第十五話 火曜日 夕の刻・伍 ~呪いの条件とは?

 ノートを開くと、すかさず橘がのぞきこむ。


「あ、時系列だ……へぇ……」



◆呪いの流れ◆

日曜日の夕方 兄【呪】

月曜日 新兄(両足)+ 橘先輩【呪】

火曜日 新兄(両足右腕)+ 橘先輩(両足)

水曜日 新兄(両足両腕)+ 橘先輩(両足右腕)

木曜日 新兄(両足両腕体)+ 橘先輩(両足両腕)

金曜日 新兄(両足両腕体頭)+ 橘先輩(両足両腕体)

土曜日 新兄(両足両腕体頭首)+ 橘先輩(両足両腕体頭)

日曜日 新兄(×)+ 橘先輩(両足両腕体頭首)



◆わかったこと◆

・呪いが複数人いること(どうして増えたのか?)

・冴鬼は式神であること(安倍の苗字がついているのはいい鬼!)

・ぼくの血縁に安倍晴明がいること(仮)

・この土地は集まりやすいこと(アヤカシ?)

・銀水先生はアヤカシの研究者・冴鬼の保護者(一緒に生活?)




「……って、これだけ?」


 橘の声が痛い。


「……え? 新先輩、呪いかかってるの!?」


 ノートを手に立ち上がって驚いているけど、なんでぼくをにらんでくるの……?


「ちょ、ちょっと、教えてよ!」

「え、いや、話そうと思ってたけど……」

「遅すぎだし」


 得意の地団駄がでる。

 勢いよく逆方向へ首をまわした。


「こっち見なさいよ!」

「じゃ、地団駄やめて」


 バフッとスカートを手でおさえてるけど、ちょっと顔が赤い。

 こういうところは可愛いかも。


「その、日曜日、野球観戦の帰り、駅の線路沿いを歩いてたときつむじ風に当たったんだ。橘先輩はどこで?」

「ユリちゃんはピアノの日で、駅からの帰りだったはず」

「もしかすると、場所は同じかも……」

「場所は同じでも、なんで別々に呪いにかかるんだ?」


 冴鬼の声に思考が止まる。

 呪われた場所に、発動条件があるのかもしれない。

 でも、線路沿いの道は住宅街へつづく道路だから、もっと呪われた人がいてもおかしくない。


「ねぇ、なんであんたは呪われてないの? おかしくない?」


 これはぼくも考えていた。

 仮にぼくが呪いが見えたとして、避けることができたのか?

 ……あのつむじ風から呪いの色は見えなかった。


「あ〜……なんで兄と橘先輩が呪われて、ぼくが呪われてないの?」

「あたしに聞かないでよ!」

「だが、あの場所の黄昏刻でないと呪われないのは間違いないだろ」

「うん。その前の日も兄と買い出しで駅に行ったけど、つむじ風はなかった」

「じゃ、書きたそうよ」


 橘の丸文字がつけたされる。


・場所は、駅の線路沿い

・呪いは黄昏刻じゃないとかからない

・他に呪われた人がいるかも?


「他になんかある?……つか、安倍くんが式神って、何?」


 ぼくの目はおよぐけど、銀水先生と冴鬼は、そしらぬ顔だ。

 ……ぼくが説明しろってことね。


「完結にいうと、おまじないをしたら、冴鬼がでてきたって……こと…で……」

「は? 意味わかんない」


 ぼくもです。


「まあ、蜜花よ、そうカリカリするな。わしにはあやかしを倒せる力があるってことだ。十分、頼るといい」

「へぇ、そういうこと。なら、安倍くんがリーダーの方がよくない?」

「ダメダメ! 冴鬼はダメだよ~! ぜんぜん常識ないから」


 割ってはいった銀水先生が、大きく腕をふって否定してくる。


「フジ、お主より、わしは常識人だぞ」

「なわけないでしょ?」

「たわけ、キツネ顔!」


 この2人の関係性が未だにつかめない。

 仲はあんまりよくないことだけ、わかってるけど。

 でも言い合えるくらいの、仲がいいのもわかってる。


「ほら、いいから、先生も冴鬼も! もう一度整理しよ」


 先生は郷土資料の棚に行くと、昭和初期の地図と現代の地図を抜きとって持ってきてくれた。


「よし、みんなみて。なんかちがいある?」


 指でなぞって駅周辺をみてみるけど……


「あたし、ぜんぜんわかんない!」

「わしもこういうのは不得意でな」

「ちょっとは考えてよーっ!」


 半泣きのぼくの肩を橘が叩いてくる。


「ね、呪いって、どっかに入ってたり、する?」

「なんで?」

「駅前周辺って、ほら、駅のないとき、なんか建物ある」


 現代版の地図の隣にある複数枚の写真に昔の駅前写真がある。


「なんだろ、これ……祠……?」

「そうだね、これ、祠だね」


 銀水先生の断言はぼくの心を加速させる。


「じゃ、この祠をどうにかすればいいんじゃない?」

「そうかもしれない! すごいよ、橘!」


 さっそく、駅に向かおうとするぼくたちだけど、銀水先生は不安げだ。


「そうは問屋が卸さないってね。祠の場所は移動してるだろうから、冴鬼、しっかり守ってあげてね」

「頼まれた。わしは凌の相棒だからな! 凌のことはしっかり守るぞ!」

「あたしは? ねぇ、あたしは?」

「猫をさわらせてくれたら、守ってやらなくもない」

「なんでそんなのが条件? 無条件で守ってよ!」

「それは無理な願いだ。猫をさしだせ」

「無理! うちのチャロは人見知りするもん!」

「じゃあ、なしだな」

「ケチ! ケチ、ケチっ!」

「橘、地団駄、踏まない!!」



 ぼくたちで、解決できるんだろうか……?

 いろんな意味で。


 とにかく、行ってみよ。

 今は行動あるのみだ!

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