第8話 世をうぢ山と人はいふなり
『先生、先生ったら、もう、夕方ですよぉ…』
『あぁ…お帰り』
『あれぇ、原稿は?』
『あぁ、あの後、寝てしまってねぇ…』
『えぇ、そうなんですか?ここに来たのは原稿を取りに来たのに…あれぇ、中国のお札ですねぇ?中国に行かれた事があるのですか?』
『あぁ…ごめんなぁ。いやぁ、行った事はないけど…』
『えぇ、そうなんですか?』
『ところで、なんでお札を持っているんですか?』
『あぁ…これねぇ、安倍 仲麿が唐でなくなったから、せめて、中国のお札でも見て想像をふくらませて小説を書こうと思ってねぇ…』
『あぁ…なるほどねぇ…解る気がするなぁ…』
『あぁ…そうそう、約束のお寿司を食べに行くんだったねぇ?』
『待ってましたぁ…楽しみです。』
『へい、らっしゃい!2名様こちらにどうぞ?』
『あぁ…先生、ありがとうございます。』
『レディースファーストですよぉ。』
『はい、お茶とおしぼりとメニューです。』
『では、早速、何を握りましょうか?今日のオススメはサーモンとさんまとカンパチだなぁ。あぁ…それと、つみれ汁だなぁ…。』
『あぁ…、そうだなぁ…まずはおやっさん、アサヒの中瓶のビールを下さい。』
『ハイよぉ、アサヒの中瓶とグラス2個。』
『はい、お待たせ致しました。あらぁ、新婚さんかい?素敵なカップルにはこれをつけなきゃねぇ?』
『えぇ、これは?』
『これは、食前のキュウリの梅肉和えと切り干し大根です。』
『新婚さんには、おばちゃんが作った切り干し大根の煮物をサービスしてるのよぉ。』
『ちょっと、ちょっと、私達は結婚なんてしてないですよぉ…』
『冗談だって…でもなぁ、カップルさんにはサービスしてるのさぁ!』
『えぇ?なぜですか?』
『それはねぇ?男は母親が作った煮物を食べたくなるのよぉ…』
『なるほどねぇ…先生もそうなんですか?』
『確かに、時々、無性に煮物が食べたくなるなぁ…』
『でしょ?だからねぇ、カップルには是非とも味わってもらいたのさぁ。』
『いやぁ、ビールに合うなぁ!切り干し大根とキュウリの梅肉和えは。』
『本当ですねぇ。美味しいですねぇ。』
『あぁ…ところで、稲村さんは何が良いかなぁ?やっぱり、かんぴょう巻きとカッパ巻きかなぁ…』
『ちょっと、ちょっと、お子様扱いですか?』
『冗談だよぉ…ちょっと、『ボケぇ〜っ』としていたからからかったのさぁ!好きなもの選んで…』
『もう、乙女心がわかっていないんだから!なら、かんぴょう巻き下さい。』
『ハイよぉ。かんぴょう一丁!』
『マジかぁ、冗談だと思ったよぉ。』
『さっき、切り干し大根の煮物を食べたらかんぴょう巻きをたまに食べたくなってねぇ。』
『なるほどなぁ…じゃあ、私は中トロを2つ下さい。』
『ハイよぉ、お待たせ!中トロ、2枚です。』
『ほらぁ、食べなぁ…』
『えぇ、先生が頼んだのに…』
『そりゃ、好きな人が中トロ食べてる姿を見たいから、サプライズさぁ。』
『それはサプライズになりませんよぉ。頼んでいるところ聞いてますからねぇ?』
『では、これは?』
『えぇ、えぇ!これは、刺身の盛り合わせじゃないですか!!ビックリ!』
『おやっさん、ありがとうねぇ!』
『そりゃ、先生から電話で事前に頼まれたら、断れないからなぁ。』
『良かったなぁ…先生、うまくいったなぁ、サプライズ!』
『じゃあ、おやっさん、いつもの『源氏』を頼むねぇ!』
『ハイよぉ、ねぇ〜ちゃんは嫌いな具材はないかぁ…』
『あぁ…私は特に嫌いな物はないです。』
『ハイよぉ、『源氏』〜『中トロ、ウニ、イクラ、アワビ、甘エビ、サーモン、ホタテ、ウナギ、カンパチ、サンマ、たまご』とつみれ汁』
『本当に美味しい!うれしいなぁ…。』
『おやっさん、美味しいよぉ。』
『ありがとうございます。』
『先生、ありがとうございました。ご馳走さまでした。』
『いえいえ、喜んでくれて、うれしいかったよぉ。ご馳走したかいがあったなぁ。』
『又、誘って下さいねぇ。』
『あぁ…そうだなぁ。是非とも行きましょう。では、作品が出来たら、連絡するねぇ。』
『いやぁ、本当にサプライズにはビックリしたなぁ?久しぶりに嬉しかったなぁ…でも、新婚さんてぇ…やだぁ、私ったら…まだまだ、そんなのは早いって…でも、先生となら…』
『いやぁ、まさか、あんなに喜んでもらえるとはなぁ…それにしても、おばちゃんはせっかちだなぁ…新婚さんって…サプライズが失敗したら…どうしようと焦ったなぁ…よし!気分が良いから、仕事!仕事っと!!』
今日の百人一首は…
『喜撰法師〜わが庵は 都のたつみ しかぞ住む 世をうぢ山と 人はいふなり』
20××年
『あぁ…それにしても、最高だなぁ…執筆しないでゆっくりとできるなぁ…たまにはゆっくりと出来るのはうれしいなぁ…それにしても、マスコミも『休業宣言』した途端に『坂浦作家は終わったなぁ…』とか『鬱病』になったとか…言いたい放題だなぁ…まぁ、そんな事よりもすごく寂しいけど…鹿しか見ないけどなぁ…静かに暮らして3日間は良かったけど…久美に逢いたいなぁ…ぐすん。』
『もう、先生!先生ったら、何を言っているんですか?想像力、働き過ぎですよぉ。京都都の宇治山に着いたばかりでしょ。それに、私が1人にはしないって言いましたよねぇ?もしかして、1人になりたかった?』
『いやいや、いやいや、そんな事はないですって…この通り…許して下さい。久美様…』
『もう、しょうがないなぁ…なら、久美は宇治茶を飲みたいぞぉ。』
『はい、一緒に行きますよぉ。』
『よし、わらわの後について参れ…』
『世をうぢ山と 人はいふなり…』
『あぁ…しまった、また、寝てしまったなぁ…久しぶりに、ビールを飲んで気分も良かったからなぁ…あれぇ、京都のガイドブックを何で持っているんだぁ…』
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