王太子とその婚約者
池中 織奈
王太子とその婚約者
「アミア!!」
「……なんでしょうか、カイシス殿下」
学園の食堂で、席につき、食事をとろうとしていた中でかけられた声に、アミア・ルンは眉をひそめた。
アミアはそれはもう美しい少女である。
その髪の色は美しい銀色。瞳の色は紫。それは、月の女神を思わせる美しさを持つ。百人中、九十九人は美しいと断言するであろう、神秘的な美しさがそこにはあった。
不機嫌そうに発せられた声だが、その声も美しく、思わず聞いてしまうような魅力がある。
この学園で、『女神』と例えられるアミアは人間離れした美しさを持っていた。
(……このわたくしの昼食を邪魔するなんて、なんなのかしら。今日の朝食は、魔獣の肉である高級ハンバーグ。学園に雇用されている一流シェフであるミエル様が作られたハンバーグを食する事が出来るという至福の瞬間に平民に現を抜かしているおバカさんに邪魔をされるなんてっ)
……『女神』と例えられているほどの神秘的な雰囲気を持つアミアであるが、中身は食事をこよなく愛する人間味にあふれた女性である。尤もその本性は親しいものしか知らない。
「エンジェルを苛めたのだろう?」
「エンジェル? ああ、貴方の夢中になっている平民の方ですわね。もしかして後ろで震えていらっしゃる方がそうなのでしょうか?」
アミアはそう告げる。
正直婚約者である王太子が、平民に現を抜かしていると知った時アミアは呆れたものである。諫言はした。婚約者として、一応だ。
それに対する答えは「俺は好きなようにする」だったため、呆れたアミアは国王夫妻に報告をしたのちに、放っておくことを決めた。婚約者として最低限の義務は果たしているし、言っても聞き分けがない王太子にはどうしようもない。
国王夫妻の見解としてみれば、しばらくすれば目を覚ますだろうだった。親のひいき目もあるだろうが、それにはアミアも同意していた。今は馬鹿な真似をしているが、仮にもカイシスは王太子であり、優秀だとされていた人材だ。実際に平民に現を抜かすまではアミアとの仲も悪いものではなかった。
が、予想外に初恋は長引いており、国王夫妻とアミアで「どうするか」とまた放課後話し合いをすることになっていた。
「エンジェルに嫌がらせをしたのだろう?」
「嫌がらせ? 顔を合わせるのもはじめての相手にどうやって嫌がらせを?」
そもそも、アミアと王太子たちは同じ学年だが、まず所属しているクラスが違う。アミアは一般クラスであるが、王太子とエンジェルは特別クラスだ。
特別クラスは魔力量が多いものが入ることになっている。魔力が多いということはそれだけ制御が難しいという事であり、魔法師のプロが特別に教える事になっている。基本的にこのクラスは高位貴族が多い。ただし、アミアは魔力量が公爵令嬢にしては少なく特別クラスではない。特別クラスは校舎も違うため、そもそもアミアは学園生活で特別クラスの面々と会う事はあまりない。
校舎ごとに食堂もあるわけで、何で一般クラスの食堂に王太子とエンジェル――あと影は薄いが後ろにいる数名の男子生徒たちが居るかはわからない。
ちなみに、一般クラスにはあまり害はないが、特別クラスではそれはもうエンジェルハーレム(とある一般生徒命名。エンジェルとその逆ハーレムたちを指す)は迷惑をかけているらしい。尤も王太子はそこまで暴走していないという話だが。生徒会長としての仕事も相変わらずしているし、他の取り巻きを誡めたりもしているという話だ。
(そもそも、あれですわね。エンジェルという名前はどうなのでしょうか。天使って。安直な名前ですわよね。正直、エンジェルさんがかわいらしい方ですから良いですが、これで普通な顔の方がエンジェルという名前でしたらからかわれて苛められていた可能性もありますわ)
アミアはじーっとエンジェルを見据えてそんな感想を持った。ちゃんと見るのははじめてであるが、エンジェルはアミアも認めるほどの美しい少女であった。
ピンクブラウンの髪はひどく目立つ。この珍しい髪色も王太子の興味を引いたのかもしれないとアミアは思った。目は丸々としていて美しいというよりかわいらしいという言葉がよく似合う。
