第二十一話 火曜日 闇の刻 〜眠りのなかで…

 今日の日記は、けっこう書くこと多い。


 まず、アヤカシ討伐司令室ができたこと!

 なぜかぼくがリーダだけど。

 でも、大きく進んだ日だ!


 そこから、祠にみんなで行ったこと。

 すごく怖かったけど、橘と冴鬼がずっとついててくれた。

 すごく心強かった。

 ただ気になるのは、たくさんの猫たち。

 冴鬼は大興奮だったけど、それだけですましていいのかな?

 橘も外に猫を放すのはちょっとおかしいっていってたし。


 冴鬼と夕飯を食べたて、みんなで人生ゲームをした!

 久しぶりに笑った気がした。

 すごい、楽しかった。

 この日がつづくように、がんばらないと。


 あと、公園での姉弟のこと。

 帰れたのかな?

 ぼくはあのシャボン玉がどこに運ばれたのかはわからない。

 冴鬼は『少しだけ遠い』っていってたけど、その少しってどのくらいなんだろう……

 ぼくもあんなシャボン玉になれるんだろうか。

 月の光に運ばれていくのが、とてもきれいだった。



 最後に。

 明日の、呪いのこと───



「明日は、新兄の左腕も呪われる。橘先輩は両足と右腕……。明日はなるだけ明るいうちに祠へ行って、解決策を探さないと……」


 冴鬼が兄に触れたことで、呪いがすこし薄まっていたのは確かだ。

 帰り際、冴鬼に理由をきいたら、


「わしには、祓う力があるからな!……しかし薄まる程度とは、よほどに厄介だ」


 いつも笑顔の冴鬼の顔がくもっていた。

 冴鬼もこれほどだとはおもってなかったってこと。


「いったい誰なんだろ……理由もききたい。どうして、兄と橘先輩なのか……」


 共通項があるだろうかと考えてみたけど、クラスも違う。

 ……でも実はなにかあったり!?


「なわけ……っ! ……あー、うるさいな……!」


 おもわず耳をふさぐけど、その声は直接鼓膜をふるわせる。


 女の唄声だ。


 なんといっているかなんて、ぜんぜんわからない。

 だけど、骨が冷えるくらいに、おぞましいことだけはわかる。


「昨日よりも声が大きいのに、言葉がききとれない……意味がわかんないよ」


 ぼくは息をついて、ベッドに転がった。


「寝る前なんだ。楽しいことだけ、考えよ」


 あらためて布団にもぐりなおし、ぐるりと毛布で顔をおおう。

 音の大きさはかわらないけど、気持ちはすこしやわらいだ。



 冴鬼と橘とまた明日、探検するんだ───



 そう思うと、しっかりしないとと思う反面、口元がゆるんでくる。

 なんか、久しぶりに楽しかった。

 楽しんじゃいけないとも思ってる。

 でも、それがぼくのやる気になっているのはまちがいないから。


「あしたこそ、解決しないと……」


 女の声が怖いのに、3つ、呼吸をしおえたとき、ぼくの意識はもうたもててはいなかった。




 ───大きなくすのきだ。


 祖父母の家の近くの楠。

 この帝天地区は古木が多い。

 木の樹齢は土地の歴史の長さに比例しているといわれていて、大きくそびえる杉や松も多い。

 ただ土地開発の関係で、それらの木は年々へっている。

 ぼくは、祖父母の家の近くの、その楠が大好きだった。


 理由は、どうしてだっただろう……


 でも、両親に楠の下までいきたいとお願いしたし、ダダをこねたこともあったと思う。

 自転車が乗れるようになってからは、それこそ週に何度も通っていた気がする。


 ただいつからか、近づいちゃいけないっていわれた。

 絶対ダメ、と。


『ダメといったらダメなんだ、凌。わかってくれ』


 祖父の声だ。

 やさしいけれど、きびしい声。

 それでもぼくはひっしに叫ぶ。


 行きたい!

 約束があるから!


『お前は、……にせられてしまったからダメだ!』



 ───約束……?

 ……みせられた……?



 ぼくは夢のなかの祖父にききかえす。

 ききかえしたけど、唇がひらかない。

 出したい声が、声にならない。



 ただ、ぼくの心のなかで、ざわざわと守れなかった約束があることが、くやしくて、かなしくて、つらくて……



 ただ、泣くしか、できなかった。

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