幼女Aの地獄推理

木花咲

私を苦しめるための物語

★場所:地獄、コンビニ『デーモンマート』

●時間:昼


【幼女A】

「いらっしゃいませ。」


【赤鬼】

「これと、タバコを。支払いはカードで。」


【幼女A】

「(レジに置かれたのは、可愛い鬼の女の子がおっぱいを突き出している過激な表紙が印象的なエロ本。それにしても、まさか地獄に来てまで労働させられるとは思ってもいなかった。私はまだ6歳だぞ。さて、少し時間を戻して説明しよう。)」



★場所:地獄、警察署の取り調べ室

●回想:地獄初日


【鬼平勤太郎】

「窃盗、強盗、詐欺、総額6000万円以上を騙し取る。おまけに殺人まで。幼い体で次々とよくここまでの犯罪を繰り返したもですっ! こんな極悪人は初めてです!」


【幼女A】

「(たった今、日本でヤクザに刺されて即死したばかりの私の目の前に、メガネをかけた態度のデカい鬼がタバコをふかしている。これが異世界というやつか。名札には、鬼平勤太郎とある。取りあえず、物分かりの悪い子供のふりを決め込むとしよう。)あのぉ、ここってどこですかぁ?」


【鬼平勤太郎】

「ひゃははは、君って面白ですっ! ここがどこだか知らない!? 優しい鬼さんが教えてあげましょう。ここは君のような悪い人を懲らしめるところ。地獄って言うんですよ! その中でも、警察署の受付、とでも言うと分かりやすいですか。」


【幼女A】

「(受付とは名ばかり。ここは取り調べ室。小さな机にライトを顔面に照らされ、恐喝さながらに、威圧してくる鬼。私の首には名札がぶら下げられ、そこに書かれた文字は、『幼女A』。日本にいた時の名前は思い出せない。気に入っていた名前ではなかったが、お腹を痛めて私を産んでくれた母親がつけた名前だ。少しばかりの愛着はあったように記憶している。が、その名前は、もう一生思い出すことはなさそうだ。)」


【鬼平勤太郎】

「ワッツ!」


【幼女A】

「(鬼が書類を捲りながら頭を抱え、ついには書類をぐちゃぐちゃに。発狂していらっしゃるご様子で気色悪い。)」


【鬼平勤太郎】

「極悪人を目の前に、最大の問題が発生です。最低最悪ですっ!」


【幼女A】

「問題? なんですかぁ?」


【鬼平勤太郎】

「法律上、9歳以下の子供は地獄の刑を執行できないのですっ! 仕方ないです! 君には特別に3年の間、コンビニの『デーモンマート』で働いてもらうことになりますっ。それで3年たったら、閻魔様の裁きを受けて、地獄の刑を執行すべく地獄の刑務所へと入るのです。精々3年間は、恐怖に怯えながら労働に勤しむがいいですっ! ひゃははは。」


【幼女A】

「(笑い方が下品だ。これならとっとと地獄へ行った方がましだろう。どうせ刑務所といっても、子供の私には、子供用の刑が用意されているに違いないだろうし、日本でのヤクザとの生活を思えば、地獄の生活は幾分か快適なのかもしれない。そう思うと少し笑えてきた。)」


【鬼平勤太郎】

「何が可笑しいですっ! 勘違いしないでくださいねっ。地獄の刑を受けると、恐怖で我を失い、永遠に苦しみ続けるのですっ。そしてその苦しみからは、二度と逃れられないのです。地獄の刑務所からは、悲鳴しか聞こえてこないのです。私だって、近づきたくないほどですっ!」


【幼女A】

「(冷や汗が流れた。やはり地獄はお断りだ。そうと決まれば、小さな体の特権を活かして、なんとか地獄の刑だけは阻止しなくてはいけない。可愛い子ぶる作戦開始だ。)あのねぇ、私天国に憧れていて、地獄よりも天国に行ってみたいのぉ。ダメですかぁ?」


