第5話 秋は悲しき
『あぁ…すいません。遅れました。』
『いえいえ、大丈夫だけど…どうしたのぉ?』
『今日、起きると両足が張ってまして…すごく足が重くて遅れました。久しぶりに山登りしたみたい身体が重くなってまして…』
『そっか。そんな事はあるなぁ。』
『ところで、靴の中から砂が出てきたみたいだけど…砂浜とか行ったのぉ?』
『えぇ?砂浜には行ってないですけど…』
『ちょっと、靴脱いでみてよぉ。』
『こうですか?』
『あぁ…すごい、砂が入ってますねぇ…』
『本当に気付いていなかったのぉ?』
『はい、急いで来たから、気付かなかったなぁ…もしかしたら、久しぶりにスポーツシューズを履いたからかなぁ?たぶん、海岸に行った時に入ったのかも…』
『あぁ…そんな事もあるなぁ。あぁ…いつものぉ?』
『はい、ありますよぉ。ルイボスティーとソフトサラダとパクチー大量のサラダとチーズとハムのサンドイッチですねぇ。』
『あぁ…ありがとう。原稿出来上がっているから、持っていってねぇ。』
『はい、ありがとうございます。』
『あぁ…ところで、桜はいつ、見に行きます?』
『あぁ、来週だったねぇ。次の原稿があがる頃には夜桜でも見に行きましょう。』
『絶対ですよぉ。』
『解った、解った。じゃ、原稿出来たら連絡するよぉ。』
『それにしても、あのスポーツシューズは夢の中に出てきたけど…海岸の砂浜の砂ではないのかなぁ…なわけないよなぁ。さぁ、仕事、仕事しなきゃなぁ。』
今日の百人一首は…
『猿丸 大夫〜奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋は悲しき』
20××年
『この時期は、紅葉が綺麗になったので、ぶらりと紅葉でも見に行きましょうよぉ?』
『えぇ…悪くないけど…この時期は混むんじゃないか?それに、車の渋滞も辛いからなぁ…あんまりのらないなぁ…』
『でも、本当は?行きたい…』
『そりゃ、行きたいさぁ…日帰りでも最高だからなぁ…』
『ですよねぇ?でも、一緒に行く人がいない?』
『おいおい、それは当たっているけど…それを言われたら辛くなるなぁ…』
『そうなんだぁ…でも、本音は紅葉を見に行きたい?』
『そりゃ、そうさぁ!』
『はい、決まり、良かった。友達が行けなくなったから、日帰りミステリーツアーをキャンセルするところだったから、良かった。行きましょう。』
『えぇ…今から。』
『もちろんですよぉ。』
『はい、今日はKTO 日帰りミステリーツアーに参加頂きまして、ありがとうございます。本日、ガイドを勤めます、野中です。宜しくお願い致します。』
『では、早速、最初の目的地に行きます。』
『何処に、行くのかなぁ…教えてよぉ。』
『もう、お父さんたらぁ…酔っぱらって、すいませんねぇ…』
『すいませんねぇ…ミステリーツアーなので場所は着いたら解りますよぉ。』
『では、早速ヒントを伝えますねぇ?世界的に有名な作家のミュージアムですよぉ?』
『解る人はいますかぁ…』
『先生なら解るんじゃない?』
『えぇ…解らないなぁ…宮沢 賢治さんかなぁ…』
『ちょっと、それは岩手でしょ…さすがに花巻まで日帰りは無理でしょ…』
『あぁ、馬鹿にしたなぁ…なら、稲ちゃんは解るのぉ?』
『う〜ん、東京から日帰り出来るとしたら、箱根や伊豆ぐらいになるけど…あぁ…そうそう、鎌倉文学館なら川端康成さんなどの作品があって有名ですけど…さすがに近すぎますから違うかなぁ…』
『そこの夫婦は勘が鋭いですねぇ…最初の行き先は箱根ですよぉ。』
『やだぁ、先生、夫婦ですてぇ…あれぇ、先生、うれしそうですねぇ…』
『おいおい、大人をからかうなぁ〜てぇ。』
『先生とは5歳しか変わりませんよぉ…』
『そうだったなぁ……そんなに変わらないけど…可愛いからなぁ…』
『えぇ?可愛いって…もう、先生ったら。』
『はい、お待たせ致しました。目的地に到着です。』
『先生。星の王子様ミュージアムですよぉ!』
『あぁ…なるほどなぁ…サン=テグジュペリかぁ…』
『先生はもちろん読んだ事ありますよねぇ?』
『あぁ…もちろんさぁ…星の数を数える人などは…気持ちが解るような気がしたなぁ。』
『まぁ、先生に限らず、男性は収集癖ありますからねぇ…』
『そうじゃないんだぁ…星の数は愛の数に感じてねぇ…』
『へぇ〜意外だなぁ…『星の数は愛の数かぁ…』何か素敵だなぁ…』
『あぁ…先生の『薔薇』は何処にあるのかなぁ…?』
『えぇ…『薔薇』は目の前にあるけどなぁ…』
『もう、先生ったら、うれしいなぁ…』
『はい、そろそろ、移動しますよぉ。』
『これより、お弁当とお茶を配りますねぇ。』
『先生、車内で食べるお弁当は格別ですねぇ?』
『そうだねぇ?』
『あれぇ、少し浮かない顔してますけど…』
『いやぁ、実は箱根まで来たら紅葉見ながら食べたかったなぁ…って、紅葉じゃなくても仙石原のススキは綺麗だからなぁ…』
『なるほどねぇ…確かにねぇ。でも、地震があったから、やむを得ないですって…先生、見て見て、芦ノ湖ですよぉ。紅葉ですよぉ。車内からも格別ですねぇ。それに、私が隣に入れば『幕の内弁当』も料亭の料理に早変わりでしょ?』
『あれぇ、先生、泣く程にうれしいのですか…』
『違う、違う、苦しい…お茶、お茶…』
『あぁ…はい、どうぞ…もう、ビックリしましたよぉ!』
『はぁ、苦しかった…稲ちゃんが突然、驚かすからさぁ。食べ物が喉に引っ掛かったのさぁ…』
『あれぇ、私の事、嫌いなんですか?』
『違うって、大好きだよぉ…』
『あぁ…良かった。』
『はい、それでは、最終目的地に到着ですよぉ。』
『あぁ…ここは…高尾山って』
『たまには、良いですねぇ…』
『いやいや、新宿から箱根で高尾山って…』
『良いじゃないですか…一緒に2ヵ所を満喫する事が出来るなんてぇ…最高じゃないですか?』
『まぁ、そうだけど…』
『久しぶりだなぁ…高尾山。小学生の時に行ったきりだから、かれこれ10年ぶりだなぁ…先生はどのくらいぶりですか?』
『そうだなぁ…初めてだなぁ…』
『えぇ?東京に住んでいて、初めてなんですか…』
『おいおい、俺はもともと、長野県の松本出身だって…それに、大学時代は学費を稼ぐ為にバイト三昧だったからなぁ…』
『えぇ、そうだったんですか…なんか、すいません。』
『いやいや、寧ろ、ありがたいよぉ。』
『先生、天狗焼きですよぉ!』
『あつぅ!』
『あつあつですねぇ…』
『いやぁ、美味しいなぁ…』
『ですねぇ、美味しいですねぇ!』
『先生、頂上着きましたよぉ…』
『えぇ、もう、頂上なんだぁ…あっという間だったなぁ…』
『そうですねぇ、紅葉かき分けて登ったけど…空気も澄んでいたからねぇ…あぁ…先生、鹿ですよぉ…』
『あぁ…本当だぁ…鹿が鳴いてるなぁ。なんか、夕暮れとともに鹿が鳴くと秋は悲しきだなぁ…』
『本当ですねぇ…』
『でも、高尾山に鹿っていたかなぁ…それにしても、素敵だなぁ…』
『あぁ…夢かぁ!しまった…また、寝てしまったなぁ…。今夜は徹夜だなぁ…』
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