第9話 花の色は うつりにけりな

『先生、先生!おはようございます。昨日はご馳走様でした。』

『いえいえ、4月から一緒懸命についてきた、お礼も兼ねてねぇ?』

『あぁ…そうですねぇ?今月から5月になりますねぇ?ゴールデンウィークは休まれますかぁ?』

『いやいや、まだまだ、休めないなぁ…』

『ところで、昨日、京都のガイドブック忘れてしまったのですが…ありませんでした?』

『あぁ…これかなぁ?』

『あぁ…良かった。先生の机に置いたのかぁ…良かった、見つかって。』

『えぇ、京都でも観光に行くのかい?』

『いえいえ、一緒に行く人はいませんよぉ。私は観光ガイドを見るのが好きなんですよぉ。』

『あぁ…なるほどねぇ…解る気がするなぁ。』

『そうですか?変な趣味と思われません?たいていの女性なら、女性雑誌とかファッション雑誌や文庫本を持っているのが普通ですよねぇ?』

『いやいや、誰しもがそれが普通だと感じているのが寧ろおかしいのさぁ!それに、稲村さんがそれが普通の事だと思っているならそれが『稲村さんらしさ。』だと思うなぁ…』

『あぁ…良かった…そう言われたら少しだけ救われました。ありがとうございます。』

『あぁ…しまった…朝食買うの忘れてしまったなぁ…今から、買って来ます…』

『いえいえ、大丈夫だよぉ…ところで、朝食は食べてきた?』

『いえ、今日は直接ここに来たので…まだ、食べていないんです。』

『なら、久しぶりに朝食を作るけど…一緒に食べないかぁ?あぁ…そこに座っていて、コーヒーを作るからねぇ?』

『最近、ティファールですぐにお湯が沸くし、ブレンディのスティックのコーヒーが美味しいだよなぁ…助かるんだぁ。』

『そうですねぇ?忙しいと楽ですよねぇ?』

『はい、コーヒーとクッキーをどうぞ?』

『あぁ…ありがとうございます。あぁ…良いなぁ…こんな感じって理想だなぁ…台所に立つ姿って素敵だなぁ…あれぇ、何でかなぁ…涙が出てきたなぁ…そう言えば、お父さんは良く台所立つっていたなぁ…懐かしくなっちゃった。生きていれば、45歳だなぁ…』

『はい、お待たせ!シーチキンとソフトチキンのサラダ、ハムエッグ、ハムとチーズのサンドイッチとルイボスティーだよぉ。』

『あれぇ、パクチー抜きにしたんですか?』

『そうだねぇ?パクチーは好き嫌いがあるからねぇ?もしかして、ルイボスティーはダメだった?これも苦手な人が多くて…ごめんねぇ?今から、紅茶を作ってくるけど…』

『先生、大丈夫ですよぉ。パクチーもルイボスティーも大好きなんですよぉ。』

『えぇ?えぇ!本当にそれはうれしいなぁ…両方好きな人は初めてあったなぁ…テンションマックスだなぁ…では、『森の惑星』を持って来るねぇ?』

『はい、お待たせ!パクチーですよぉ。』

『あぁ…パクチーにはこれが最高なんだぁ。』

『チリソース!オイスターソース!』

『いやぁ、うれしいなぁ…』

『唐揚げにパクチーをのせてチリソースは最高でしょ。それに豆腐にパクチーのせてオイスターソースはもう、最高ですよねぇ?』

『そうそうなんだよねぇ?』

『先生、もしかしたら、グリーンカレーも好きですか?』

『えぇ、何で解ったのぉ?』

『何となくねぇ?でも、『変わっている』が最高の褒め言葉でしょ?』

『鋭いなぁ…動物占いは『狼』ですか?』

『当たっているなぁ…それにしても、懐かしいなぁ…動物占い。』

『でも、見たところ血液型はA型と思わせてO型でしょ?』

『いやぁ、凄いなぁ…洞察力が凄いなぁ…当たりだよぉ…何で解ったのぉ?』

『先生の机をみたらねぇ?』

『えぇ、どうして?』

『先生は普段の予定表は手書きのメモでしょ。仕事に関してはは手帳に記入するマメな性格。色々な鉛筆やボールペンはあるが机は綺麗。でも、食事にはこだわりがある。』

『えぇ、そんな事で血液型は解るのぉ?

