第6話 かささぎの 渡せる橋に
『先生!こんばんは。あらぁ、鞄にあんこがついていた…やだぁ、私ったら…』
『あぁ…ごめんねぇ…夕方に取りに来てもらって…昨日は紅葉綺麗だったなぁ…最高だったなぁ…』
『はぁ?今は春ですよぉ…』
『あぁ…いい間違えた。『もみじおろし』辛かったなぁ…最強だったなぁ…』
『あぁ…お蕎麦についていた薬味の『もみじおろし』ですねぇ。確かに、辛かったですねぇ。私もお水おかわりしましたよぉ!そう言えば、今日は土曜日で、明日は休みですねぇ?』
『えぇ?どうして?友達と夕食とか?合コンなどに行くのでは?』
『先生、それは今どきの女の子ですよぉ。私は、先生のような人の方が落ち着くんです。安心というか、真面目というか、純粋な感じが素敵だと思うなぁ…』
『いやいや、ただ友達がいないというか…不器用なんだよぉ…人見知りはしないけど、わざわざ時間を使って飲みに行きたくないんだぁ。』
『でも、一人は寂しい…本当は、素敵な人とは外出したい?』
『あちゃ、流石だなぁ…読まれたなぁ』
『私は女子大で心理学専攻していましたから…何となく気持ちが解るんですよぉ。
先生、約束の夜桜を見に行きましょう?』
『近所を散歩するぐらいだぞぉ…次の作品書かないとならないからなぁ…時間もないからなぁ…』
『解ってますって!少しだけ付き合って下さいよぉ。先生、綺麗ですねぇ…』
『そうだなぁ…あぁ…ちょっと、コンビニ寄っていいかぁ?』
『あぁ…はい。』
『ほらぁ…夜桜といったら、ビールとおでんだろぉ?ベンチ座るぞぉ。』
『はい、ありがとうございます。』
『ここのおでんは大根が染み込んでうまいんだよぉ…』
『あぁ…本当だぁ。』
『今年は寒くて良かったよぉ。たいていはこの時期はおでんをやっていないからなぁ。』
『よし、戻るぞぉ。』
『えぇ、まだ色々とお話したいんですけど…』
『それは、また今度なぁ…ほらぁ、原稿忘れているぞぉ!』
『あぁ…すいません。』
『あぁ…なんか、悪い事したなぁ…つまらなそうだったなぁ…そりゃ、『綺麗』と言われて浮かれていたなぁ…仕事があるんだからしょうがないよねぇ…』
『あぁ…失敗したなぁ…酒を飲めば緊張しないと思ったけど…言葉が出なくなったなぁ…あまりに綺麗だから緊張してしまったなぁ…本当はもっと一緒にいたかったのになぁ…つい、強がってしまったなぁ…来週には謝らなきゃなぁ…さぁ、仕事、仕事だぁ!』
今日の百人一首は…
『中納言 家持〜かささぎの 渡せる橋に 置く霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける』
20××年
『先生、寒くなりましたねぇ?』
『そうだなぁ…久美、ほらぁ、手を貸してごらん。』
『こうですか?』
『えぇ…一緒に手を握ったら、温かいだろ?』
『もう、初めてですよぉ。男性のコートの中で一緒に手を握るなんて…』
『俺たち、付き合ってるんだから、あたりまえだろ?』
『まぁ、そうですけど…今日は、何処に行くんですか?』
『鎌倉の鶴ヶ丘八幡宮に行くよぉ。』
『えぇ、どうしてですか?』
『かささぎの渡せる橋が霜に降りた橋に似ているのか?』を確認しになぁ…』
『あぁ…そう言えば、橋がありましたねぇ?』
『あぁ…なんか、美味しいそうなにおいがしますよぉ。先生、焼きたてのお煎餅ですよぉ?』
『それはうれしいけど…手を急に離すなよぉ…寂しくなるじゃないかぁ…』
『もう、焼きもち妬いて、かわいいなぁ…先生、美味しいねぇ!焼きたては最高だねぇ?』
『本当だなぁ…焼きたてのお煎餅は香りも味も最高だなぁ…』
『先生、着きましたよぉ…鶴ヶ丘八幡宮に…
ところで、かささぎの渡せる橋ってどういうものなんですか?』
『『七夕伝説』なんだぁ。天の川を見た事はあるかい?』
『あぁ…ありますけど、プラネタリウムでぇ?』
『『かささぎの渡せる橋』は『天の川』を例えたんだ。それと『霜が降りた橋』も似ているって幻想的だろ?』
『本当ですねぇ…確かに、似ていますねぇ?』
『あぁ、本当だなぁ…、なんて、幻想的なんだろう。久美ちゃんと一緒なら格別だなぁ…』
『白きを見れば 夜ぞ更けにける…』
『あぁ…しまった。久しぶりにビール飲んだから、寝てしまった。まぁ、明日は休みだから、シャワー浴びて寝るかなぁ…あれぇ、何で、口の中が醤油の味がするんだぁ…』
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