さかさかな
貝鳴みづす
さかさかな(完結)
どっちが さかさ?
あなたが さかさ?
わたしが さかさ?
さかさの さかさは さかさかな?
ゆるやかな みずの ながれ、
あたたかな はるの ひざし。
やさしい せかいの なかで、
かわに すむ さかなたちも、
とても たのしそうに およいでいます。
ふつうの さかな、 ほそながい さかな、
ちいさな さかな、 おおきな さかな、
おびれの ながい、 キレイな さかな、
すなや いわと、 おなじいろの さかな。
かわの なかには、
たくさんの さかなたちが、 しあわせに くらしていました。
あるとき かわの さかなたちは、
とても ふしぎな さかなに であいました。
どんな さかなって?
それは みんなと かわらない。 ふつうの さかな。
でもね、 ほんとうに ふしぎな さかな だったのです。
ゆらゆらと ながれる かわの なかを、
その さかなは、 みんなとは さかさに およいでいます。
「ぼくらとは さかさの ところへ、 いくのかな?」
はじめ、 さかなたちは そう おもっていました。
けれど、 さかさに およぐ その さかなは、
みんなと おなじ ところへ すすんでいくのです。
さかなたちは、 おどろきました。
さかさに およぐ さかなは、 さかさに すすんでいる はずなのに、
みんなと おなじ ところへ すすむのです。
「きみは、 どうして さかさに およいでいるんだい?」
ふしぎに おもった さかなが、 さかさの さかなに ききました。
「さかさに なんて、 およいでないよ。」
さかさの さかなは そう こたえます。
そして、 ふしぎそうに いうのです。
「あなたたちが、 さかさに およいでるんじゃないの?」
それを きいた さかなたちは、 とても おどろきました。
「ふつう、 およぐときは すすむほうを みる ものだろう?
きみは さかさを みてるじゃないか。」
「なにを いってるの?
あなたたちが さかさを みてるんだよ。
ぼくの おとうさんも おかあさんも、 そんな およぎかたしない。
ぼくは、 ちゃんと およいでるよ。」
さかさの さかなは、 ゆらゆらと おびれを ゆらしながら、 いいます。
さかなたちは さかさの さかなの そのはなしに、 おもわず わらいだしました。
「こんな おかしな さかな、 はじめて みたよ。」
「さかさに およぐ かわから きたのかな?」
「ぼうや、 いえに おかえりなさいな。」
みんなは さかさの さかなを、 わらいものにします。
「ぼくは さかさになんて、 およいでないのに・・・・。」
かわいそうに・・・。
さかさの さかなは、 かなしそうに ずっとひとりで およぎました。
くにと くにの あいだにながれる、 おおきな かわがあります。
そこにすむ いきものたちは、わるい まじょに、
”さかさの まほう”を かけられていると ゆうめいです。
ふつうに およいでいるつもりでも、
じっさいは、 さかさに およいでしまっているのです。
そのかわの さかなたちは、 みんな さかさに およぐのです。
「あれ、 みてみて! あの さかな!!」
ちいさな おんなのこが、 かわの さかなを ゆびさして なにか いっています。
「ふつうに およいでるよ! いっぴきだけ、 さかさに およいでないよ!」
おんなのこが いうとおり、 さかさの かわに いっぴきだけ、
ふつうに およぐ さかながいました。
「あら、 ホント。 きっと ほかの かわから きたのね。」
おんなのこの おかあさんが、 さかさに およがない さかなをみて、
めずらしそうに そういいました。
「ぼくは さかさになんて、 およいでないのに・・・・。」
さかさの さかなは、 さかさでは なかったのです。
さかさだったのは、 やはり ほかの さかなたちだったのです。
「ぼくは さかさなのかな?」
ですが、 なんとあわれなことでしょう。
「ぼくは さかさの さかななんだ・・・。」
さかさの さかなといわれた ふつうのさかなは、
さかさの さかなたちに、 さかさの さかなと いわれつづけることになるのです・・・。
どっちが さかさ?
あなたが さかさ?
わたしが さかさ?
さかさの さかさは さかさかな?
さかさかな 貝鳴みづす @mizusu
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