タイム・ウポン・ア・ライフ!

ちびまるフォイ

時間がない人は攻撃的になる

「それじゃ給料日なので給料を支給します。確認して下さい」


「……あの社長。なんですかこれは」


「時間だよ」

「お金は?」


「知らないのかい? これからすべての人間に支給されるお金は一定になる。

 その代わりに、君たちの労働はこうして時間という形で払うことになったんだ」


「いやいや! せっかく残業して頑張ったのに!」

「24時間以上の1日を有意義に過ごすことだな」


1日は24時間で十分だ。

欲しいものはたくさんあるのにお金がもらえないなんて。


「はぁ……なんでこんなことになっちゃったんだろ……。

 まあ、お金の差がないのは平等っちゃ平等だけど……」


以前は必死に頑張っているにも関わらず、

昼寝している上司のほうがいい時計をしていることに腹を立てたものだ。


でも、頑張った成果が時間を得られることしかないのは……。


「なにに使えってんだよ……」


時計は0時を回った。

ここから俺が使える24時間以降の「プライベートタイム」になる。


……といっても、やることはないので寝たり、ゲームしたりで潰した。


なんとか使い切ることこそできたものの、

こんなのが毎回続けば地獄だ。


「おや? お兄さん、もしかして使い切れない時間を持っているね?」


「なぜそれを!?」


「私は占い師。この世の理を超えた存在でね。

 この小説のあらすじを読んで事情をなんとなく察したんだよ」


「あのあらすじで内容がわかるなんて!」


「ときに、時間を持て余しているなら仕事をすればいいんじゃないかな?

 実はお兄さんみたいな人はごまんといてね。

 私はそんな迷える労働者に仕事を紹介しているんだよ」


「やばいやつでなければ」

「ただの内職さ」


24時間が終わり、25時に指定の場所にいくと工場が稼働していた。

中にはすでに働いている人もいる。


「ここが内職の工場ですか」


「そうだよ。みんな持っているプライベートタイムはバラバラだからね。

 6時間持っているやつは6時間ここで働いているし、

 2時間しか持っていない人は2時間働く。そのぶんの給料はそれぞれ与えるよ」


「こういうのを待っていたんです!」


仕事は別に楽しいものではない。

それでも無益にダラダラと時間を使い潰すくらいなら

こうして余った時間を工場で労働するほうがまだ生産的な気がした。


「ところで、この工場では何を作っているんですか」


「ブラック校則」

「いらねぇ!!!」


そんなブラック労働を続けていたところ体を壊してしまった。


「過労ですね。働きすぎですよ、何時間働いているんですか」


「えっと、普通のしごとが8時間で……プライベートタイムでの労働が4時間くらい?」


「ちゃんと休んでください。それほどお金に困っているわけじゃないでしょう?」


「休むといったって……何もしていないと、布団に入ったときに罪悪感が出るんですよ!

 ああ、今日も無駄に時間を過ごしたな、って!」


「それはあなたが自分に適した時間の使い方を知らないだけでしょう。

 せっかく追加で時間をもらっているんですから、自分の引き出しを増やしてみては?

 ありあわせのおもちゃだけで悠久の時を過ごせるわけがないでしょう」


「それは……そうかもしれませんけど……」


「とにかく、働いて時間を受け取って、また働くなんて

 ワーカホリックな生活はもう辞めてくださいね」


医者に釘を刺されたこともあり、俺は有り余った時間を使って趣味を始めることにした。

調べてみると以外にもプライベートタイムを共有してなにかをはじめる人は多かった。


いろいろ経験してみて長続きする趣味が見つかると、

今まで「いらない」と思っていた時間が「足りない」と思うようになってきた。


「佐藤くん、最近なんだか仕事をバリバリこなしているそうじゃないか」


「はい! プライベートタイムをためて、趣味のための旅行を計画しているんです!」


「そうかそうか。社長としても社員がやる気を出すのは嬉しいよ。

 ところでどうかな、今日の仕事終わりに飲み会でも……」


「あ、そういうのは時間の無駄なんで」

「……」


プライベートタイムはタイムクレジットカードにまとめて貯蓄しておいた。

たくさん溜まったら時間を使って趣味をめぐる旅行にでもいこうか。


通常の24時間とは違ってプライベートタイムなので混まないし

1年間もプライベートタイムが過ごせればどれだけ幸せか。


「よーーし、頑張るぞーー!!」


やる気を出した矢先、病院から電話がかかってきた。

病室に飛び込むと父親がベッドに寝かされていた。


「そんな……」


「自宅で倒れているところを救急車で緊急搬送されました。

 もってあと数週間でしょう……」


「そんな! まだお別れの言葉も言っていないのに!」


「意識が戻るのかどうかも怪しいです」


「先生、なんとかして治療できないんですか!

