第46話 目指すは南
「で、どこに向かうかは決めてるの?」
イリカが猛に尋ねる。
「ええ、色々考えましたけど、まずは……この大陸の南端、港町のハルベスを目指そうかと思います」
────第46話 目指すは南────
「ハルベス?別に良いけど、どうしてまた?」
「港町は、他の大陸から来る人の玄関口でもあります。つまり、他大陸の情報の玄関口でもあります。だから、そこなら他大陸の情報が効率的に集められるんじゃないかなって」
もし、【ベラティナ】の連中が他大陸でも暗躍しているのなら、港町でならその情報が得られるはずだ。
そして、もし他大陸でも奴らの影が見え隠れしているというのであれば──
「で、もし他の大陸で【ベラティナ】が関わってそうな事件が起きたというのなら、その港町からすぐに向かう事が出来る────そういう訳ね?タケシちゃん、ちゃんと考えてるじゃないの。えらいえらい」
エリネがにこやかに猛の頭を撫でる。
「ちょっ、エリネさん!」
女性と接する機会のほとんど無い猛にとって、それは心臓に悪かった。
「ったく……これだからオトコって。あーあ、ウワサの『
「うぐっ」
イリカの言葉が、猛の胸に勢い良く突き刺さった。
そう、僕は知っている。
アイシャさんが、僕が扮する黒い騎士『
だからこそ、アイシャさんには僕が『
イリカさんの言う通り、こんな冴えない人間が正体だと知ったら、あの人はがっかりしてしまうだろう。
だから、決して知られてはならない。
────あんな素晴らしい人の期待を、裏切ってしまわない為にも。
幻想は、幻想のままで居させないと……
そんな事を考えつつ道を歩いていると、猛たちの目の前に行く手を阻むものが現れた。
黒い狼のような魔物が3匹だ。
「あら、ナイトウルフね。深夜にしか出ない、割と強い魔物……けど、私達の敵じゃないわね」
素早く敵の正体を見極めたイリカが、右手に光球を発生させ戦闘態勢に入る。
「お姉ちゃん、行けるわよね」
「ええ、いつでも良いわよ〜」
口調は普段通りだが、その目つきは鋭くナイトウルフ達を見据えている。
「行くわよお姉ちゃん。『
イリカの右手の光球が、エリネの背に当たり吸い込まれていく。
「炎よ炎……その燃え盛る火炎で焼き尽くせ。『フレイム』」
攻撃魔法の基本中の基本、初級火炎呪文。
しかしその発動の速さと威力は、この前猛が初めて成功させたものとは全く別物であった。
初級呪文とは思えない程、広範囲で威力の高い火炎が、あっという間にナイトウルフ達を飲み込み。
その炎が消え去った跡形には、魔物たちの居た形跡は何1つ残っていなかった。
「す……すごい」
あっという間に魔物を焼き尽くした。僕が動く前に。
「ふん、どーよ。お姉ちゃんの呪文に、私の補助魔法がかかれば初級呪文でもこの威力よ」
猛が、マギティクス姉妹の手際の良さを褒め、イリカが鼻を高くしていた、その時。
近くの茂みから、いくつかの黒い影が飛び出した。
その影は5つ。全て、エリネの方へ猛進して行く。
「エリネさん!危ない!」
猛は、背中のカイガを引き抜いて間に割って入った。
影の正体は、全てナイトウルフだ。
きっと、さっきの3匹のやられ様を茂みから観察し、攻撃呪文を放ったエリネさんを一番の危険と見なし真っ先に始末しようとかかったんだろう。
賢いけど……最初の3匹は、まるで囮か鉄砲玉じゃないか。
群れの中でも立場が低かったんだろうか。
そういうやり方……許せない。
猛は、向かってくる5匹の狼に向かって、タイミングを見計らって槍状のカイガを薙ぎ払った。
5匹の内4匹はその餌食となり豪快に吹っ飛ばされたが、
1匹だけ、薙ぎ払い攻撃を察知しギリギリで踏みとどまった個体が居た。
「多分そいつが群れのリーダーよ!気を付けて!」
イリカが猛に警告を飛ばす。
なるほど、確かにどことなく他のに比べて賢そうな顔してる。
けれど、手下を囮に使うようなリーダーには負けたくない。
猛は、残った群れのリーダー狼を睨みながらカイガを構え直した。
だが、さすが群れのリーダーだけあって手強い。
猛の攻撃は空を切り続け、逆に敵の噛みつきや体当たりは何度かもらってしまっている。
くそっ、すばしっこいヤツめ。
どうすれば攻撃を当てられる……?
ナイトウルフのリーダーと競り合いつつ、猛が思考を巡らせていると。
「焦ってんじゃないわよ!ほら受け取りなさい、『
イリカの右手から放たれた光球が、猛の背に当たる。
すると……
あれ?なんだか、さっきまでより、何というか……敵が遅く見える?
いや、違う。これ、僕が速くなってるんだ。
よし、これなら……!
猛は、わざと右手をナイトウルフの近くに無防備にちらつかせる。
ほら、僕の右手が無防備だぞ。
お前なら、見過ごさないだろう……!
そして、狙い通り。
ナイトウルフのリーダーは、猛のちらつかせた無防備な右手に食い付いてきた。
装甲の薄い部分なので、それなりに痛みを感じる。
だが、それも含め全て猛の狙い通りであった。
「はあああああっ!」
猛は、左手に握っていたカイガを、右手に食い付いているナイトウルフの腹目掛けて思い切り薙ぎ払った。
「ギャンッ!」
攻撃の際、多くの生物は攻撃に意識が行く分防御意識が薄くなり、守りが手薄になる。
猛の一撃は、守りの意識が薄くなったナイトウルフの腹を見事に捉え。
ナイトウルフは、腹を切り裂かれながら悲鳴を上げつつ勢い良く夜空へと吹き飛んでいった。
「ちょっとタケシちゃん、右手大丈夫?」
猛の後ろに居たエリネが、心配そうに右手を覗き込んでくる。
「ええ、まあ大丈夫ですよ」
……ほんとは結構痛いけど。
「大丈夫なワケないでしょ、ほら治すから」
駆け寄って来たイリカが、猛の右手に自分の右手を
すると、傷と痛みは見事に無くなった。
「凄いです、イリカさん。ありがとうございます」
猛は、思ったままの感想を素直に礼の言葉として言った。
「ふ、ふん。トーゼンでしょ。私の回復魔法なめないでよね」
言われたイリカも、ツンっと顔を背けつつどこか満更でもなさそうな様子だ。
「タケシちゃん、イリカちゃん素直じゃない所があるから……これでも喜んでるのよ、ありがとね」
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!」
天然っ気のある姉が、妹の態度を暴露してしまうのであった。
「と、ところでアンタ!アンタもしかして、ハルベスまでぶっ通しで歩くつもり?」
……あっ、言われてみれば。
僕一人なら、捜索に引っかからないよう出来るだけ早く遠くに行く為にそうするつもりだったけど……今は、イリカさんとエリネさんも居る。
だったら……
出発前に手に入れておいた地図を広げ、ハルベスまでの道のりを改めて確認する。
すると……有った。途中で寄れそうな町が。
……ここまで行けば、仮に僕の捜索が手配されてもそうすぐには見付からないだろう。
「そうですね。じゃあ、間にある町……トイポの町まで行ったら、ひとまずそこで数日間滞在しましょう」
猛は地図から目を上げて、姉妹に告げた。
─────────────────────
あとがき
読んでくださってありがとうございます♪
最近数日空く事が多くなって申し訳ありません(汗)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます