第47話 トイポの町

数時間後、猛達一行はトイポの町に到着した。

途中まではポニサスを傍らに3人で歩いていたが、最後の30分程は「(少しの間なら3人でも乗せられますよ)」とポニサスが申し出てきたので、3人乗りで夜明け間近の道を駆けた。

イリカもエリネも乗馬の経験が少し有ったようで、つつがなく乗馬出来たが……腰に抱き着くエリネの身体の感触にどぎまぎしたのは、猛が墓場まで持っていこうとこっそり決意したヒミツである。



────第47話 トイポの町────



「ここが……トイポの町」


猛は、眼前に広がるはじめての町の風景に目を見開いた。

まだ夜明け前な為に、暗く閑散としてはいるが……それでも、リンガランド領以外の町を初めて見た感動はひとしおであった。


「はいはい、感動してないで宿を探すわよ。色々探索するのは、夜が開けてからの方が良いでしょ?」


「あ、はい。そうですよね」


イリカに指摘され、猛は宿屋を探す事にした。






「ふう……」


猛は、宿屋のベッドに転がってひと息ついた。


幸いにも、2部屋の空きがある宿屋はすぐに見付かった。


こういう時、部屋が1部屋しか空いてなくて女性陣と一緒で色々ドキドキハプニングが……なーんてシチュエーションもよく有るけど、実際あんなのに遭遇したら心も身体も休まらないよね。

別に『枯れてる』とは思ってないけど、なんというか、メリハリを大事にしたいというか、休む時はしっかり休みたいというか……

うん、まあとにかく、何事も無くひと息つく事が出来そうで良かった。


……持ち場を放棄して来ちゃったから、そろそろ護衛騎士団の人達にも気付かれてるかな。

まだ気付いてなくとも、夜が開ければ必ず気付くだろう。

……アイシャさん、心配するかな。それとも激怒するかな。

いつ戻るかも分からないし、そもそももう戻らないかもしれない。

それなら、激怒して愛想を尽かしてくれた方がスッキリするけど……


猛の心の中に、『アイシャに愛想を尽かされる事』に対するもやもやとした感情が渦を巻いていた。



いやいや、ここで振り返ってどうする。

これからなんだ。これから、『この世に訪れし危機』と思われる【ベラティナ】達と戦う為、情報を集め、先手を打ち倒していかなくてはならない。

よし、一眠りして、夜が明けたら……そこからが、この旅の第一歩だ。頑張ろう。



翌朝。

起きて準備を済ませた猛達は、夜が明けた町へと繰り出していた。


「おお……」


猛は、到着した時と違い活気のある街の様子に目を輝かせた。


石造りの町並みに、建ち並ぶ店。行き交う人々。

正直、目立った特徴は無くこの世界ではありふれた町並みであったが……この世界に来て、リンガランド領内しか見てこなかった猛にとっては目に映るモノの多くが新鮮に見えた。


「……まあ感動する理由も分からなくもないけど、ぶっちゃけここはそんなに大きくもないし何か目立った特徴のある町じゃないわよ。情報集めと言っても、酒場に行ってみるくらいしかないんじゃないかしら?」


……酒場、か。

お決まりのひとつではあるんだけども、第一にそこが挙がるということは……この町には、異世界お決まりのあの施設は無いって事だね。

というか……


「酒場だと、朝から行っても仕方ないですよね?じゃ、夜までは皆それぞれ好きに過ごす事にしますか?今のところ、何か急がなきゃならない事は無さそうですし」


「さんせーい♪」


猛の提案に、エリネがにこにこ笑顔で片手を挙げて賛同した。


「ま、良いんじゃない?確かに酒場行くなら夜に行った方が人多いし。じゃ、夜までは各自自由行動って事で良いわね?」


「ええ、そうしましょう」


そんなこんなで、猛達3人は夜に酒場に待ち合わせておき一旦解散する事にした。







町を見回っている途中、猛の目にふと1つの屋台が目に入った。


「『オックス串』って……牛串で良いのかな、これ」


何故ビーフではないのかが少し疑問だが、焼ける匂いからして多分牛肉の串だろう。

……食べてみたい。


「すみません、オックス串を2本頂けますか?」


ハg……いや、丸くて輝かしい頭に鉢巻きを巻いた、中年男性の屋台の店主に話しかける。

だが、店主は少し困ったような顔をすると、


「あー、兄ちゃん。コレ見てくんな」


と、1枚の貼り紙を指差した。

そこには、


【オックス串はお一人様1本までとさせていただきます】


との注意書きが有った。


「あっ……すみませんでした」


ちゃんと注意書きが貼ってあったのに、見落としてしまった。

……けれど、ちょっと気になる。

串って普通、何本か買っていくものじゃないかな?

人気メニューすぎて、購入制限が付いたとか?


気になった猛は、店主に尋ねてみることにした。


「あの……このルールって、何か事情があるのですか?僕昨日ここに来たばかりで、ここも初めてなんですけど……」


「ああ、なるほど兄ちゃんはこの町初めてか。なら知らねぇわな、東の牧場の事はよ」


「東の牧場?」


店主の言葉におうむ返しで尋ねる猛。


「ああ、ここはその東の牧場と契約しててな。そこからレッドオックスの肉を卸してもらってたんだけどよ……数日前、そこの牧場でトラブルが有ってな。飼われてたレッドオックスの殆どが死んじまったんだ。だから、保存してある在庫でやりくりする為に一時しのぎ的に制限付けてんだよ」


「あ、なるほど……」


これで納得が行った。確かに仕入れが突然絶たれてしまっては、緊縮せざるを得ない。

けれど……


「ちなみに、どんなトラブルが有ったんです?」


飼ってた牛が突然殆ど死んでしまうだなんて、普通じゃない。


「ああ、何でも飼ってたレッドオックスの内1匹が突然倍くらいデカくなって、その上凶暴化したとか言ってたな……で、他の牛がソイツにほとんど殺されちまったんだってよ」


ううむ、悲惨な話だ。犯人は身内に有り、しかも誰が悪いとも言えない話だ……

でも、異常な事なのは確かだ。家畜の牛が、突然そんなに凶暴化するだなんて。


「この世か……いや、この辺りではよくある事なんですか?その、動物が急に凶暴化するって」


この世界、などと言うと怪しまれるので、『この辺り』と言い直しつつ尋ねる猛。


「とんでもねぇ、俺も初めて聞いたよ。そもそも、そんなよくある事なら向こうもこっちも対策立ててらぁ」


「……そうですよね、変な事聞いてすみませんでした」


確かに、滅多に無いからこそ窮状に陥ってるんだよな……


「まあ、俺が知ってるのはこの程度だ。詳しい事聞きたいのなら、直接東の牧場に行ってみな」


「ええ、分かりました。ありがとうございます」


夜まではまだ時間も有るし、その牧場へ行こうと猛はその場を後にしようとした。


「おいおい、兄ちゃん話すだけ話して満足か?色々と忘れてるぜ、ほらコレ」


店主は呆れ笑いをしながら、焼けたばかりのオックス串を猛に差し出した。


「あっ……すみません」


猛は慌てて受け取りつつ、代金を支払った。


お金払うだけ払って満足して、温めてもらってる途中の商品を受け取り忘れる、なんてのは元の世界でもたまにやらかしてたけど。

話すだけ話して満足して売買すらやらずに去ろうとしたのはさすがに初めてだ。

これから、険しい道が待ってるんだ。しっかりしろ自分……とほほ。


気を取り直す為、猛はその場で受け取ったオックス串を一口かじった。


「……う、美味い!」


ちょうど良い噛みごたえの肉を噛んだと同時に、口の中に肉汁が溢れて躍る。

この『ちょうど良い噛みごたえ』というのが、個人的に嬉しい。

よく『高級で美味な肉』を表現するのに、『口の中に入れた瞬間溶ける』というものが有る。

昔、お金持ちの親戚に連れられて一度だけとても高価な肉をごちそうになった事があったが、

味は文句の付けようの無かったものの、

ほぼ噛まずにすぐ崩れていってしまう様には、なんだか食べた気がせず物足りなさを感じてしまった。

だから、個人的には肉は少しは噛みごたえが有る方が好みなのだけれど、

この串はその『噛みごたえ』がちょうど良い塩梅。とても気に入った。


「ははっ、だろう?ホントは欲しいだけ買わせてやりたいんだけどよ、今の状況じゃなあ……」


猛は、食欲と店主の困り顔に押されて、『お決まり事』に関わる決意を固めた。

そう、異世界モノで初めて来た街に関するお決まり事と言えば。

町民の、お困り解決……!





─────────────────────

あとがき


読んでくださってありがとうございます♪

最近間隔が空き気味なのは、モチベーションの問題も少々……

コメントをくださると、モチベーションの上昇・維持に繋がりますので、何卒よろしくお願いします♪

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【変幻の騎士(バリアブル・メタル)】~片想いの女魔法剣士が惚れた新たな英雄の正体は僕~ ぬるぽん @nurupon1435

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