中学からの友人が勇者な話

kentoさん

第1話 友人が勇者な話



俺には中学からの友人がいる。

高い身長に輝く金髪、体格もよく何より誰もが認めるイケメンなそいつは俺達が中学に上がる頃この街にやってきた。

お世辞にもこの街は都会とは言えないから、中学に上がった所で同級生の顔波はさほど変わらないのが普通だったのも相まって、そいつは余計に注目を浴びていた。

ただ、見た目から察せる通り明らかに純日本人じゃ無いので最初の頃は日本語がたどたどしく、同じクラスかつ隣の席になってしまった俺が世話係に任命され、次第に話すようになり仲良くなった。

そいつに告白したい女子やら、逆にそれを妬む男子やらの騒動は多々ありつつも無事に1年と半年ちょいを終え、いよいよ高校生受験がうっすらと見え始め修学旅行の日に俺達の関係に転機が訪れた。



「お、お前何なんだよ!?」



修学旅行2日目の夜、夜のビーチに尻餅をついた俺の情けない悲鳴とも呼べる叫び声が響いた。

そしてそれを聞いているのは、背中に『輝く剣』を背負い、頭の上に『得体の知れない獣』を乗せ、『巨大ダコの化け物』の死体の前に平然と佇む友人....白神 雷斗(しらかみ らいと)だった。



「おい、ライト!どうするんだ!せっかく誤魔化してきたのに、これじゃ全部パァだぞ!」


「だって仕方ないだろ。これを無視する訳にはいかないし....。えっと、大丈夫?」



雷斗は未だ尻餅をついている俺を気遣ったのか、近づいて手を差し伸べてくれたが、俺は混乱しているのもあって後ずさることしか出来なかった。

そんな俺を見て、雷斗は少し悲しい顔をした後背負っていた剣とタコ怪物の死体を指パッチンで消し、またこっちに向き直った。



「あのね、驚かないで聞いて欲しいんだけどさ....。僕、異世界で勇者やってたんだ。」



このカミングアウトは後に俺....杉山 陽影(すぎやま ひかげ)の人生を明らかに180度回転させ、挙句には異世界問題に俺を巻き込む事になる。




――――



「なんて劇的な出会いがあったのにさ、当の勇者様はゲームにご執心か。」


「だって面白いから....あっ!ミーシャずるいぞ!」


「ふふん!これは10時間かけて練習したテクニックだ!そう簡単に負かせると思うなよ!」



俺がいい感じで1年前の回想している後ろで、異世界を救った勇者ライトとその相棒である大精霊ミーシャは、最近発売された最新ゲームの対戦モードで遊んでいる。

ライトは数年前、魔王の支配に包まれた異世界を救うためミーシャと共に戦い、見事に世界を救った。

そしてここからがラノベ展開、勇者に倒された魔王は最後の嫌がらせとして次元に穴を開けてライトを世界の狭間に落とた。

ミーシャのおかげで、狭間を彷徨い続ける自体は避けたライトだったが、元の世界に戻ることは叶わず気がつくと俺達の街にいたらしい。

そしてその後は、帰り道に当てがなかったらしくお得意の魔法と精霊の力とかで戸籍云々を誤魔化しながらこの世界に順応し、中学に入学して来たのが事の始まりだった。



「あのさ、そのゲーム機俺のなんだけど。それに、精霊の力って電子機器に近づくと弱まるんだろ?」


「心配は無用!大精霊ともなれば、例え科学の力がそばにあれど会話くらいなら維持できる!あと、ゲームしたいなら3人でやるか?」


「そーじゃなくてー!ほら、ライトからも何か言えって!流石に、ゲーム廃人と化した大精霊とか威厳ないから!」


「む、確かに一理あるかな。ミーシャ、ゲームは一日一時間だぞ?」



的外れな注意をするライトに思わず拳を振りたくなるが、殴った所で推定レベル100の勇者様にレベル1の村人の一撃は蚊に血を吸われるより効かないだろう。

怒る事を諦めた俺は、スマホに目を落としてSNSで普段通り検索をかける。

実は、魔王の嫌がらせはライト以外にもこの世界全体に影響をもたらせた。

世界間に開いた穴を伝って、主に魔物がこの世界のこの街にやって来てしまったらしく、俺が初めて見た魔物でもある巨大ダコは、この街から運良く逃げ出してしまった魔物らしい。



「ん?ヒカゲ、また調べ物か?」


「そうだよ。いくら魔物も電子機器でこの世界の生き物並に弱体するからって、いつ巨大ダコみたいな怪物が現れるか分からないし。」


「あれは私のミスだが、確かに無いとも言えないな....。なぁ、ライトもいい加減スマホ買ったらどうだ?」


「えー、スマホ持ってると力が抜ける感じがするんだよ。たまに持つくらいなら大丈夫だけど、みんなみたいに普段ずっと持ってるのは流石に....。」



ライトが扱う魔法とかは、何故か電子機器が近付くと殆ど意味をなさなくなってしまい、アンデットを一撃で葬る光魔法は100円ショップのライトの光並みにまで弱くなってしまう。

そのせいか、ライトは腕時計を1日付け続けるだけでも次の日には風邪を引く。

だから、ゲームをやらせるのもあまりよろしくは無いはずなのに、そこは意地でも譲れないのか体調が悪くなってくるとポーションを作り始めるのが習慣になっている。



「ほんとに不便な体質だよなぁ....って、見ろこれ!」




俺が大声で叫んでスマホの画面を2人に向けると、それをミーシャが読み上げた。



「なになに....夜の公園に3つの首をもつ犬が出現だと!」


「あー、アンデットドッグだね。アンデットは基本夜しか活動出来ないから、今日の夜向かおうか。」



俺がエゴサし魔物の情報を集め、ヒットするとライトが出動してその魔物を討伐するのが最近出来た流れだ。



「アンデット...アニメとかと違って、見た目が結構リアルだから苦手なんだよなぁ....。」



俺はそうボヤくが、長年戦って来たゲーム中の2人には響かないらしく同意の返事は挙がらなかった。

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