第12話 私ギリソン、事件の背後にいるの
異端者狩りを一人ずつ簡易結界から引きずり出す。
「はい、大人しくしてようねー」
収納魔法から取り出した墨と筆で異端者狩りの額に鳥の足跡に似たマークを描き、背中を蹴り飛ばして数歩歩かせる。
すると、異端者狩りは糸が切れたからくり人形のようにその場に倒れ込んで意識を失った。
「はい、次の方」
鉤杖をくるりと回して異端者狩りの首に引っ掛け、簡易結界から引きずり出し、先ほどと同じ処理を施す。
反撃の機会を狙っている異端者狩りもいたが、作業を続けるカナエの真横に攻城魔法でお手玉を始める危ない少女がいるため迂闊に手が出せないでいる。
「それにしても、いろいろと面倒なことになっておるのじゃな」
「それなー」
異端者狩りたちに口を割らせた結果、いくつかの情報が手に入った。
「まさか、貴様が禁書庫の主だったとは――ぐえっ」
「黙ってようなぁ」
口を挟んできた異端者狩りの首を鉤杖の角度を変えて巧みに締め上げる。
そう、異端者狩りたちはカナエとセキを禁書庫の関係者として襲ったわけではなかった。
カナエが町で商業ギルドに提出した調査書を見た教会関係者が指示したものらしい。
「そんなに教会が魔物の異変の中心にあるってことを知られたくないんだな」
「これはいわゆる暗殺じゃろ? 冒険者としてこれからも活動して良いものか、悩むのじゃ」
「こいつらを送り返して、俺たちが大人しくしていれば大丈夫だろ。敵対しないって意思表示になるしな」
「敵対せんのか?」
「今はな。それに、また襲いに来てもそれはそれで構わない。今までの任務内容を情報提供してもらってキャッチ&リリースだ。経験豊富な奴をどんどん送ってもらえればうれしいな。敵はただの冒険者だと思って舐めてるみたいだし」
にやり、と悪い笑みを浮かべるカナエは、最後の異端者狩りに魔法を施し、収納魔法から水筒を取り出した。
「何をするのじゃ?」
「このままだと、額のしるしで魔法を使ったのがばれるからな。消しておくんだ」
カナエは異端者狩りの額に書いた印を濡らした布でふき取り始める。
「後始末が面倒な魔法なのじゃ」
「まぁな。ちなみに、頭の高さを保ったまま三歩後ろに下がると記憶が戻るんだ。まぁ、そんな動きをする機会はなかなかないと思うが」
「完璧に消すわけではないのじゃな」
後始末を終えたカナエは、セキと共に異端者狩りたちのそばを離れた。
セキが背後を振り返り、カナエの服を摘まむ。
「のぅ、この森は魔物が大量発生しておるのに、意識のない連中を放置して良いのか?」
「別にいいんじゃないか? 全滅するまで意識が戻らないってことはないだろう」
そもそも自分を襲ってきた相手の安否なんてどうでもいい、とカナエは肩をすくめた。
「とりあえず、情報を整理しよう。まず、俺たちはこの森の異変に廃教会が絡んでいると気付いたから暗殺されかけた」
「町のギリソン教会から派遣されたと言うておったな。報告書の削除要請は教会からのモノだとも確定したのじゃ」
「町ぐるみで隠ぺいしているわけじゃなくて、あくまでも教会の、もっと言えばギリソン教会の独断だな」
町中で襲われなかったのも教会の単独犯だからだ。
ギリソン教会は廃教会絡みで何かを隠しているとみて、質問もしたが、異端者狩りたちは詳しい事情を知らなかった。
無理もない。対象を殺すのが仕事なのだから、殺す理由は教える意味がないとの判断だろう。口を割らされる可能性も考えればデメリットにしかない。
セキが木に擬態していた魔物を魔法で狙撃する。魔物だけでなく周辺の草木が吹き飛んだが、許容範囲だろう。
「ギリソン教会は何を隠しておるのじゃろうな?」
魔物の死骸の横を素通りして、セキが首をかしげる。
カナエは周囲を警戒しながら、口を開いた。
「廃教会を中心に魔物が増え、強力になっているこの状況を隠しておきたいギリソン教会。さて、質問だ。魔物が増えるとどうなる?」
「ふむ、氾濫が起こるのじゃ」
「起こるとどうなる?」
「村や町が滅ぶのじゃ」
「つまり怪我人が増えるな」
「……カナエ、何が言いたいのじゃ?」
「ギリソン教会の権能魔法は治癒効果だ」
「衆目のあるところで口にすると袋叩きにされるのじゃ」
「そうだな。商業ギルドでさえ、口をつぐむように冒険者へ要請しないといけないくらいにな」
ギリソン教会が意図的に魔物を増やし、怪我人を増やし、自らの権能魔法で商売を行っている。そんなマッチポンプの可能性を示唆するカナエだったが、状況証拠しかない。
「だが、八十年前に起きた魔物の大氾濫で快癒の神ギリソンの教会が大きく成長したのは確かだ。バーズ国内にもギリソン派なんて呼ばれる貴族の一派がある」
「キナ臭い話なのじゃ。して、どう証明する?」
「そこだ。あれこれと考えを巡らせてはいるが、廃教会と魔物については関係が見えない。廃教会が魔力溜まりになっているのも不思議だ。本来、教会は魔物に襲われない場所に建てるから、魔力溜まりになったのは教会が建った後だと思う」
まだ情報が不足している、とカナエは見落としがないか振り返る。
すると、考え込んでいたセキがポツリとつぶやいた。
「……ガラガナガラのエンブレム」
「……何者かに破壊されていた奴か」
「それに、神の在処じゃ」
禁書庫を燃やした異端者狩りが口にしていた単語が廃教会と繋がり、カナエもまた考え込んだ。
「神の在処を知っているか、だな。知らないが」
「我は知っている」
「なに?」
「気がするのじゃがなぁ」
途端にあやふやになったセキの言葉に、カナエは大げさに脱力した。
セキが誤魔化すように笑う。
「カナエに問うくらいなのじゃから本にまつわる何かじゃろ」
「妥当な解釈だが、それだけでは何もわからないのと一緒だ。聖典の類だと題名も分からないモノがある」
「カナエにも知らない本があるのじゃな」
「だから人生は楽しいんだ」
「意見の分かれるところじゃ」
考察なのか相談なのか雑談なのか。
話しながらも二人は道中の魔物をサクサク処理していく。それは雑草抜きにも似た大雑把な作業感にあふれる虐殺風景であった。
鎧袖一触に蹴散らしていく二人だったが、異端者狩りの尋問等で時間を取られたためか、他の冒険者との合流地点である廃教会に着いたのは最後だった。
「お、帰ってきたな」
「遅いから探しに行こうかって話していたところだ。怪我はないか?」
心配してくる冒険者たちにカナエは両手を挙げて、セキはくるりと一回転して、怪我がないことを証明する。
「死者はなし。上等だ。お前ら、町に引き上げるぞ」
副ギルド長が作戦の終了を告げ、冒険者たちはぞろぞろと帰路につく。
最後尾を歩くカナエたちは、森を出た直後に医療団からじろりと睨まれた。
「おぉ、怖いねぇ」
「声が笑っとるぞ」
セキにひじ打ちを決められて、カナエは笑いをかみ殺した。
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