【鬼平勤太郎】

「っ?!」


【幼女A】

「(タバコの煙を顔面に吹き付けられた。気分とあいまって絶望的な臭さだ。)」


【鬼平勤太郎】

「君は地獄がお似合い、ですっ!」


【幼女A】

「私、3歳の時に両親に捨てられ、ずっと生きるために必死でした。悪いことは、たくさんしました。けど、仕方ないことだったんです。だから、天国へ行かせてください。」


【鬼平勤太郎】

「……。」


【幼女A】

「(涙目作戦実行。かなりの効果がありそうだ。)」


【鬼平勤太郎】

「仕方ありませんね。」


【幼女A】

「本当?!」


【鬼平勤太郎】

「なんて言うと思いましたか?」


【幼女A】

「……っ!」


【鬼平勤太郎】

「ひゃははは。犯罪者はみんなそう言って泣きつく。ご存知の通り、――ココ地獄っ! キミ犯罪者っ! オッケイッ?!」


【幼女A】

「(オッケイ。だけど、首を少し傾けて困ったふりを演出中。)」


【鬼平勤太郎】

「血で汚れた君の、犯罪歴を一から読み上げて差し上げましょうかっ?」


【幼女A】

「(ノーサンキュー。もう日本の辛い日々は思い出したくない。)ごめんなさいでした。」


【鬼平勤太郎】

「宜しい。私は鬼の中でもエッリート! そのエッリートの鬼平勤太郎(おにへい・きんたろう)様が君の担当。つまり君は、私の奴隷のようなものですっ。ひゃははは。」


【幼女A】

「(こいつ嫌い。)」


【鬼平勤太郎】

「付け加えておきますが、デーモンマートはデーモングループの社長・鬼衛門(おにえもん)さんが、直接運営しているコンビですっ! 地獄の経済を動かし、芸能事務所『デーモンプロダクション』を運営する超大金持ちの鬼衛門さんに、粗相のないように。3年間、きっちり働いてくださいね。気に入ってもらえるといいですけどね。ひゃははは。」


【幼女A】

「(鬼平が、書類に目を落として、それからゆっくりと顔を上げる。ギョロリとした目がこちらを見ている。)……どうかしましたぁ?」


【鬼平勤太郎】

「君はモノのように使われて、最後は仲間に裏切られ、殺されたみたいです。まぁ同情の価値はありませんが。」


【幼女A】

「(拳に力が入った。爪がてのひらに食い込む。血がじわっと溢れ出す。罪を全てかぶせられたのかもしれない。うまくやっていたつもりだったのに……。全てが急にバカバカしくなってきた。もちろん、涙は流れなかった。こうなったら地獄だろうと、なんだろうと必死で足掻いてやる。)」


【鬼平勤太郎】

「あれあれ、気にさわりましたっ?」


【幼女A】

「いいえ。ひとつだけ、質問をしていいですかぁ?」


【鬼平勤太郎】

「奴隷に質問する権利はありませんっ! ですが、その幼い体に免じて特別に許可します。」


【幼女A】

「ありがとうございます。私、自分の名前が思い出せなくて。名前を教えてください。」


【鬼平勤太郎】

「……?」


【幼女A】

「……っえ?」


【鬼平勤太郎】

「首からぶら下げている名札の文字、読めないのですかっ?」


【幼女A】

「っ……っぁ。」


【鬼平勤太郎】

「君の名前は、地獄に来る、ずっと前からその名前ですっ!」



★場所:コンビニ『デーモンマート』

●時間経過:いつもの昼


【幼女A】

「いらっしゃいませ。」


【緑鬼】

「これをカードで。」


「(またエロ本。にしてもエロ本が飛ぶように売れる。鬼のエロさは半端ない。堂々と昼間っからエロ本を購入する精神には、関心するほどだ。子供の私にこんなものをレジさせるなんて、セクハラ極まりない。おまけに、おっぱいのない私の体まで、女というだけで、舐め回すように見てくる鬼どもに叫びたい。キモい! 性的な目で見てくるな! だが、 満面の笑顔で接客中。なんとか成績を伸ばして地獄の刑を受けずに済まそうと必死なのだ。こんなことで、何かが変わると思ってはいないが、1パーセントでも可能性があるなら、その可能性に賭けるしかないのが現状だろう。)ありがとうございました! またのご来店をお待ちしております!」