 こんないきなり余命数週間と宣告されるなんてあんまりだ!」


「私の腕をもってすれば余命を伸ばすことは可能です。

 しかし、それには多額の治療費が必要になるんですよ」


「働きます!」

「いやしかし……」


「働きまくります!!」


その日から人が変わったように仕事に打ち込むようになった。


「さ、佐藤くん……最近だいぶ仕事がんばっているみたいだけど……大丈夫?」


「大丈夫ですッ」


「どんなに頑張ってもうちからは時間を与えるだけで

 給料は国からの一定額支給ってことはわかってるんだよね……?」


「知ってますッ」


「いくら趣味のための時間確保のためとはいえ、そんなに必死に働くのは……」


「いえ、俺は働くために働いているんです!!!!!!」


「佐藤くんが壊れた……!?」


治療には大金が必要だが、お金を貯めるにはプライベートタイムをお金に変えるしかない。

働きすぎると前にみたいに体を壊してしまうので、時間をお金に変える転売をはじめた。


俺とは逆にお金を使ってでも時間が欲しい人は多いもので希望者は殺到した。


「1年もの時間をこの価格で売ってくれるんですか!?」


「はい。俺には今とにかくお金が必要なんです」


「買います! 買いますとも!! はい、お金をどうぞ!」


「交渉成立ですね。では時間をお渡しします」


相手はタイムクレジットカードを差し出した。

クレジットカード同士を重ねると時間の受け渡しができる。


「では時間を……時間を……あれ……?」

「どうされました?」


「ない! どこにもない! 俺の……俺の時間をためたタイムクレジットカードがないっ!」


「おいふざけんな! 金だけせしめて時間を渡さないつもりか!」

「本当なんです! 一緒に探してください! カードがないんです!」


しこたま殴られて金は没収されてしまった。

すぐにタイムクレジットカードの管理会社に連絡したがときすでに遅し。


『お客様のタイムクレジット残高は(ドルルルル……ジャン!)』



「ゼロォォォ!?」


使い切られた後だった。


「そんな……1年も時間をためたのに……」


警察にも連絡し犯人の捜査を依頼した。

時間残高を使い切られてしまったとはいえ犯人を特定して一発おみまいしなくては収まらない。


「これからどうしよう……」


新しくタイムクレジットカードを発行して時間をため直すことはできる。

1年ものプライベートタイムを貯めるのに必死に通常時間を消費してしまった。


ふたたび同じくらい貯めるのにはどれだけの通常時間を失うことになるのだろう。


いっそ、自分の臓器とか売りさばいたほうが手っ取り早く大金が手に入るんじゃないか。

こういう思考の果てに銀行強盗とか始めるんだろうなと病み始めたときだった。


『すぐに病院へ来てください!』


医者からの一方で病院に向かうと父親が目を覚ましていた。


「親父! 意識が戻ったのか!!」


「ああ……だが、医者から話は聞いているよ。わしはもう長くないんだって?」


「親父……」



「コホン。それなんですが、もう少し大丈夫になりました」


医者の言葉に親子ともども目と耳を疑った。


「先生それはどういうことですか!?

 だって俺、まだ治療費も用意できてないのに!」


「医者とはいえ私も人間ですよ。苦しんでいる人を見て助けたいのは一緒です。

 この超絶ハイパー治療技術で目の前の命を救えるのに、何もしないわけないでしょう」


「先生ありがとうございます! この御礼はいつか必ず!」


「それで先生、わしはあとどれくらい生きられるようになったんじゃ」


「半年くらいですね。私の優れた治療技術により

 余命数週間からこれだけ伸びたんだからすごい奇跡ですよ」


「ありがとう存じます。ありがとう存じます……」

「よかったな親父。これからは残りの時間を大切に過ごそう」


「私もふたりを救えてよかったです」


病室は暖かな空気に包まれた。

人はお互いを助け合うことで生きるのだと心から感じた。


そのとき、警察から電話がかかってきた。


「もしもし? いったいどうしたんですか?」


『あなたは依頼していた時間泥棒を特定できました。

 ヤツの時間使用履歴を見つけて特定できたんですよ!』


「親父が延命できたうえ、犯人も特定できるなんてダブルでハッピーです!

 それで、俺の時間を勝手に泥棒したあげくに使いやがったうんこ野郎は誰なんです!?」





『どうやら、どこかの偽医者です!

 そいつは医者の免許もないのにプライベートタイムを与えて

 治療により命が延びたとかいって大金をふんだくるひどいやつです!』



俺は医者を病院送りにした。

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