をしてしまったなぁ。兄貴の話はこれから少しずつ話せば良かったなぁ・・ギャンブルやる兄貴は良くないよなぁ。でもなぁ、それが唯一のストレスの発散だからなぁ。とはいえ、稲村さんは最高だなぁ!まさか、話を聞いてくれて涙を流してくれるとはなぁ。あぁ・・でも、あまりに不幸すぎる家庭環境は無理だよなぁ・・あぁ!考えないぞぉ。仕事!仕事!!仕事するぞぉ!!!』


今日の百人一首は・・・

『参議篁(小野 篁)~わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ あまの釣舟』


20××年

『ここが、昔、流罪でながされた隠岐の島ですか?島根県ですよねぇ?先生!!』

『そうだよぉ。昔は、自然しかなかったと考えると寂しい土地だと感じるなぁ。それに流罪の土地と考えると辛ったと思うなぁ。今は、大阪伊丹空港や出雲空港から飛行機で1時間近くで行けたり、境港などから2時間半ぐらいでいけるけどなぁ。』

『そうかなぁ。私なら先生と一緒ならうれしいなぁ。』

『そりゃ、一緒ならうれしいけど・・一人なら?』

『そりゃ、辛いし、悲しくなると思うなぁ。』

『そうだろう。それも2年間も流されたんだよぉ。参議篁(小野篁)は京都から隠岐に流され時にこの歌を詠んだんだぁ。きっと、『生きては帰れない』と思ったのかもなぁ。身内として読んでみたら涙が出てくるよなぁ。』

『そうですねぇ。たぶん、私も同じような状況になったら・・死んでしまうかも・・』

『ありがとうなぁ。久美を残してそんな事はしないさぁ。よし、隠岐の島の観光に行こう。』

『先生!その前にお腹がすいたなぁ・・』

『よし、さざえ丼を食べに行こう!!その後は観光フェリーで隠岐の島を満喫だなぁ。楽しみだなぁ。』

『本当に楽しみ・・・』


『あぁ夢かぁ。参議篁が隠岐の島に流罪されたのでついつい、隠岐の島を検索してしまって寝てしまったなぁ。それにしても、今、流されたら楽しかっかもなぁ。

松葉かに、さざえ丼、隠岐の牛肉、海鮮丼とぉ・・あれ、なんで、口の中が醤油の味がするんだろう・・』











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る