アミアは、『美しい』という言葉が誰よりも似合う少女である。
はじめてエンジェルを見て、アミアは思った。
(それにしても、これが好みだとすれば私の可愛いあの子に会えばどうなるのでしょうか。やはり、一度も会わせなくて正解でしたわ)
正直婚約者であるが、王太子に恋愛感情のないアミアである。
「嘘を吐くな。エンジェルが苛められたといっていたぞ」
「エンジェルにひどい事をいったそうだな」
「証拠はある」
そう口を開いたのは、王太子ではなく後ろにいたエンジェルの取り巻きである。ちなみに王太子の側近候補たちだ。
「はぁ、そうなんですの?」
アミアはそんなことやってもいない。それに加え、何故か王太子がふふんと笑っているのが気に食わなかった。
「な、なんで、そんな態度をするのですか。わ、私にひどい事ばかりいったのに」
顔を手でおおってそんなことをいうエンジェル。しかしアミアは見た。その口元が笑っていたのを。
(あら、可愛いだけではなく腹黒いのかしら。平民にしては根性があるわね。でも平民であるなら王妃だとは認められるわけがありませんのに…)
んーと思いながら王太子とエンジェルを見る。
「わたくし、そのようなことはしておりませんわ」
「嘘を吐かないでっ……ください。謝ってくれたら、わ、私は許します。だ、だから」
「はじめましての方にどうやって嫌がらせをするのか甚だ謎なのですが」
「貴方は、どうして、嘘を重ねるのですか。幾ら、カイシス様が好きでも、やっていいこととやっていけないことが……」
エンジェルの言葉に、アミアは、「あ」と思った。少なくとも王太子とアミアは昔からの仲である。婚約者として王太子はアミアを知ってはいる。
次期王太子妃としてどういう人間か知っているだろう。その地位を誇りに思っていることも知っているだろう。だから王太子はアミアがエンジェルを排除しようとしたとしてもそれはありえるかもしれないと思ったのだろう。しかし、今の台詞は……と王太子を見た。
「……本当にそんなことを言ったのかい?」
「カ、カイシス様、どうしてそんな顔をしているのでしょうか」
「いや、だってねぇ。アミアはそんなことを言わないよ。私にそこまでアミアは関心はないさ」
「よくわかっていらっしゃいますね。流石カイシス殿下。でしたらわたくしがエンジェルさんを苛めるわけないとも思いませんの?」
「……君は私の事には興味はないだろうけど、王妃の地位には関心があるだろう? だからそういうこともあるかなと思ったのさ」
アミアは王太子に恋愛感情はない。そしてそのことは王太子も承知の上であり、アミアと王太子の婚約は完全なる政略結婚であるとアミアは思っている。
「カイシス殿下も、わたくしの言葉も聞きもせずにその平民に入れ込んでおりますが、何を考えておいででしょうか?」
正直婚約破棄もされないで、王太子とアミアの仲は進展も後退もしていない。悪くもなっていないのだ。たとえ、エンジェルという平民がいようが。
何を考えているかわからないというのがアミアの正直な感想である。
「エンジェルは可愛いだろう?」
「ええ、凄く見た目は愛らしいですわね」
「中身も愛らしい」
「ええ、カイシス殿下がいうのでしたらそうなのでしょう。それで?」
横でエンジェルが「あ、愛らしいなんて。そんな」と照れているが、二人ともそんなエンジェルに視線を向けずに話を進める。
「こんな妹が欲しいと思ったのだ」
「「え」」
声が重なった。これはエンジェルと取り巻きたちの声である。
「妹ですか」
「ああ、私には弟はいるが、妹はいない。妹というものは大層可愛いものなのだろう? 私は妹が欲しいと思ったのだ」
「……エンジェルさんは同じ年ですわよ?」
「しかし、可愛いだろう? 同じ年とは思えない」
「そうですか……。では、その意思をご両親にいってくださいませ」
「なぜだ?」
「……私も、カイシス殿下のご両親も、エンジェルさんを王妃にするのではないかと危惧しておりました。百歩譲って、妹にしたいというわけのわからない思想ならよいでしょう」
