第十一話 火曜日 夕の刻 ~今わかること
午後の授業は歴史の授業。
とりあえず、ノートを二冊並べても問題はない。
「まず時系列を……」
日曜日の夕方 兄【呪】
月曜日 新兄(両足)+ 橘先輩【呪】
火曜日 新兄(両足右腕)+ 橘先輩(両足)
水曜日 新兄(両足両腕)+ 橘先輩(両足右腕)
木曜日 新兄(両足両腕体)+ 橘先輩(両足両腕)
金曜日 新兄(両足両腕体頭)+ 橘先輩(両足両腕体)
土曜日 新兄(両足両腕体頭首)+ 橘先輩(両足両腕体頭)
日曜日 新兄(×)+ 橘先輩(両足両腕体頭首)
【わかったこと】
・呪いが複数人いること(どうして増えたのか?)
・冴鬼は式神であること(安倍の苗字がついているのはいい鬼!)
・ぼくの血縁に安倍晴明がいるらしい(仮)
・この土地は集まりやすいこと(アヤカシ?)
・銀水先生はアヤカシの研究者・冴鬼の保護者(一緒に生活?)
……書いているだけで気が滅入ってくる。
もう、火曜日だ。
一体、土曜日になったら兄はどうなるのか……。
今現在は、兄たちの体はダルさぐらいですんでいる。
だけど、どんどん呪いが重なってくるとすると、体に影響も多いはずだ。
早く解決しないと……!
ゆらりとカーテンが舞う。
そのたびに白い日差しが教室にそそぎこまれる。
夏にならない今の日差しは、強いけどあたたかくて気持ちがいい。
カーテンとカーテンの間。
青い空がきりとられている。
窓の外に、人……?
………いる!。
目が合ってしまった……!
まずい。
気をゆるめすぎた!
あの中学生の幽霊君は、好奇心がある。
だって、毎日教室のぞいてるし。それに、すっごい笑顔だしっ!!
手がかかった。教室に入ってくる気だ……。
どうしよう……。
少年は腕より細い窓のすき間にずるりと体をすべらせ、ずるんと床へと落ちると、一瞬止まる。
だけど、ぐるんと回った目はぼくに。
体をくねらせながら、机と机の間をぬって来る。
蛇のよう。顔はにっこりと笑ったままだ。
ずっと視線が離れない。
真っ黒な目が、ぼくをとらえて離れない……!
寒い。寒い!
……怖い!
怖いよっ!
どうしよ……っ!
もう、となりの机の横にいる。
一度確認するように顔をのぞきあげている。
……後頭部が崩れて、ない……!!
『いま、おれと、めがあったね!』
胃袋をひっくり返したつんざく声が、頭のなかにひびいてくる。
どうにかやりすごしたくて、目をつむるけど、声は聞こえ続けている。
『見てたよね? 見てたよね? 見てたよね? 見てたよね? 見てたよね? 見て』
急に声が止まった───
うっすらと目を開けると、ぼくの前に冴鬼の腕がある。
その腕をたどっていくと、目つぶしをされている幽霊の顔が………!!
「……ひぃっ!」
思わず椅子から転げ落ちたぼくに、クラスのみんなは笑っている。
冴鬼はただ昼休みの怒りをひきずっているのか、仏頂面だ。
目潰しをくらったからか、冴鬼の力なのか、白い煙になって消えていったけど、まだ心臓がばくばくしてる。
「土方、貧血か? 保健室行くか?」
「……い、いえ、大丈夫です」
座り直したぼくに、冴鬼はちいさくため息をつく。
「……あの程度で怖がられては困る」
「しょうがないだろ。ぼく、昔っから怖がりなんだ……」
───ぼくは怖がりだ。
これはずっと変わらない。
だけど、人じゃない人をみても、驚かないようになりたい。
もっと、兄みたいに、毅然としていたい!
本当は、兄の呪いだって怖いんだ……。
さっきだって怖くて怖くてたまらなかった。
足が震えているのがわかったし。
胃が冷えていくのも感じた。
だけど、兄のためだから頑張る。
兄の呪いだから、立ち向かえる……!!
だって、兄のヒーローに、ぼくはなりたいからっ!
「……ぼくが助けるんだ……!」
小さい声でも出さないと呪いの恐怖につぶれそうだ。
本当に、冴鬼のいうとおり。
この程度で驚いたり、怖がったりなんてしてられない。
ぼくが倒さなきゃいけないのは、死の呪いなんだ───
「凌よ、お主、まとめるのがうまいな」
「ちょ……声、大きいって……!」
冴鬼は書きあげたノートをとりあげ、ひとり楽しそうにながめている。
「土方、安倍、楽しそうだが、今、授業だからなぁ」
……やっぱり、冴鬼には、学校のルールをとことん教えるべきかも……。
でも、まずは放課後。しっかり話を聞かないと!
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