第十四話 火曜日 夕の刻・肆 ~やるべきこと

「みんな、この帝天には五つの神社があるのをご存知?」


 帝天山の山頂にある木場きば神社、炭屋の集落があった場所にある日向ひゅうが神社、田畑を見守るようにあるのは土田つちだ神社、市街地にあり金の神様としてご利益があるという金盛かなもり神社、帝天河中腹にある水川みずかわ神社をさす。

 すべて昔からある、ただの神社だ。


「この神社の場所をなぞってみると、この星になるはず」


 橘はスマホをとりだすと、地図のアプリを開くと、神社と打ちこむ。

 茶色の神社の吹きだしが次々に現れてくる。


「先生、これ、星にならないけど?」


 橘のいうとおり、右下のポイントに位置するはずの金盛神社が、中央にかなりずれている。

 これじゃ、台形にしかならない。


「……でも、金盛神社、ここだったっけ……?」


 ぼくが記憶をほりかえしていると、銀水先生が優しく笑う。


「よく気づいたね、凌くん! ぼく、そういう子、大好きっ」


 細い指でぼくの頭をさらさらとなでてくる。

 なぜか冴鬼も頭をなでてくる……。


「なんで冴鬼もなでるんだよ」

「賢い御主おあるじは嫌いじゃないぞ、わしは!」


 手で払うとにらんでくるけど、先生のほうに目配せすると、しかたないというように、先生に向きなおった。


「金盛神社は、市街地のど真ん中にあったんだけど、大型のアーケード街をつくる関係で移動させられたの」


 ほこりっぽいテーブルに両手をついた先生は、ぼくらを見すえる。


陰陽師おんみょうじはこの星型、五芒星ごぼうせいっていうんだけど、これをつかって、占いや、それこそ妖を封じこめる結界をつくっていたの。その五芒星が描けなくなった土地は、あやかしが集まりやすい。逆にいうと、五芒星で閉じ込めていたものを解放することにもなったんだ」


 おもわず息が止まる。

 ぼくと橘の視線が重なった。


「ということは……」

「……ユリちゃん、このせい、ってこと?」


 銀水先生は口元だけ笑ってみせる。


「でも、先生、そしたら呪いは無差別にかけられてるってこと……?」


 ぼくの問いに、先生は首を横にふった。


「そこまではわからない。ぼくもビックリしたんだぁ。冴鬼は出てくるし、百合花ちゃんは呪いにかかってるし……。だからとにかく、ボクがこの司令室から指令をだすので、しっかりこなして!」


「「「……は?」」」


 初めて3人の心がそろった気がする。

 3人の心の声は、まちがいなく『なにいってんだ、こいつ』だ。


 橘の目は呆れているのか怒っているのかわからないし、冴鬼の目も同じ。

 そして、ぼくも、だ。


「……ちょっとなによ、その顔! 3人で!! ボクはひ弱だし、調べる担当だし。司令官だしっ!!」

「いつから決めたの、それ。司令官なら、あたしがなるし!」

「だいたいどこから手をつけたらいいかもわかんないのに……」

「わしは凌についていくぞ!」


 思わず脱力してしまう。

 もう、火曜日・・・なんだから、こんなことしているヒマなんてない!


「今、こんなことしてるヒマないって思った?」


 銀水先生の人さし指がぼくの鼻をつつく。


「……いっ」

「たしかに時間はないけど、一人じゃムリじゃない? 仲間は君ふくめて4人になった。けっこう強いと思うよ?」


 確かにそうだ。

 ぼくは深呼吸する。

 今一番やらなければならないことは……


「……よし、まとめたノートを見かえして、呪いがどこからきたのか、考えなおしてみない?」


 ぼくは改めてノートを広げなおす。

 ここに、次にしなきゃいけないことが、絶対あるはずだ!

 

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