◾️音:ピロピロピロピロ~ン。(お客さんが入店する音)


【幼女A】

「いらっしゃいませ。」


【青鬼】

「これをください。」


【幼女A】

「……。」


【青鬼】

「どうかしました?」


【幼女A】

「(初めてエロ本を買わないお客さんと遭遇したのだ。違和感しかない。お客さんの顔を見上げると、なんと爽やかな青鬼イケメンッ! 超がつく美男子っ!)あっ、いいえ。なにも。支払いはカードで宜しいでしょうか?」


【青鬼】

「はい、お願いします。」


【幼女A】

「ありがとうございました! またのご来店をお待ちしております!(青鬼さんがお店から出て行く。)ってお客さん、何か落としましたよ!(落し物を拾った私は、慌てて店内から飛び出た。)あのこれっ、落し物!」


【青鬼】

「わざわざこれを? ありがとう。僕としたことが、うっかりしていました。」


【幼女A】

「(青鬼さんが落としたのは、名刺だった。そこには『探偵事務所・青鬼』と、書かれていた。)あのぉ、探偵さんですかぁ? 素敵なお仕事ですね。」


【青鬼】

「おや? 君は何か悩みを抱えているようだね。顔にそう書いてあるよ。ははは。これは突然失礼なことを言ってしまった。許して欲しい。でも、もし何か困ったことがあれば、なんでも相談してください。君のような可愛い子の相談なら他の仕事をキャンセルしてでも。ぜひ引き受けたい。」


【幼女A】

「あの私って可愛い、ですか? まだ、子供ですけど。」 


【青鬼】

「とても可愛い。人間ってだけですごく、いい匂いがします。美味しそうです。」


【幼女A】

「(褒めてないよね? でも、イケメンに言われると胸がくすぐられてしまうじゃないか。とても気分がいい。)あはは。(気を取り戻して、冷静な対応を心がけるとしよう。)あのぉ本当に悩みを聞いてもらえるんでしょうか? 」


【青鬼】

「いつでも大歓迎だよ。」


【幼女A】

「(救世主登場。この救世主が、使い物になればいいのだが。まぁ落し物をする時点で期待はしていない。が、こちらとしは藁にもすがる気持ちなのだ。そうなると自然と期待も膨らむ。)ありがとうございます。デーモンマートの仕事が終わったら、少し時間をもらえませんか?」


【青鬼】

「それなら、あの角にある喫茶地獄で待ってるよ。」


【幼女A】

「はい!」



★場所:デーモンマート、一階、控え室

●時間経過:労働終了


【鬼衛門】

「君のおかげで、お客さんは急増。本当に嬉しい。人間ってだけで、お客さんが喜んじゃってね。売り上げは6倍。3年働いたら、刑務所へ行っちゃうなんてもったいないな。ずっとうちで働いて欲しいくらいだよ。」


【幼女A】

「(私も地獄の刑を受けるよりも、そうしたいと常日頃願っている。まぁこの三段腹の鬼衛門に、私の心中が分かるはずもない。)」


【鬼衛門】

「でも、ルールばかりは仕方ないですね。ただし、20歳までの間、私のおもちゃになるというなら、話は別。警察にも手回しできます。悪い話じゃないでしょ?」


【幼女A】

「……?」


【鬼衛門】

「言い方を変えましょう。私の性の奴隷になりませんか? そしたら、デーモンプロダクションからデビューもさせてあげますよ。」


【幼女A】

「(馬鹿げた話だが、私自身が置かれている状況をようやく理解したのだった。この世界は、どこにいても腐っているということだ。)あいにくですが、お断りします。私、レジの仕事を気に入っているんです。明日からもレジを担当させてくださいねぇ。」


