第34話 新婚夫婦のように

子供の頃は、一緒に遊ぶと行っても、大人しい遊びしかできなくて、いつも白蓮に負けていた信志。

一緒にいても、ぎこちない雰囲気になっていた時もあった。

少しだけ成長して、人は大人になると異性と夫婦になり、子を成して家族を作っていくと知り、その相手が白蓮だと分かった時には、恥ずかしくて、一言も話さず避けていた時も。

ようやく妻として、白蓮を見れるようになったのは、10代も後半になってからだ。

その頃には、もう皇太子として板につき、早くお世継ぎをと、強制的に周りから、夜は白蓮と二人きりにされていた。


『その……白蓮はどこまで、知っているのか……』

『何をです?』

『いや、己の役目と言うか…なぜ、夜は私と一緒に、過ごさねばならぬのかとか……』

気恥ずかしさで、白蓮の顔もまともに見れない信志に、白蓮はこの頃から冷静だった。

『……私の役目は、あなた様をお支えする事です。こうして一緒に夜を過ごすのは、あなた様のお子を、産む為かと……』

『わわわわっ……』

国の歴史や、武術、王として国の治めるには、どうすればよいのか、嫌になるくらい教わってきた信志だが、女性の事は誰も教えてくれなかった。

そういう話をする仲間も、周りにはいなかった。

かと言って白蓮の方も、全く男を知らなさそうな顔をしている。

『あの……私には、女としての魅力が、ないのでしょうか。』

『へっ……』

恥ずかしそうに、服の袖で顔の半分を隠しながら、白蓮は震える声で教えてくれた。

『従姉妹の話ですと、夫と言うのは、毎晩のように妻の体を求めてくるものだとか……妻は夫に、肌と肌を合わせながら抱かれると、お子ができるのだと……』

信志は、頭の中を真っ白にしながら、髪をおろして艶めかしい白蓮を見つめる。

『私の肌と、あなたの肌を合わせながら、あなたを抱く?』

『はい……』

二人は恐る恐る近づいた。

どちらからともなく服を脱ぎ、少しずつ少しずつ、二人は肌を合わせていった。


滑らかでほのかな温もっている肌は、自分の肌に吸い付き、白蓮の柔らかな胸は、ついに顔を埋めたくなる。

縊れた腰は、抱きしめる力を一層強くさせ、盛り上がったお尻を優しく撫でると、白蓮の口元から、甘い吐息が漏れた。

『どうしてほしい?』

『どうしてほしいも……この体は、あなた様の物なのですから、あなた様のお好きなように……』

その一言で信志と白蓮は、ようやく夫婦になれたのだが、数多く同じ夜を過ごしてきた事で、大切な何かを見失っていたのかもしれない。


「白蓮。今からあなたを抱いてもいいだろうか。」

「えっ?まだ夕食の途中ですのに……」

「なんだか、無性にあなたが欲しくて、たまらないんだよ。」

辺りを見回すと、お付きの女人や、侍従が誰一人いなくなっている事に気づく。

「いつの間に……」

「皆、私達がこうなる事を、予測していたみたいだな。」

そう言うと信志は、白蓮の手を引き、一番奥にある寝所に、二人で入った。

信志の突然の行動に、驚いたのは白蓮の方だ。

「あ、あの……」

戸惑う白蓮を他所に、信志はどんどん、服を脱いでいく。

まだ部屋に煌々と灯りがついていて、程よくついている筋肉が、白蓮の視線を釘付けにする。


「あの……そろそろ、黒音の元へ行かれる時間かと……」

「ああ、今日は黒音の元へ行かぬ。」

「では、どの妃の元へ?」

純真に尋ねる白蓮に、信志はポツリと呟く。

「ここに決まっているだろう。」

「えっ?」

そっと後ろを向いた信志は、手を伸ばした。

「今夜は、あなたの元へいる。さあ、おいで。」

この人だと、心に決めた人が、自分に手を差し伸べている。

白蓮は、吸い込まれるように、その腕の中に、身を寄せた。

「いつ見ても、あなたは美しい……」

唇を重ね舌を絡ませると、信志は白蓮の髪をほどき、着ている服も少しずつ脱がせた。

だが部屋の灯りは、まだ着いている。

「灯りを……」

「今日はこのままで……私は、白蓮の雪のような肌を見るのが、好きでたまらないんだ。」

兄のモノだと思っていた人が、自分の腕の中で、甘い声をあげている。

激しくぶつかり合う欲情に、最初に悲鳴をあげたのは、白蓮の方だった。

しっとりと濡れた肌に、虚ろな瞳。

妻のこんな姿、眺めようとしなかった自分が、悔やまれた。

「……白蓮、もう少し付き合ってくれないか……」

すると白蓮は、優しそうに微笑んだ。

「ええ……今日はあなたが満足するまで、放したくありません。」

白蓮の腕が、信志の首を包み込む。


「今日黒音に、お子ができない正妃は虚しいと言われました。」

「えっ……」

「でも今、私は幸せです。誰でもないあなたと、こんなにも愛し合っているのですから……」

白蓮の瞳から、ホロッと涙が零れた。

「……子なら、今から産めばいいではないか。」

「でも……」

「私はあなたに、私との子を産んでほしい。」

白蓮は、両手で顔を抑えた。

涙が止まらなかったからだ。

「嫌か?」

激しく首を横に振る白蓮。

「私も本当は……王のお子がほしい……」

そして二人は、貪るように唇を重ねると、激しく情を交わし合った。

「今日は、朝まで眠れないよ……」

「ええ……」

何度も果てては求めあって、信志と白蓮が、ウトウトし始めてのは、実際夜明け近くだった。

寝ている間も、寄り添って寝る様は、新婚の夫婦のようだった。


しばらくして、太陽が部屋を照らす。

朝になれば、王宮にある神に祈るのが、王である信志と、正妃である白蓮の務めだった。

どんなに眠りが浅かろうが、起きて神事に向かわなければならない。

「そうだ、白蓮……」

「はい……」

二人は、まだ眠りの中で、言葉を交わした。

「黒音のお腹の子は、男の子なのかな。」

「さあ。本人はそう申していますが、こればかりは生まれてみなければ、本当にそうなのか、分からないものです。」

「そうか……なぜか、男の子にしては、大人しいような気がするのだ。」

白蓮は、目を覚ました。

「大人しい?」

「ああ。以前に黄杏に子ができた時には、お腹の中でもっと動いていたと思うのだ。」

白蓮は起き上がって、信志に背中を向けた。


後で聞いた話では、黄杏の流れた子は、男の子だった。

同じ男の子なのに、一方ではお腹の中で動き、一方は大人しい。

これは、どういう事なのか。

赤子の性格のせい?

もしかして、黒音のお腹の子は、女の子?

いや、もっと根本的な原因があるのでは……?

白蓮の根拠のない不安が、頭の中を駆け巡った。


「すまない……あんなに強く求め合った朝に、他の妃の話をして。」

「いいえ。何を仰るんです?あなたのお子の問題は、私の問題でもありますでしょう?」

信志は、ゆっくりと起き上がると、白蓮を思いっきり抱きしめた。

「……今日は仕事を休みにして、一日中あなたと一緒にいようかな。」

頬に手を当て、直ぐ目の前で見つめ合う信志と白蓮。


「どうぞ。でも私は、確かめたい事があるのです。」

「……何を?」

「黒音のお腹の子。本当に順調なのか。」

白蓮は、信志の肩に頭を預けると、窓から遠くに見える、黒音の屋敷をじっと見つめた。

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