第3話

 学生が行き交って騒がしかったのが、少しずつ静かになっていく。大学近くの町というのは、当たり前なのだけど、同年代の若者がやたら多くて歩いていてなんだか疲れる。二、三人で並んで歩く学生とすれ違うときなどには、なぜか冷や汗をかいてしまう。僕だけだろうか?

 僕にはどうも、こういうところがある。

 人が嫌いなわけではなく、怖いのとも違う。実際一人でいる時間が長いと、誰かに会いたくて仕方がなくなる。たぶん、その頻度は人よりも多いと思う。僕という人間は寂しがり屋のくせに、人が少し苦手で、一人でいたいときにはまったく他人というやつが煩わしくて仕方がなくなったりするのだ。

 人間として未熟なのだと思う。

 こんな僕と、ユウキなどはよく付き合っていられるな。他の友人にしても、僕は僕のようなやつと友達になりたいかと言われれば全然なりたくないのだけど、よくもまあ仲良くしてくれるものだ。自分が嫌いなわけではないけれど、やっぱりどうしても好きにもなれない。自分という人間に自信が持てない。

 僕は自分の欠点を正確に、いくらでもあげつらうことができるわりに、美点がなにかと問われればうむうと黙り込んでしまう。

 ユウキに一度、僕の何がいいのかとメンヘラみたいな質問を投げてみたことがある。そのとき彼女は、優しいだとかおおらかだとか、他にもいくつかの褒め言葉を言ってくれたし、たぶん彼女はそれを本気で言ってくれていたんだと思うのだけれど、僕にはそのどれもがピンとこない。

 大学三年生の冬といえば、意識の高い学生はもう就職活動の準備をし始めるころだ。ユウキなどは学校の主催するガイダンスに出席したり、自己分析や企業調査を始めたりなにかと余念がない。

 それに対して僕というやつはまだ何もしていない。そろそろ僕も何かしなければなあと思いながら、何もしていない。聞いてみれば花島も同じような感じらしいし、じゃあ僕も、という堕落した考えでなんとなくだらだらしている。

 ああまったく、こんなことで本当に僕は社会人というやつになれるのだろうか?

 考えてみれば、僕ももう21歳なのである。21歳! なんてことだろう。子どもの頃に見た21歳というのは、それはもう立派な大人だった。自立した人格だった。

 けれども、今の僕といったらなんだろう? アルバイトもせず、親からの他より少し多めの仕送りだけでなんとかやりくりする日々である。学生とは名ばかり、実のある勉強なんてしておらず、出席しなければいけない授業にだけ出て、出さなければならない課題を提出する。そのルーチンである。

 考え込んで歩いていると、昨夜、ぼろぼろの男と出会った公園を通りがかった。子どもも遊んでおらず、あの男もいなかった。がらんとした公園で錆びついたブランコだけが風に揺れている。

 僕はため息をついた。

 こんなことを考えていても仕方がない。

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ホロウナイト ペキニーズ @asahi-tuki9715

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