【鬼衛門】

「あ、そう。気が変わったら、また教えてよ。猶予は3年あるみたいだし。」


【幼女A】

「ありがとうございます!(今の会話で鬼衛門に好奇心が湧いてきた。早速だが、エロ本を売り続けるツマラナイ世界の歯車を、動かしてみるとしよう。)あのぉ、今日は汗をかいたので、汗を流したいのですが、二階のシャワールームを使ってもいいですかぁ?」


【鬼衛門】

「いいよ。自由に使って。それじゃ私は忙しいからこれで。」


【幼女A】

「(子供の上目使いに引っかかったな。)」



★場所:デーモンマート、二階


【幼女A】

「(階段を上がると、デーモンプロダクション所属アイドルのポスターが所狭しと貼られていた。発売前のエロ本も山積みだ。社内秘の付箋が貼られたクリアファイルを見つけて、すばやく中身を確認。非売品アイドルグループの超レアチケット! 鬼衛門の一連の発言を踏まえて、分かったことある。鬼衛門は、所属アイドルを性の奴隷にし、AV女優としてデビューさせているのだ。そしてエロ本を発売し、デーモンマートで独占販売。なるほど、これでエロ本が飛ぶように売れるわけが、ようやく分かった。)」


◾️音:ガチャ。(さらに奥へと進み、シャワールームに入る音)



★場所:喫茶地獄

●時間:夕方


【青鬼】

「なにか飲む?」


【幼女A】

「えっと、地獄茶でお願いします。」


【青鬼】

「当ててみせようか!?」


【幼女A】

「っ?」


【青鬼】

「君の悩み!」


【幼女A】

「っ……っあ。」


【青鬼】

「例えば、デーモンマートの店長・鬼衛門さんに盗撮癖があるとか?」


【幼女A】

「あはは。最後までその推理を聞かせてください。」


【青鬼】

「君の体臭が、さっきと違う。それは仕事終わりに、シャワーを浴びたからだろう。違うかい?」


【幼女A】

「ご想像にお任せします。続けてください。」


【青鬼】

「君は汗を流そうと、シャワールームに入った。でもそこで偶然にも、盗撮用のカメラを発見した。」


【幼女A】

「あはは。(もしあのシャワールームが盗撮されているのだとしたら。鬼衛門をぶん殴ってやりたい気分だ。同時に、疑問が湧いてきた。よく考えろ。コンビニに買い物に来たお客さんと、お茶をすることの方が、奇妙なシチュエーションだ。おまけに、それが奇妙な推理を披露する探偵だ。なんて変な話だ。出来過ぎている、と言ってもいい。となると……。だんだんと分かってきたぞ。)」


【青鬼】

「石鹸と人間の香りが混ざっていい香り。これでちょっとは、僕のことを信用してもらえたかな?」


【幼女A】

「はい。信用できる青鬼さんだと思って、改めて相談したいことがあります。(進むも地獄。戻るも地獄。なら進むしかないだろう。精一杯、この探偵とやらを利用させてもらうよ。)」


【青鬼】

「僕でよければ、どんなことでも相談にのるよ。流石に鬼衛門さんの趣味までは、変えられないけどね。」


【幼女A】

「(私は瞳をウルウルさせて、肩を落とした。雰囲気を変えるように話す。)警察署の鬼平勤太郎ってご存知ですかぁ?」


【青鬼】

「知ってるよ。エリートで有名な刑事さん。出世願望は地獄一ってね。」


【幼女A】

「その鬼平さんの上司ってどんな鬼さんですかぁ?」


【青鬼】

「鬼瓦寅三(おにがわら・とらぞう)さん。確かその人には、鬼平さんでも頭が上がらない、って聞いたことがあるよ。でも、それを知ってどうするの?」


【幼女A】

「……っえっと……。」


【青鬼】

「お遊びはここまでだ。本当は何が知りたい? そろそろ本音で話そうじゃないか。」


【幼女A】

「(なかなかに面白い鬼だ。目の色を変えて、自信満々な態度。それに加え、挑発的な口調。では、こちらも遠回しに言うのはやめて、正面突破を。)青鬼さんは、ONI48の大ファンですよね?」


