幽霊と私
雨世界
1 こんにちは。幽霊さん。
幽霊と私
プロローグ
こんにちは。幽霊さん。
本編
大丈夫。ほら、怖くないよ。
暗い闇の中、光さす場所で。
私が目をさますと、そこには一人の小さな幽霊がいた。
真っ暗な世界の中でぶるぶると震えて、一人でうずくまって泣いている、小さな幽霊がいた。
私は、そんな幽霊の泣いている姿を光の中から見つめていた。
世界は真っ暗だったけど、なぜか私の目覚めた場所にだけは、天上からまるで溢れるように、光が差し込んでいたから、私はその光の中で体を起こして、真っ暗闇の中にいる幽霊のことをじっと見ていた。
「あなたはどうして泣いているの?」私は言った。
その幽霊はあまりにも、悲しそうに、あまりにもか弱く、ずっと泣き続けていたから、私はどうしてもその幽霊に声をかけることを、止めることはできなかった。(本当は、きっとこんな場所で、幽霊に声をかけたりしてはいけないのだろうけど……)
すると、その幽霊はなにも言葉をしゃべらずに、ただその顔を小さく横に二回だけ動かした。(それがなにを意味している合図なのか。それを私は理解することができなかった)
「こっちに来ない? ほら、なにもないけど、そんな真っ暗なところにいるよりは、こっちの光の中にいるほうがきっと安心できるよ?」と幽霊を安心させるようににっこりと笑いながら私は言った。
すると幽霊は私の言葉の意味がちゃんと理解できたのか、顔を上げて、私の顔をじっと見つめた。
幽霊は真っ赤な目をしていた。(きっと、ずっと泣いていたのだろう。……かわいそうに)
その幽霊の顔は、なんだかどこかで見たことがあるような気がした。(でも、暗くてよく幽霊の顔は見えなくて、誰の顔なのか、それをはっきりと思い出すことはできなかった)
「ほら。こっちにおいでよ」
私は言った。
にっこりと笑って、幽霊に手を差し伸べてそう言った。
幽霊はゆっくりと座っていた闇の中で、立ち上がると、ふらふらとした足取りで(きっと何日もきちんとした食事をしていないのだろう)光の中にいる私のところ向かって歩き始めた。
「うん。そうだよ。一人よりは二人のほうがずっといいよ」私は言った。
私は、その真っ暗闇の中で泣いている幽霊と友達になりたいっと思った。
小さな幽霊さんと友達になって、この今、二人のいる不思議な世界のことについて、ゆっくりと話がしたいと思っていた。
もし仮に、私が話しかけた幽霊が本当は悪い幽霊で、泣いていたのも、震えていたのも、私を食べるための演技だったとしても、別にいいと思った。(そのときは、そのときでしょうがないと思った)
「ほら。こっちにおいで」
私は言った。
笑顔で、小さな幽霊にそう言った。
すると小さな幽霊は本当に嬉しそうな顔をして、にっこりと私の顔を見て笑うと、両手を伸ばして、私の体に思いっきり抱きつこうとするようにして、私のいる光の中にまで、その体を入れた。
もっとよくその顔を見せて。
あなたはいったいどんな顔をしているの?
私がそんなことを思いながら、幽霊と同じように両手を出して、私に抱きつこうとしている小さな幽霊の体をぎゅっと、(安心できるように)抱きしめてあげたい、と思っていると、その光の中で、小さな幽霊の体は、まるで闇が光に浄化されるようにして、一瞬で灰になるようにして、私の眼の前で、……消えてしまった。
……私の伸ばした両手は空を切った。
幽霊は光の中で消えてしまった。
そして私は、幽霊がこの世界から消えてしまったことについて、その事実があまりにも悲しくて、その光の中で、ぎゅっと自分の体を自分で抱きしめるようにして、丸くなって、泣いた。
泣いて、泣いて、泣き続けた。
でも、消えてしまった幽霊が私の元にもう一度、その姿をあらわすことは、二度となかった。
その名前もない幽霊に、私はもう一度会いたいと、思った。
あって、その子に名前をつけてあげたいと、……そう思った。
幽霊と私 終わり
幽霊と私 雨世界 @amesekai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます