第4話 富士の高嶺に
『プルプル…プルプル…はい、坂浦です。』
『先生、大丈夫ですか?』
『どうした?朝早くから電話とは…』
『先生に何かあったと思って…』
『大丈夫だけど…』
『あぁ…それなら大丈夫です。後でお話します。』
『あぁ…解った。原稿出来ているから、取りに来てなぁ。』
『おはようございます。朝早くから、すいませんでした。』
『あぁ…大丈夫だけど…何かあったのか?』
『実は、夢の中で、先生がベッドで『つらいって』泣いていたんですよぉ。それで、もしかしたら、何かあったのかなぁ…と思って電話したんです。』
『あぁ…そうだったんだぁ。なるほどなぁ…
『つらく』はないけど…寧ろ『うれしい』けどなぁ…ところで、素敵な香りがするけど…薔薇の香りかなぁ?』
『えぇ?薔薇の香りですか?』
『香水か?何かつけてきた?』
『いえ、そんな事はないけど…あれぇ、なんで薔薇の花がポケットに入っているんだろう。なぜだろう…あぁ…もしかしたら、デパートの化粧品売り場に寄った後に、花屋さん行ったからかも知れませんねぇ。』
『ところで、何時ものは持って来ているかなぁ?』
『はい、ルイボスティーとソフトチキンとパクチー大量のサラダとチーズとハムのサンドイッチですねぇ。』
『あぁ…ありがとう。』
『あのぉ、たまには外に散歩でも気晴らしに行きませんか?』
『えぇ?いやいや、今度、機会があれば付き合うけど…まだ良いよぉ…』
『えぇ、残念だなぁ…来週には桜が満開になりますよぉ。じゃ、来週には付き合って下さいよぉ。』
『そうだねぇ?あぁ…原稿出来ているから、持って行ってなぁ…』
『あぁ…ありがとうございます。』
『次の原稿が出来たら連絡するねぇ。』
『はい。』
『まさかなぁ…昨日、見た夢で薔薇の花束を渡したけど…たまたまだろうなぁ…それにしても、気になるなぁ…あぁ…そんな事よりも、仕事、仕事しなきゃなぁ…』
さてぇ、今日の百人一首は…
『山部 赤人〜田子の浦に うち出でて見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ』
20××年
『それにしても、寒いなぁ…もう、12月だって言うのに…田子の浦に行きたいのぉ?稲村さん。』
『はい、1度は田子の浦から見る富士山を見て見たかったんですよぉ。冬の富士山は空気も澄んできれいだと聞いたので…ご迷惑でした?』
『いやいや、そんな事はないけど…突然、電話をもらったからビックリしたよぉ。それに、突然のドライブで静岡県まで来るとはなぁ…。さっきまで、横浜までドライブしましょう?だったよなぁ…』
『すいません。本当は横浜までドライブのつもりだったのですが…先生が富士山は最高だろうなぁ…って言っていたから、無性に富士山見たくなって。あぁ…そう言えば、田子の浦、富士山となったので、つい見たくなって。ところで、先生は田子の浦には行った事はあるんですか?もちろん、百人一首を題材に小説を書いていたら、行かれましたよねぇ?』
『いや、実はまだ見た事がないんだよぉ。』
『えぇ?よく百人一首を題材に小説書けましたねぇ…なら、良かったですねぇ…先生。』
『そうだなぁ…ありがたいなぁ。』
『先生のおかげで、旅行も出来てうれしいなぁ…』
『私もうれしいけど…経費で落ちるのかい?』
『大丈夫ですよぉ。先生の作品は発売されたら、すごい人気があるので会社も理解してますよぉ。』
『あぁ…先生着きましたよぉ。』
『先生、すごい!すごい!綺麗な富士山ですよぉ?』
『そんなにはしゃいだら躓くから…気をつけて。あぁ…、やっぱりなぁ…』
『いたぁ。』
『ほらぁ。』
『ありがとうございます。』
『いえいえ、あぁ…こんなところに、綺麗な貝殻が落ちているなぁ…記念に持って帰ろう。』
『本当だぁ!綺麗ですねぇ。』
『そうだなぁ、稲ちゃんの次に綺麗だなぁ…』
『えぇ?先生、今なんか言いませんでした?』
『稲ちゃんは貝殻よりも、綺麗だぁ!大好きだぁ!』
『もう、先生ったら…恥ずかしいですよぉ。』
『富士の高嶺に 雪は降りつつだなぁ…』
『あちゃ、すっかり寝てしまった。まだ、1行しか書いてないなぁ…こんな事、初めてだなぁ…あれぇ…手のひらに貝殻って…なんでかなぁ?』
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