「何を言う、私はアミア以外と結婚する気はない」
「そうですか」
二人がそんな会話をのほほんとしていれば、口をはさむ愚か者が居た。正直王太子とその婚約者との会話に割って入るなどやってはならないことだ。
「カイシス殿下!! エンジェルを苛めたものと結婚するのですか」
「いじめは確かによくないが、アミア以外と結婚する気はない。それに本当にやったかもわからないだろう? 確認も含めて乗り込んできたんだ。アミアは本当にやっていないだろうな」
「な、何故」
「アミアには嘘を吐く時に癖がある。その癖が出ていなかった」
アミアは何とも言えない気持ちになった。これだから王太子と会うと疲れるのである。この王太子、色々と有能で、幼い頃からの仲で、色々知られてしまっているのだ。
「で、でも証拠が」
「エンジェルがいっているだけだろう? エンジェルの勘違いだろう」
「しかし……」
「しょ、証拠ならあります」
エンジェルが声を上げた。
「わ、私、階段から落とされました。その時の犯人が………アミアさんの部屋に……っ」
「落とされたっていっても、階段の下にマットが引いてあったし、3段だけで怪我はなかったのだろう? そんなバカみたいな嫌がらせアミアは絶対考えない」
「……でも、あの子、よく見るんです!! 私のコートが破かれた時も」
「数センチだろう? しかも代わりを買えるお金が横に置いてあったと聞くが。それよりも魔法実習中の妨害や、密室に閉じ込められた時の証拠は?」
王太子、バッサリいう。
癖が出なかったというだけで、アミアはやっていないだろうと結論付けたらしい。さて、話を聞いていたアミアはといえば、心当たりがあった。
「……エンジェルさんに一つ謝らなければならないですわね」
「アミア、まさかかかわっているのかい? こんなバカな嫌がらせに?」
「馬鹿というのはおよしになってください。あの子、多分私の事を思って一生懸命嫌がらせをしようとしたんだと思いますわ。でも人を傷つける事など出来ない子ですから下にマットをひいたり、破いてわざわざお金をおいたりしたのかと……」
はぁ、とちょっと溜息をはき、アミアは魔法を一つ使う。それは使用人を呼び出すための魔法だ。
(カイシス殿下の前にあの子を呼びたくないのですが、あの子がおそらくやってしまったというのでしたら仕方ありませんわね)
なんて思いながら「私の使用人の子が少し悪戯をしたみたいなので、そのことだけは謝罪させていただきますわ」といってアミアは謝罪をした。
一度謝罪をさせたことに調子にのったらしい。エンジェルと取り巻きたちは口々に言う。
「それも貴方の命令ですよね…。嫌がらせをしたことは間違いないじゃないですか。あ、謝ってください」
「そうだ。なんてことを」
「他の嫌がらせも貴様が」
「貴様には心がないのか」
「誰に向かって口をきいていますの?」
アミアは不機嫌そうな顔をしていった。正直平民や爵位の下のものにそんな風に言われる意味がわからない。
「確かに未来の王妃に聞く口のきき方ではないな。エンジェル、アミアは私の未来の奥さんだ。エンジェルの姉になる人だ。だから仲良くしてくれ」
「貴方は……エンジェルさんを本当に妹のように扱う気ですか」
「当たり前だ。だからアミアが本当に嫌がらせをしているならやめさせて仲良くさせようと思ったんだ」
エンジェルに構っていた理由がしょうもなさすぎてアミアは呆れている。しかも特攻してきた理由がそれとか…と考えている。
「だ、だまされているんです!!」
「エンジェル…、どうしてそんなことを言うんだい? アミアは私に嘘はつけないよ。ついたとしても私にはわかるからね」
本当に厄介な男だとアミアは思った。実際、嘘をついても見抜かれるのだから反論はしない。
「……アミア様ぁ、呼ばれてきましたー。どこですかー」
なんだか王太子がエンジェルに何をいっているんだという目を向けている中で、可愛い声が響いた。
アミアは頬を緩める。どうやら馬鹿をやらかしてしまった子が現れたらしい。
「ミィ、こっちよ」
「はぁい」
アミアがあまりにも優しい声と笑みを浮かべているから、その場にいたものがアミアに注目していた。あまり表情を変えない『女神』が笑っているのだ。
そして、やってきたのは……、小さな少女だった。
背は140センチもないだろうか。この国の女性の平均は160センチだから、随分小さい。
かわいらしい少女だ。絶世の美少女とか、そういうわけではないか、愛嬌がある。そして耳には猫耳がついている。獣人というやつである。
「ミィ、貴方、この方に悪い事したでしょう?」
そしてアミアがそういってエンジェルをさせば、ミィと呼ばれた少女はエンジェルを見てびくっとする。
「あ、ご、ごめんなさい。アミアさまの婚約者さまぁが、この人に夢中だって聞いて。アミアさまが一番きれいなのにっって」
泣き出しそうな顔をしていった少女に、アミアは優しく告げる。
「悪いことをしたらごめんなさいでしょう?」
「…はい。ごめんなさい」
「エンジェルさん、ごめんなさいね。この子が勝手に暴走したみたいで」
「なっ、こんな小さい子のせいにするなんて。貴方はどれだけ非道なのかしら」
「……貴方、人のお話聞いていました?」
アミアの目がさめきっている。
また反論しようとしたエンジェルを無視してアミアは王太子を見た。
「……カイシス殿下、わたくしこの方と姉妹のようになど仲良くなれませんわ。全くわたくしを信じてくださりませんもの。それに、妹のような存在といえばミィが居ますもの」
アミアはそういうと、ミィを膝の上に乗せた。『女神』の上にかわいらしい少女がのり、そして『女神』が優しげに微笑んでいる姿に周りがノックアウトされている。
「アミア、この天使はどこにいたんだ!! 私は見たことがない」
「見せないようにしていましたもの。だってカイシス殿下はミィを気に入るでしょう? 可愛い子を何故カイシス様に見せなければならないのですか。どうせ、この子はわたくしが王宮に輿入れする際に連れて行くので、その時までわたくしだけで独占しようと思ってましたののに」
ぷいっと不機嫌そうな顔をしてアミアはそっぽを向いた。
王太子がなんか感涙決まった目をしている。その目を気持ち悪いなとアミアは思った。
この王太子が可愛い物好きな事は承知の上である。そういう意味でいえばアミアと王太子は同類である。
「カ、カイシス殿下!! だまされないでください!! アミアさんは……」
「エンジェル、いい加減にしてくれないか? アミアが私に嘘をつくことはないだろう。それでいてだますこともないだろう。そんなことをしてもアミアには利点がないのだから。それにアミアに妹が居るのなら、私の妹と同然だ。君を妹にする必要もなくなった」
なんか言い始めた王太子にアミアは本当にこの人の思考はわからないと思った。どういう思考でエンジェルを気に入り、妹にしようとして、今度はいらないというのかよくわからない。
というか、意味がわかっている人はまずいないだろう。
「あ、あのどうして、カイシス殿下……! アミアさんは貴方を――」
「アミアを悪く言われるのは耳障りだ」
エンジェルハーレムは王太子が引き受けているので、アミアはもう放っておこうとミィを膝の上に乗せたまま食事をしていた。寧ろ食べさせていた。
「ミィ、おいしい?」
「はい! でも、おろしてください」
「嫌ですわ。悪い事した罰で、わたくしの膝の上の刑ですわ」
笑ってそう告げるアミアは、どちらかというとかわいらしい。生徒たちがいつもとのギャップに顔を赤くしている。
そうしているうちに、王太子はエンジェルハーレムを警備員に連れて行ってもらったらしい。
あまりアミアは聞いていなかったが、エンジェルの本性が暴露されたみたいだった。
「はぁ、まさか、あんなに可愛い見た目のエンジェルが性悪だったとは」
疲れた顔をして王太子は自然にアミアの隣に座った。
「わぁ、キラキラしてる。これが、アミアさまの婚約者さま? 綺麗」
無礼な口調だが、アミアの膝に乗ったままのミィが可愛かったのだろう。妹が欲しくてたまらないらしい王太子は無礼を気にした様子もなく、ミィの頭を撫でた。
「そうだよ。君の名前は?」
「ミイナです」
「それでミィか。可愛いなぁ」