【青鬼】

「……!」


【幼女A】

「(この青鬼が、デーモンマートでアイドルグループONI48のフルヌード写真集を手に取り、すぐに棚に戻すところを何度見たことか。手に取っては、頬を赤らめていたが、購入はしなかった。エロ本を買う勇気がないヘタレ鬼だ。なのに用意周到。私の前で名刺を落とし、私と接点を持った。つまり、この青鬼の狙いは何か? その答えは、簡単。)」


【幼女A】

「明日は、ONI48のフルヌード写真集2が限定発売される日。」


【青鬼】

「っ……ぬ!」


【幼女A】

「表向きの情報はここまで。誰でも知っていることですから。その先を、欲しているのでしょう?」


【青鬼】

「……っ!」


【幼女A】

「ONI48との乱行パーティ参加券。ファンなら喉から手が出るほどの超レアチケット。私の依頼を受けてくるなら、私から青鬼さんに提示できる報酬は、ONI48のフルヌード写真集2とONI48との乱行パーティ参加券を差し上げましょう。」


【青鬼】

「参ったな。まるで裸にされた気分で、恥ずかしいよ。」


【幼女A】

「子供ですから、なんとなくですよぉ。(にこやかに笑って、商談成立。これで天国行きが近づいたか?! 自慢ではないが、ずっと頼れる大人がいなかったので、観察力と洞察力に、優れている。自分でも驚くほどの才能だ。)」


【青鬼】

「ぜひ、君の依頼内容を教えて欲しい。」


【幼女A】

「ありがとうございます! 素敵な青鬼さん!」



★場所:繁華街

●時間:翌日、早朝


【幼女A】

「(ここはアイドル専門店。これからONI48のフルヌード写真集2が限定発売される。地獄のエロ本は、モザイクなし。フルオープンでエロい。48人の可愛い子の裸が眩しい。しかも限定発売。それをゲットするために行列の先頭に並ぶ私。周囲からドン引きの視線が痛い。が、問題なし。手段は選ばず。行動あるのみなのだ。)」



★場所:繁華街

●時間:昼


【電光掲示板に流れる文字】

『〜明日は日本へのゲートが666年ぶりに開く日〜』


【幼女A】

「(信号で止まった交差点。流れる電光掲示板。これは、神のしわざとしか思えん。なんたる幸運か。いよいよ神まで私を味方するとは。まるで祝福されて日本へ凱旋するようなもの。最終仕上げを前に、勝利の宴を上げたくなるほどだ。)」



★場所:繁華街、路地

●時間:昼


【幼女A】

「(指定された路地裏で青鬼の姿を確認。深くかぶった帽子で変装している。すぐさまONI48のフルヌード写真集2と、ONI48乱行パーティ参加券を差し出して見せた。)」


【青鬼】

「こちらも揃っている。」


【幼女A】

「(ちらっと内容を確認。最高の代物だ。)取引終了だね。」


【青鬼】

「またの依頼を待ってるよ。」


【幼女A】

「結構です。もう必要ありませんから。(超ドエロい青鬼さんと、お会いするのは、これで最後にして頂きたい。切に願うよ。)」



★場所:警察署の入り口付近

●時間:夕方


【幼女A】

「鬼平さん! こんにちは!」


【鬼平勤太郎】

「っ? 君か。」


【幼女A】

「教えてもらいたいことがあって、ずっとお待ちしていましたよ。明日は、日本へのゲートが開く日なんですよね?」


【鬼平勤太郎】

「で?」


【幼女A】

「私があのゲートを通り、日本に帰れるよう手配してもらいたい。と、お願いにあがりました。」


【鬼平勤太郎】

「……呆れて、言葉も見つからん。」


【幼女A】

「(軽くあしらわれたが、想定内。ちょっと鎌をかけてみよう。)鬼瓦さん、ここだけの話ですけど。針山を超えたら、美人の鬼さんが暮らす村があるそうです。もし、私を日本に行かせてくれたら、その村への行き方をお教えしますよぉ。」


