あぱっちろんぐ坊将軍
藤屋順一
あぱっちろんぐ坊将軍
ババババババ……!
満ちた月が煌々と輝く江戸の夜空を高速で回転するローターブレードが切り裂く
満月を背に現れたその黒い影は、轟音とともに徐々にその面積を増し、
現れたるは闇夜に溶け込む漆黒の鱗と大きく膨らんだ角を持つ異形の龍
その尾には将軍家に縁あるものであることを示す徳川葵の紋所
響き渡る尋常ならざる音に何事かと驚き悪流怪団の下っ端共が表へ飛び出した瞬間、異形の龍が持つ暗視センサーの瞳がその姿を捉える
ブォォォォォ……!
闇夜を貫く咆哮、火を噴く砲口、秒間十発を超える速度で吐き出される30mmの弾丸が悪党の一団を一瞬の内に血飛沫と化す
「ぐぬぬ…… 何者だ!? 者共、出会え!」
異常に気づいた悪流怪団の首魁、
「その悪事、世間の目は見逃そうとも、お天道様とロングボウレーダーの目は見逃さんぞ!」
ヒュン!
カラーン……
鋭い風切音とともに『正義』と揮毫された扇子が瓶螺鈿の右手を強かに打ち、匕首が地面に転がる
「うぐっ…… 貴様は……!?」
それと同時に廃寺の境内の上空にぴたりと静止した龍の腹から蜘蛛の糸が如く一条の縄が垂らされ、スルスルと懸垂降下にて一人の男が地面に降り立つ
「シンさん!? 助けに来てくれたのね!」
その顔を確認した娘は喜びの声を上げ、隙をついて瓶螺鈿の腕から逃れて男に駆け寄り身を隠す
「瓶螺鈿! 余の顔、よもや忘れたとは言わんだろうな!」
「はっ? まさか…… 上様!?」
「指導者の立場にありながらその地位を利用し、か弱き女子供を拐かすだけでなく、あまつさえ騙し、脅し、暴力を以て支配して江戸の火付けの下手人に仕立て上げるなど言語道断! その罪、万死に値する!」
「ええい!このような怪しげな男が上様のはずがない! 此奴は上様を騙る不届き者じゃ! 切れ! 切れ !」
「はっ!」「はっ!」「はっ!」
剣を構え取り囲む手下どもを前に男は袖から腕を抜いて肩をはだけ、剣を抜いて縦に構え、周囲に睨みを利かす
その男、徳川八代将軍吉宗、またの名を『あぱっちろんぐ坊将軍』
そして、吉宗が刃を返すカチャリという乾いた金属音とともに死闘が始まる
一人目、大上段から振り下ろされる剣に刀身を打ち込み体制を崩させてから袈裟斬りに切り伏せ
二人目、袈裟斬りの勢いを残したまま振り向きざまの逆胴の一閃にて崩れ落ちる
三人目、匕首を構える瓶螺鈿ににじり寄る吉宗に斬りかかる右側面の男と二度剣を打ち合い、鎬を削り、押し返すと同時に脳天から両断
四人目、三人目と鎬を削る吉宗の背後から襲いかかる所を寸前で躱し、返り討ちに切り捨てる
「おのれー!」
瓶螺鈿が隙を伺い匕首で襲いかかるもその凶刃はいとも容易くいなされ、体勢を崩した瓶螺鈿が地面に転がる
「成敗!」
吉宗の声が夜空に玲瓏と響くと、刹那、30mmの弾丸が瓶螺鈿の眉間を撃ち抜く
それを見届けた吉宗は剣を一振りしてからするりと鞘に収め、キンと高く鳴り響く音とともに事件は終了した
その後首魁を失った悪流怪団は力を失い、その隠れ家が次々と摘発され、捕われていた町人たちも無事に開放されていった
それからは頻発していた同時多発火付け事件も起こることはなくなり、江戸に平和が取り戻されたという
あぱっちろんぐ坊将軍 藤屋順一 @TouyaJunichi
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