第3話 ながながし夜を

『先生、おはようございます。』

『あぁ…おはよう。ところで、頼んだ物は持って来てもらえたかなぁ?』

『はい、ちゃんと持って来ましたよぉ。ルイボスティーとサラダチキンとパクチー大量のサラダとチーズと生ハムのサンドイッチですねぇ?』

『あぁ…ありがとう。』

『ところで、どうして、朝食をこだわるのですか?』

『アンチエイジングとデトックス効果があると女性雑誌に書いてあったからなぁ…やっぱり、若さを保つのもイケメン作家としてのルーティンだからなぁ…』

『そうなんだ…女子力高めの作家はファンが増えますからねぇ…でも、そこまでこだわるとひかれますよぉ。』

『解っているよぉ。そりゃ、インスタントのラーメンやスナック菓子やコンビニの弁当なども食べるさぁ…』

『えぇ?意外ですねぇ…』

『そりゃ、無性に食べたくなる時はあるけど…イケメン作家としてマスメディアに取り上げられたら、やむを得ないって』

『確かにねぇ…という事は過去を封印ですねぇ。』

『いやいや、その時はこっそり頼むねぇ。』

『しょうがないなぁ…その時はこっそり買って来ますねぇ。』

『あぁ…ありがとうなぁ…あぁ…原稿出来ているからねぇ。』

『あぁ…先生に聞きたいのですけど…』

『どうしたのぉ?なんか深刻そうな顔しているけど…』

『実は、昨日、先生の家から原稿を頂いてから、会社に戻る電車の中で居眠りしたんです。』

『そりゃ、電車の中だと、いつの間にかに寝ちゃうねぇ?気持ち良くて好きだなぁ…』

『もう、電車の中での居眠りした話ではないですって!』

『えぇ?疲れて寝た話ではないのか?』

『違いますよぉ。居眠りした時の夢があまりにもリアル過ぎて…』

『でぇ?どんな話なのかなぁ…』

『実は、先生と奈良県にある天の香具山に行く予定で旅行に行くんですよぉ。』

『あぁ…良いねぇ。稲村さんとなら、大歓迎だなぁ…』

『ちょっと、ちょっと、そんな関係ではないでしょ?まだまだ、先生と出版社の担当ですよぉ。それに、まだ3日目ですから…』

『あぁ…ごめん、ごめん。あまりにも嬉しい事を言うからさぁ…冗談だよぉ。でぇ、その後は?』

『あぁ…そうでしたねぇ?香久山駅で合流する予定だったので先生に電話するんですけど…家にいるんです。』

『なるほど。それで?』

『しょうがないから、1人で天の香久山に行く時に山の麓に白い衣が干されていて、写真を撮るんですけど…』

『まぁ、そのような話なら、リアルな夢を見ただけかもなぁ…』

『ですよねぇ…でも、違うんですよぉ。』

『えぇ?どう違うの?』

『実は、天の香久山に登った時に木の枝に引っ掛かって、木の枝を掴むのですが…夢から覚めたら、木の枝が手の中にあったんですよぉ。奇妙じゃないですか…』

『なるほどなぁ…確かに不思議だなぁ…たぶんそれは夢ではなく、未来を見たのかもなぁ。』

『とはいえ、この話は他ではしない方が良さそうだなぁ…』

『そうですよねぇ…また、相談しますねぇ。』

『いえいえ、どう致しまして。あまり頑張らないで大丈夫だからねぇ?無理せずに…』



『ふぅ…まさかなぁ、あるわけないないけど…妄想した事が現実になるのかなぁ…そんな事はないなぁ。たぶん、彼女の思い違いだなぁ…さてぇ、仕事、仕事。』

今日の百人一首は…

『柿本 人麻呂〜あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む』


20××年

『それにしても、8月も終わって9月になるなぁ…秋も到来だなぁ…。秋といえば、読書の秋、スポーツの秋、食欲の秋と楽しそうだなぁ…』

『プルプル プルプル…はい、坂浦です。あぁ…どうした?稲村さん?』

『はい?どうした?って、明日は金沢でイベントがありますけど…その打ち合わせですよぉ。』

『えぇ?今日だっけ?』

『もう、多忙過ぎて、曜日の感覚がないと思って電話して良かった。』

『今、何処ですか?』

『あぁ…ぶらりと散歩しようかなぁ…っと。』

『今、行きますから…ちゃんと、外出しないで家にいて下さいよぉ。』

『あぁ…解った。ふぅ、最近は冷たいなぁ。悪い事したかなぁ…あぁ…もしかしたら、ハーゲンダッツの期間限定のアイスを食べたからかなぁ…おいしかったなぁ…いやぁ、待てよぉ…しまった!誕生日プレゼント渡すの忘れていた…花屋さんとケーキ屋さんに行って来よう。』


『はぁ、はぁ…先生!先生いますか?』

『もうぅ、言った先から、外出って、それに、スマホまで忘れているなんてぇ…』

『ただいま』

『あぁ…おかえり。ちょっと、先生何処に行っていたんですか?』

『実はチロルチョコのバラエティーパック買ってきた。』

『はぁ?言ってもらったら、買って来ましたよぉ。』

『って、冗談だよぉ。そう言えば、先月、誕生日だったよなぁ。』

『えぇ?知っていたんですか?』

『そりゃ、知っているさぁ!8月29日が誕生日だったよなぁ。』

『ごめんなぁ。あの日は作家の集いのイベントで抜け出せなくてなぁ…出版社のイベントなら逢えたのになぁ。』

『いえいえ、気持ちだけでうれしいですよぉ。それに、次の日、お食事に誘って頂いただけでもうれしかったですよぉ。ありがとうございました。』

『いやいや、あれはビジネスとしての食事だからさぁ…』

『いえいえ、素敵な一時を過ごせましたから、良かったですけど…』

『えぇ?待て待て、あくまでも仕事だぞぉ…公私混同はいけないなぁ…』

『すいません、先生から誘われたのが久しぶりで嬉しかったから…以後、気をつけますねぇ。

では、来週の金沢でのイベントの打ち合わせをしましょう?』

『あぁ…そうだねぇ。なるほどねぇ。』

『はい、そうです。先生はこの作品のさわりを簡単に話をして頂いた後に、握手会とサイン会です。』

『ちょっと、先生聞いてます?』

『あぁ…』

『では、明日宜しくお願いします。』

『解ったよぉ。任せておいて。あぁ…そうそう、おくれたけど…誕生日ケーキと薔薇の花束をプレゼントです。一緒に食べよう。』

『もう、先生ったら、ありがとうございます。先生大好き!これからも、先生宜しくお願い致します。ありがとうございます。』

『どう致しまして。ところで、良かったら、美味しいワインが手に入ったんだけど…どうかなぁ?』

『もう、先生ったら、そんなに気を遣わないで下さいよぉ。今日は、ごちそう様でした。』

『いやぁ〜、誕生日だったから大人の嗜みというかぁ。礼儀というかぁ。』

『もう、先生ったら、背伸びし過ぎですって(笑)』

『そうだよなぁ…アハハハ。』

『では、明日楽しみにしてますねぇ。』



『あぁ…しまった!ティファニーのネックレス渡しそびれた。はぁ…今日こそは…一緒にいたかったのになぁ…ながながし夜を ひとりかも寝む…』


『はぁ!夢かぁ…』



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