第7話 天の原 ふりさけ見れば
『先生、先週はすいませんでした!公私混同してました…すいません、以後気をつけます。』
『いえいえ、寧ろ、謝るのは私の方だよぉ…せっかく、夜桜を一緒に見れたのに時間が取れなくてねぇ…こちらこそ、ごめんねぇ。』
『えぇ!怒っていないんですか?』
『そりゃ、怒るような事は一切、してないよぉ。もしかしたら、怒っていたと思っていた?』
『そりゃ、そうですよぉ…もう、休んでも気になって食べ物も喉を通らないし、あげくには担当変わるなぁ…っと、1人で落ち込むし…』
『あぁ…、本当にごめんなぁ…、そこまで、落ち込んでいたのか…、お詫びも兼ねて寿司屋さんに行こう?ご馳走するよ。』
『えぇ、本当ですか?うれしいなぁ…』
『そう言えば、執筆する姿を見せてなかったねぇ?いつも、この部屋以外に入った事なかったねぇ?』
『そうですねぇ…見てみたいです。』
『えぇ!何もないんですねぇ?』
『そうだねぇ…確かに何もないなぁ…』
『小説を書く人は、色々な小説があると思っていましたよぉ…村上 春樹さんや東野 圭吾さんなどなど…』
『あぁ…もちろん読んでいたけど…売れる前はバイト生活で全部売ったんだよぉ…』
『あぁ…なるほどねぇ。今なら買えますねぇ?』
『そうなんだけど…今は物欲よりも小説を書きたい欲求の方があってねぇ?』
『でも、誰かの為に、書いているんですよねぇ?』
『確かになぁ…』
『という事は…好きな人はいるんですか?』
『そりゃ、いるさぁ…』
『えぇ、どんな人がタイプなんですか?』
『そうだなぁ、純粋で頑張り屋で笑顔が素敵で、一途で時々、失敗して、落ち込んで、涙を流す人で、でも弱音を吐けない…でも、そんな人だからこそ、一生懸命に頑張って幸せにしたいんだぁ。ずっと大事にしたいし、一緒に幸せになりたいんだぁ…』
『そんな人は私以外にいないですねぇ?』
『そうだねぇ?稲村さん以外にはいないかなぁ。』
『ちょっと、ちょっと、冗談ですよねぇ?』
『まぁ、気にはなっているけどねぇ…』
『ありがとうございます。頑張りますよぉ!』
『あぁ…これから、執筆するから、良かったら、隣の部屋でくつろいでいてよぉ。』
『あぁ、大丈夫です。一度、会社に戻って仕事をしてから、また来ます。あれぇ、先生はお煎餅を食べるんですか?』
『えぇ、どうして?さっき、醤油の匂いがほのかにしたので…』
『えぇ、醤油は最近、使った事がないけどなぁ。最近は、洋食が多いからなぁ。』
『あぁ…本当だぁ。パスタとパンと野菜しか入っていないですねぇ?』
『おいおい、冷蔵庫を開けられると恥ずかしいと言っているぞぉ。』
『えぇ、面白いですねぇ…どうして、そんなに恥ずかしいんですか?』
『いやぁ、何となく白物家電は女性に見えてねぇ…』
『なるほどねぇ…なら、このテレビは?』
『間違いなく、男だなぁ…まぁ、唯一の男だなぁ…』
『本当に面白いですねぇ…その発想?私は嫌いじゃないなぁ…もしかして、名前をつけてます?』
『えぇ、解るのかぁ…冷蔵庫はいつも使うからエンジェル、テレビがジャックで、ベッドがビーナスで…』
『あぁ…大丈夫ですよぉ…それ以上は…あぁ、後、忘れるところでした。はい、ルイボスティーとソフトチキンとパクチー大量のサラダとハムとチーズのサンドイッチです。』
『あぁ…ありがとう。あぁ、原稿出来ているから…持って行ってねぇ。』
『ありがとうございます。それでは、夕方にお伺い致します。』
『本当にかわいいなぁ…家電に名前かぁ…愛されているんだなぁ…もっと、聞きたかったけど…公私混同したら、だめだからなぁ。今度は一緒に名前付けたいなぁ…』
『あぁ…家電に名前を付けているのは…流石にひいたかなぁ…まさかなぁ…大丈夫です。それ以上は…って…嫌われたかなぁ?あぁ…でも、夕方にお伺いしますって言ってたなぁ…よし、挽回するチャンスだぁ!頑張ろっと!さぁ、仕事、仕事!』
今日の百人一首は…
『安倍 仲麿〜天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも』
確か、奈良から唐へ行って異国の地でなくなったんだよなぁ…そんな人だと聞いた事があったなぁ…
20××年
『あぁ…あれから、どのくらい経過したなぁ…まさかな、久美ちゃんとこんなにも逢えなくなるとはなぁ…最後にあったのはいつだったかなぁ』
『ちょっと、ちょっと、2日振りにあってこれだもんなぁ!』
『あぁ…久美ちゃん、良く来たねぇ!北京に!』
『もう、私も心配で有給取って来ましたよぉ。』
『あぁ…ありがとう、ありがとう!』
『それにしても、何故?北京に…』
『というのも…『安倍 仲麿が唐の都で月を見ながら日本を思い出した。』という気持ちを少しでも知りたくてぇ。』
『そうしたら、久美ちゃんにめちゃくちゃ、逢いたくなって…でぇ、辛くて電話した。』
『そうかぁ…なら、許そう!』
『その代わりに、北京観光を楽しむよぉ。新婚旅行も行っていなかったから良いよねぇ?』
『もちろんだよぉ…』
『本場のお茶が飲みたいなぁ…』
『もちろん、飲みましょう。』
『あぁ…美味しいなぁ…』
『中国のお茶には飲茶だねぇ?』
『本当だなぁ…美味しいなぁ…』
『はい、ご馳走さまでした。』
『あぁ…お釣りだねぇ?ありがとう。』
『先生、見て、見て!紫禁城だぁ!』
『そうだねぇ?ラストエンペラーの舞台で有名だねぇ?』
『そうなんだぁ…私は歴史が苦手だったからよくわからないなぁ…』
『あれぇ、先生泣いているんですか?』
『そりゃ、そうだよぉ…だってなぁ…清国の最後の皇帝の愛新覚羅薄儀は2歳で即位して6歳で退位して紫禁城を離れるんだぁ…その後に満州国の皇帝に即位するけど…操り吊り人形になり、刑務所で長い年月を送るんだよぉ。残酷過ぎてねぇ…』
『そうなんだぁ…私はだめですねぇ…』
『いやいや、知らない事は時には良い事もあるから大丈夫だよぉ…』
『でも、一緒になって、先生のやさしさを知れてうれしいですよぉ。ありがとうございます。』
『あぁ…見て、見て、素敵な満月ですよぉ…』
『あぁ、もう、今度はどうしたんですかぁ…』
『これだよぉ、これ!安倍 仲麿が故郷を思い出した満月だよぉ…心に響くなぁ…』
『天の原 ふりさけ見れば…』
『先生には私がいるでしょ!ずっと離しませんからねぇ!』
『ありがとう。』
『はぁ、夢かぁ…あれぇ、ポケットに中国のお札とは…もしかして、これは夢ではないのかぁ…タイムトラベラーなのかぁ?まさかぁ…これは!!』
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