【鬼平勤太郎】

「……くだらん。興味ない。」


【幼女A】

「残念ですね。おっぱいが大きくて、くびれのある金髪の鬼さんがたくさん暮らしている村だそうですけど。(ドヤッ! そんな村ないけど!)」


【鬼平勤太郎】

「……ぅぬ。」


【幼女A】

「(うん? 意外と効果あり。所詮は男。)まぁでも地獄の事情もわかります。鬼平さんは、エリート! ですからね。」


【鬼平勤太郎】

「あまり調子に乗るな。」


【幼女A】

「おっぱいパブ。」


【鬼平勤太郎】

「ワッツ!」


【幼女A】

「(すごく食いついてきたので、こちらがびっくりしてしまった。使える武器は全弾使わせてもらいますよ。)おっぱいパブってご存知ですかぁ?」


【鬼平勤太郎】

「……?」


【幼女A】

「とびっきり可愛いピチピチの女の子が、ブラジャーをつけずに、胸を開いたドレスや制服姿で、お酒をついでくれるお店が日本にはあるんです。鬼平さんは、そういうの興味ないですよねぇ。残念だな。一緒に日本に行けばおっぱいパブに案内してあげられるのになぁ〜。」


【鬼平勤太郎】

「!!!」


【幼女A】

「いいですかぁ、想像してください。鬼平さんが、おっぱいパブに入店する。可愛い子が胸を出したまま迎えてくれる。それから、少しお話をしましょう。仕事の辛いことや不満。なんでもいいです。しばらくすると照明が暗くなり、鬼平さんの膝の上に女の子が座り、デープキス。そして、おっぱいを顔面に擦り付けてくれる。行ってみたいと思いませんか? 天国のようなところです。可愛い女の子のおっぱい触り放題。エリートだからと虚勢を張っていては、お疲れになるでしょう。たまにはゆっくり羽を伸ばしてみませんか?」


【鬼平勤太郎】

「私としたことが、……ヨ、ヨダレが。」


【幼女A】

「(本題はここから。これまでは、思考を鈍らせるための目眩し。まぁ思った以上の成果があったので、なにより。すかさず畳み掛け、攻め落とす。)」


【鬼平勤太郎】

「子供がエリートをからかってはいけないよ。私は、出世にしか興味がないのです。」


【幼女A】

「そうですよね! 知ってますよぉ。だからもっと、鬼平さんには出世してもらいたいなって思ってます。」


【鬼平勤太郎】

「君になにができる。私は子供と遊ぶほど、暇じゃないのです!」


【幼女A】

「生まれは地獄の中でも外れの田舎だそうですねぇ。勉強も苦手。だけど、負けん気だけは、鬼一倍。だから、とっても勉強したそうですねぇ。でも二流の学校にしか入れず。そんな鬼平さんは本当の出世コースからは外れ苦戦中。特に上司である、超エリートの鬼瓦寅三さんには、頭が上がらない。」


【鬼平勤太郎】

「それをどこで!」


【幼女A】

「もし鬼平さんが鬼瓦さんの弱みを握ることが出来たら……、どうなると思いますかぁ? 答えは明白です。鬼平さんは、鬼瓦さんより出世する。それだけです。」


【鬼平勤太郎】

「……!!!」


【幼女A】

「(ちょろい。釣れたぞ。日本がまた一歩近づいた。)私の日本行きを約束してくれるのでしたら、鬼平さんが出世する情報を差し上げます。」


【鬼平勤太郎】

「バカを言うな! あのゲートは100名体制で警察官が厳重に見守るなか現れ、誰も通ることなど許されないのだ。」


【幼女A】

「だからこそ、超エリートの鬼瓦さんに活躍して頂くのではありませんか。もとより鬼平さんには期待していませんよ。(青鬼からもらった写真を取り出し、見せつける。写真には、鬼瓦が閻魔大王の孫娘とラブホに入っていく姿がバッチリ。これほどまでの有益な情報が手に入るとは予想外だった。まさに鬼に金棒。無敵の一手である。)」


