白夜

作者 ペキニーズ

6

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★★★ Excellent!!!

煙草を好む理由は単純です。
まず味が好きになる。香ばしくて、銘柄によって辛かったり甘かったり、煙が濃かったり薄かったり。

お酒に星の数ほどの種類があるのと同じで、煙草にもそれぞれの良さがあり、本来ならばそのどれもを試して違いを楽しむべきだ。

しかし多くの人は、煙草はニコチンを摂取する道具と見なすし、酒はアルコールでハイになるための道具として扱い出す。

煙を吐き出し、軽やかに消えてゆくそれを眺めている間だけは、あらゆる喧騒から開放され、僕は一人になれる。

目を開けながらにして夢を見ているような、心地よい閉塞感。
それは現実逃避なのか、ただぼうっとしているだけなのか。

「長期的な自殺」とはまさしく僕が煙草に手を出した理由で、まあきっかけは好きな人が喫煙者だったからなんですけど、その恋が潰えたあとも吸い続けたのは、思い出を反芻するため、そして出来るだけ早く死ぬためだった。

人は誰しも死にたがりの蝉を飼い慣らしていて、そいつはずっと鳴き続けている。
でも夏の盛りに聞こえるその声は、あまりにも長く聞いていると気にならなくなってくる。

だから僕らは、そいつがどれだけ大きな声で叫んでいても、日常に溶け込んだBGMとなって認識の外に放り出される。

そして時々、静かな部屋で己の掌を見つめている時なんかに、ふと気づく。
あれほどやかましかった声が、今だけは鳴り止んでいる事に。

人は死にたがりの蝉と同時に、生きたがりの蝶も飼っている。
前者と違い、それは音を発さず、耳を澄ましても微かな羽の音が小さく響くだけだ。

その声に耳を澄ましていると、考えてしまう。
あの蝉の鳴き声は、うるさいけれど心地よい、邪魔くさいけれど消えてほしくない存在なのだと。

物語の世界に没頭していると、己の鼓動すら邪魔になる。彼女もきっと、読書中に現れる男どもを鬱陶しく思っているだろうし、こんな世界より… 続きを読む