そりゃ、解りますよぉ。まず、仕事に関しては必ず期限を守るでしょ?責任感は強い反面、精神的には脆いのがO型の特徴かなぁ?最初はこだわりが多いからA型またはAB型かなぁ…っと思ったけど…潔癖症ではなさそうらからねぇ?』

『なるほどなぁ…それにしても、稲村さんは凄いなぁ…尊敬するなぁ。』

『もう、『尊敬』というよりも『不安』なんですよぉ…昔から『人間不信』で『内気』で『ネクラ』なんですよぉ。昔は『眼鏡』をかけていて…よく、虐められていたんです。』

『えぇ、そんなふうには感じなかったなぁ…とても綺麗だし、今どきな感じで好きだなぁ…。』

『もう、先生ったら、ありがとうございます。お世辞でもうれしいです。あぁ…おいしかった。』

『いえいえ、この程度なら何時でも。あぁ…原稿出来ているから、持って行ってねぇ?

また、連絡するねぇ。』


『あぁ…しまったなぁ…昔、虐められて、内気な性格って何故話したのかなぁ…失敗したなぁ…避けられないかなぁ…不安だなぁ…。あれぇ、鞄の内ポケットに京都のガイドブックがある。あぁ…しまったなぁ…先生のガイドブック持って来ちゃったなぁ。2冊あるけど…今さら、返せないなぁ…新しいの買って渡さなきゃなあぁ…本屋寄って帰ろう。』


『パクチー好きでルイボスティー好きとは凄いなぁ…今まで出逢った中でも最高だなぁ…。やっぱり、第一印象から好きだなぁ…それにしても、性格や血液型まで当てるとはなぁ…でも、虐められていたとはなぁ…人間不信と言っていたなぁ。なら、無理だよなぁ…まぁ、色々、考えてもダメだよなぁ!よし、とにかく、仕事!仕事しよう!!』


今日の百人一首は…

『小野小町〜花の色は うつりにけりな

いたづらに わが身に世にふる ながめせしまに』


20××年

『もう、嫌よぉ!私の事が嫌いになったんでしょ!今まで、私以外に好きな人はいないって言ってたのに、嘘つき!』

『ワイシャツを破ってどうした?おい、どうしたのぉ?』

『どうしたのぉ?って、これは何?あなたのシャツに唇の後がついているじゃない?浮気でしょ?』

『とにかく、落ち着いて…私の目をしっかり見て、話を聞いて欲しい。昨日は懇親会があったのは知っているねぇ?

それは、同じ作家仲間の懇親会で松永 作家がつまづいてワイシャツに唇がついただけだよぉ。松永ヨネは知っているだろ?70歳を過ぎたお姉さんには恋心は動かないって…誤解してるんよぉ。』

『そんな事はないわぁ…百人一首で小野小町が…『花の色はうつりにけりな いたづらに わが身に世にふる ながめせしまに…』って言っていたわぁ。』

『おい、おい。俺が好きなのは、久美だけだって!』

『そんな事は信じられないわぁ。私が老けたから嫌いになったんでしょ?私も老けた事は認めるわぁ。』


『ピンポーン』

『すいません、坂浦作家のお家はここですか?』

『はい、少々お待ち下さい。』

『あらぁ、初めまして、松永 ヨネです。昨日、ご主人のワイシャツに口紅を付けてしまいまして…奥様を大事にしているという事を耳にしまして。変な誤解をされたら大変だと思いまして、謝罪と新しくワイシャツをお持ち致しました。バーバリーのチェックのワイシャツです。』

『えぇ、松永先生、こんな私の為に朝早くからお越し頂きまして、申し訳ございません。』

『あぁ…こちらが女房の久美です。』

『あらぁ…素敵ねぇ。こんな素敵なら坂浦さんが大事にするのがわかるわぁ。うらやましいわぁ。』

『あぁ…先生、こんなに高いのは受け取れないですよぉ。』

『あらぁ…私のワイシャツを受け取れないと…』

『いえいえ、ありがとうございます。』

『では、お互い切磋琢磨して文学界を盛り上げましょうねぇ?』

『はい、ありがとうございます。』

『では、失礼致します。』

『瞬、ごめんなさい。信じる事が出来なくて、ごめんなさい。エーン…』

『ポンポン、馬鹿だなぁ…誤解させてごめんなぁ。謝るのは俺の方だよぉ…ごめんなぁ。

辛かったなぁ…心配かけたなぁ。すごく悩んだよなぁ…ありがとうなぁ…。でもなぁ、俺がこの世の中で好きなのは久美だけだぁ!久美…女性は年齢は取らないさぁ!綺麗になるんだぁ。取るのは幸せを一緒に取るのさぁ!』

『もう、瞬たら、ありがとう。』


『花の色は うつりにけりな…想いは変わらず。』


『あぁ…最高だなぁ…、今日の妄想は最高だなぁ…。それにしても、気分が良いなぁ…!あれぇ、ワイシャツの布?ってなぜ?』





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