【鬼平勤太郎】

「鬼瓦さんは既婚者。つまり、その写真があれば、私は必ず超出世できる!」


【幼女A】

「私の日本行きを約束してくれる。それで、宜しいでしょうか?」


【鬼平勤太郎】

「なんとかする。なんとかしてみせる。明日、三途の川に13時に来い!」


【幼女A】

「初めて鬼平さんに出会った時から、鬼平さんのことが、大好きだったんです。(まさか地獄の刑を逃れるどころか、日本へ帰る日がくるなんて。アンビリーバヴォーだ! 自分でも自分が怖くなるほどの圧勝ぶりに、驚きを隠せない。)」



★場所:喫茶地獄

●時間経過:翌日、12時。


【幼女A】

「(優雅だ。地獄で最後のお茶を一杯。あと数時間もすればこの世界とも、さよならだ。しみじみと、お茶を味わっていると、どこからか、叫ぶような声?! なにごとだ!)」


【鬼の強盗犯】

「動くんじゃねぇぞ!」


【幼女A】

「……っほへ?」


【鬼の強盗犯】

「この店の有り金、全部! 全部出せ! さっさとしねぇとこのガキ殺すぞ!」


【幼女A】

「(ふいに強盗犯に、腕を引っ張られる。)」


【鬼の強盗犯】

「そこの鬼じじぃ! 動くなって言ってんだろ!」


◾️音:ガシャーン!(コップが棍棒で割れた音)


【鬼の強盗犯】

「金出せって!」


【幼女A】

「えぇぇん、えぇぇん。(嘘泣き中。)」


【鬼の強盗犯】

「ガキうっせー! ぎゃーぎゃー泣くんじゃねぇ!」


【幼女A】

「(頭を叩かれた。イラッとする。子供をナメると痛い目にあうことを身をもって教えて差し上げなければい。怯えるふりで強盗犯の後ろで、隠れるように泣きながら、キッチンからナイフをゲットする。すかさず飛び上がり、鬼の首元にナイフを突き刺す。緑色の血がすーっと垂れる。)少しでも動いたら、首が取れるかもしれないよぉ。注意してねぇ。」


【鬼の強盗犯】

「なんだよ、このガキ!! イテェェェエエエエエエ!!!!!!」



★場所:市役所、市長室

●時間:12時45分


【市長】

「この度の強盗犯逮捕について、幼女A殿のご活躍は、本当に素晴らしいものでした。市民を代表してお礼を申し上げる。また感謝を込めて、ここに表彰する。」


【幼女A】

「(ゲートに急がなければならないのだ。一刻も早く三途の川に向かわなければ! なのに、何故!!! 表彰式に出席している! 拍手とかいらん!)……わ、わ、私トイレー! 漏れますからー!」



★場所:三途の川沿い


【幼女A】

「(全力疾走。市役所を裏口から抜け出し、わきめもふらずに一所懸命に走った。オォウノォー! せっかくゲートが見えてきたのに、閉まり始めている!)ちょっと待って! 待ってよ! なんでよ! (鬼平がにこやかに微笑み、ゲートが完全に閉まる。)」


【鬼平勤太郎】

「次は666年後です。」


【幼女A】

「(本当に辛くて膝をついて、泣いた。涙は止まらなかった。鬼平が私の頭を撫でてくれた。)」


【鬼平勤太郎】

「君は、地獄がお似合いです。」




—完—



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