王太子、デレデレしている。
「それで、カイシス様、エンジェルさんはよろしかったのですか。あんなに妹にしたいといってましたが」
「確かに可愛いが、アミアと仲良くできなきゃ意味がないよ」
「……別にカイシス殿下の妹にすることとわたくしと仲良くする事は関係ないと思いますが」
アミアはやっぱりこの人は意味がわからないと思った。
「アミアは可愛いものが好きだろう?」
「ええ、そうですわ。それが、なんですの?」
「可愛いものと一緒に居る時のアミアは可愛いじゃないか」
「はい?」
なんか言い出した王太子にアミアは驚いた顔をする。
「だから妹を作ってアミアとセットにすれば、楽園だろうなと思った」
「………貴方は、何をおっしゃっているのですか。馬鹿なことを」
アミアは今まで王太子が口にもしてこなかったことを言われて戸惑う。顔が赤いのは、言われなれない事を言われたからだとアミアは思う。
「だからアミアの傍にもう妹がいるなら問題はない。こんな可愛い妹が居たなど、何故教えてくれなかったんだ!! 私は楽園を見逃していたことに……」
「カイシス殿下、学園で馬鹿な事を言わないでください。第一、そんなことを考えていたなどと私は知りませんでした」
「言ってなかったから。それしても、言った方がいいな。アミアが可愛い顔をしている」
「……私と貴方は政略結婚でしょう。何を馬鹿な事を。第一王宮ではエンジェルさんが貴方の遅い初恋だと噂されていましたよ」
今まで「可愛い」などといってこなかったのに、何を急にと思ったアミアである。
「なんだと……」
「何を驚いた顔をしていますの? エンジェルさんを妹にしたいとなると、恋ではなかったのでしょうが。まぁ、私と貴方は政略結婚ですから、既成事実さえ作らなければ恋ぐらい構いませんわ」
アミアはそう告げながら、今日の王太子は今まで見せない顔を見せると思っていた。
「…アミア」
「はい?」
「私の初恋はアミアだぞ?」
「はい??」
何を突然と思いながらアミアはミィを膝に乗せたまま王太子を見た。
「だから、私が好きなのはアミアなのだ」
「な、何を突然」
「突然も何も、はじめて会った時の一目ぼれだ」
「……え。そんなこと、今まで」
「アミアは私に興味がないだろう。だからそんなことを言って面倒な奴といわれるのが嫌だったから」
「……なら、何故、今」
「アミアとミィのセットが可愛すぎて思わず本音が出たら、アミアが益々可愛くなったからだ。いうのも悪くないなと」
「な、なななな」
アミアの顔は真っ赤である。正直口説き文句を言われたのははじめてではない。それはそうだろう。『女神』と呼ばれるほどの美しい少女であるから、口説き文句はよく言われる。
しかしだ。今まで全く言ってこなかった相手に……、婚約者である存在に言われてアミアは戸惑っている。
「ああ、もう本当に可愛いなぁ。天使を膝に乗せたまま、顔の赤いアミアって本当可愛い。ミィ、ちょっとどいてくれるかい?」
「ん? わかりました」
ミィが素直に膝の上からどける。顔を真っ赤にしたまま、固まっているアミアは反応しない。
そんなアミアに王太子は、
「可愛いなぁ」
とつぶやいてキスをした。いっておくが、ここは公の場である食堂である。
唇を話せば、放心状態のアミアが居る。
固まっている。
ちなみに王太子がそんな真似をしたのは、アミアがあまりにもかわいらしかったからと周りへの牽制である。
「……か、帰る」
「ん?」
「帰りますわ!!」
アミアは顔を真っ赤にしたまま、そういってミィの手を引いて食堂から去って行ったのであった。
王太子はついていこうとしたのだが、「ついてこないで!!」と怒られたため、おとなしくすることにした。
そしてその日、エンジェルは退学し、王太子以外の取り巻きたちは処分を言い渡されたが、そんなことより王太子とアミアの事で学園は持ちきりであった。
――――王太子とその婚約者
王太子とその婚約者 池中 織奈 @orinaikenaka
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